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わたしと母と

書き貯めしながら、修正加えてたら2ヶ月も立ってる!? 

も、申し訳ありません…! まだ出来てるわけではありませんが、直しは必要ないだろうと思う所までですが、投稿させて頂きます。


 四〇五号室。それが母の病室だった。


 その薄い板からコツコツと軽い打音を響かせて、病室の戸を数回叩く。けれど返事は無く、わたしは後ろの彼を一瞥すると静かに引き戸を引いた。濃い薬品の臭いが鼻の奥をつんと刺激する。


 母は、その体に癌が発覚してから何度目かの手術を受けて、今は深く眠っている。それから半月が過ぎた。

 初め、お医者さんは『一週間もすればお母様は退院出来るでしょう』と言っていたのに。母はまだ目覚めそうにない。


「失礼します」

 後ろに続く彼は、病室に一歩足を運ぶと、一つお辞儀をした。とても綺麗はお辞儀。病室の窓からは昼間の太陽が顔を覗かせていた。

 わたしは彼から渡された赤と黄色の切り花を花瓶に移してから、母のベッドの側に並べられていたシンプルなパイプ椅子の一つに腰を下ろした。

 彼は顔を上げると、戸を閉めてからわたしの横で母とわたしを交互に見て口を開いた。

「お母さんに似ているね」


「……昔からよく言われます。顔も性格も母親譲りだね、って。……でも、わたしはお父さんっ子だったんですよ。小さいころから、……たぶん今でも」


「お父さん、今は――」

「いないです。父は五年前に、癌で」


「ごめん」


「もう今更な話ですよ。だから、どうぞ気にしないでください」 


 父への感情を誤魔化すように笑顔を作ると、それもすぐに辞めてわたしは母の毛布にそっと右手を添えた。乱れた毛布を母の肩まで引き上げると、わたしはすぐに椅子を離れて母のベッドを大きく回り、病室の窓にそっと手を伸ばした。鍵に指をかけて、大きく窓を開ける。

 生暖かい夏の風が、病室に漂っていた薬品臭を押し出して部屋に流れ込んでくるのが分かった。端に寄せられていたカーテンが大きく靡く。振り返ると、彼と目が合った。


「風が、気持ちいですね」


「秋が近いからね。夏ももう終わりだ」


「そうですね。わたしは秋があまり好きでないので、ちょっと残念です」


「なら大丈夫。今年の秋はおっとりしているから、きっと本格的な秋を感じる頃には冬が見えてるよ」


「おっとりとした、秋ですか」


「ま、朝のニュースの受け売りだけどね」


「そういえば、わたしも見ましたよ。それ」


「正直、あのコメンテーターは苦手なんだよね」


「厚顔ですよね」


「喋り方ものっぺりとしてる」


 ほんのりと彼の口元が緩む。わたしも釣られて頬が緩んだ。けれど、それは少しの間だけ。

「あ、でもわたし冬も苦手です」


「それは困った。どうしよう」


「どうしましょう」


「困った、困った」


「こまりましたね」


『――ふっ』


 二人して声を堪えるように小さく笑う。それでも彼は横で静かに眠る母に気を使ってか、すぐに頬を引き締めた。それがまたおかしくて、わたしは咄嗟に右手で口元を覆ってしまう。


「いいですよ。母は固い人でしたが、笑わない人ではありませんでしたから」


「ありがとう。でも、やっぱり悪い」


「そうですよね」


 母を見ながら言葉を零した。ベッドの側に置かれていたデジタル時計の数字が五時を過ぎようとしている。病室に入ってから十数分が経過していた。


「ちょっと早いですけど、そろそろ」

 ――もう、帰りませんか? とまでは言えなかった。けれど彼は一つ頷いて、わたしに背中を向ける。


「さきに出てるよ。廊下で待ってるから、あぁ気にしないで」


「ありがとうございます」


 綺麗なお辞儀一つを残して彼が扉の向こうに消えてからも、わたしはそこでしばらく夏の穏やかな風を体に浴びていた。まだ五時を過ぎた頃だというのに、オレンジ色に染まる夏の空には黒い影が滲んでいる。

 無惨にもちぎられた雲があちこちに散らばる中で、どこまでも見通せてしまうような朱色の天上に、彼の言葉通りそっと歩み寄る秋の存在を感じせられた。


 わたしの思いとは裏腹に、母は穏やかな表情でその瞼を落としている。ずっとずっと、もう半月は過ぎてしまった。


 時々わたしは想像してしまう。母がもし、このまま永遠に目を開けてくれかったら――と。


間を開けてしまい、申し訳ありません! 

あまりの時間の流れの速さに驚きます…。

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