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返ってきたのは、幼なじみの笑顔

 誕生日のことだった。

 みんながお祝いにと、様々なプレゼントをくれる中、一人だけ、ぜったいに物をくれない少年がいた。

 どうしてか聞いたら、物を贈るのは、相手も自分も縛るような気がしてできないのだそうだ。


「だから言うよ。誕生日、おめでとう」


 いつだって少年は、そう言って、笑ってくれた。










 朝食をとり終えて、二人は町に出ることにした。

 町が一体どういう状況なのか、何か困っていることはないか、聞いてみようということになったのだ。

 太陽が半分くらいまで登った、遅い朝。

 明らかに旅人な二人は、商人のおばさんに呼び止められた。


「二人で旅行かい?」

「いいえ。仕事よ」


 長い金髪を高い位置で結った少女は、首を振って即答する。

 隣にいる、無造作な金髪の青年は、ただ黙って少女の言葉を聞いていた。


「ここまで来たんなら、オブルミの森の方へは回ってみるのかい?」

「オブルミの森……、山の向こう側にあるんだっけ」

「そうそう。二大公爵家のルミエハとオブスキィトの本邸が、森を挟んで二つあるんだ。あの家はやっぱり、建国者アンリの兄弟の血筋だから、仲がいいしねえ。もう、少し血は遠くなっているけれど、やっぱり、ルミエハとオブスキィトには、兄弟意識があるんだと思うよ」

 

 ふと、彼女の言うオブルミの森に想いを馳せる。

 レンティシアは十日間だけしか自由を許されていない。

 オブルミの森に行くには、山を迂回していかなければならないため、もし向こうまで足をのばしてしまえば、王都に十日では帰れなくなる。

 

「仕事でここまで来たので、オブルミの森には行けないの」

「そうかい。残念だねえ。あそこの二つの侯爵家の当主は、本当にいい人たちなんだよ」


 民から慕われる領主。

 同じ上に立つものとして、王宮の中ではなく、本当に彼らが領主としているところを、こっそりのぞいてみたい気はする。


「ところで、最近、困ったことってない? 私たちはそれを調べて、解決、あるいは上に報告して対処してもらうんだけど」

「うーん。騎士さん方に頼むことか……。ああ、最近の、特に、国王陛下が亡くなられてから増えてるんだけどね」

 

 どこかで聞いたことのある台詞に、レンティシアは心の中でがっくりと肩を落とす。


「どうにも賊がよく出るようになっちまってさ。この町の薬屋が、薬草が危なくて取りに行けないとぼやいてたよ」

「賊が……。やはり、王が不在だと、そういうことになるのかしら?」

「そうだねえ。まあ、でも、次の女王になるミオ王女は、なんでもえらい優秀らしいじゃないか。あと一か月だから、どうにかなると思うけどねえ」


 寄せられる国民からの期待。

 これを全て受けて立つのは、自分自身。


「ちなみに、その薬屋がどこにあるか、教えてもらえますか?」


 その重みを感じて、動けなくなったレンティシアの代わりに、ギルが問う。


「それならあっちだよ」


 おばさんに教えてもらい、二人は薬屋へ向かうことにした。

 王宮内での評価ではない。民からの直接の評価。評判。

 それは予想外に心に響き、そして、それらすべてを、自分自身で担わなければならない重さを、強く、感じていた。


「ったく……ひどい顔だな」

「は?」


 予想外の酷い言葉に、思わず目を丸くする。


「前向いて歩けよ。背負うと決めたなら背負えばいい。でも、お前はお前にしかできないことをやりさえすれば、周りは満足する。代わりがきくことは、他のやつにやらせろよ。すべての責任を背負おうとするな」


 まるで、レンティシアの心情をすべて読み取ったかのような発言。

 これだから、甘えてしまうのだ。これだから、彼から離れられないのだ。

 実際の距離は、人一人分の距離があったとしても、レンティシアの心の距離は、いつだって、彼に寄り添っている。

 それがたとえ一方的なものだとしても、だ。


「ずるいわね、ギルは。そんな一言で、いつだって私を立ち直らせる」

「当たり前だ。……いつだって、見てるからな」


 付け足すように言われた言葉に、おもわずギルの方を向けば、彼はどこかあさっての方向を向いて、前を見ないと転ぶぞ、なんて言って見せた。

 本当にずるい。

 自分の一言が、どれだけの破壊力を持っているのか、本人は自覚しているのだろうか。


「着いた。ここだな」


 さきほどのおばさんに言われた店に、足を踏み入れる。

 店に入った途端、薬の匂いがして、それが、風邪の時に飲まされた、苦い薬を彷彿させて、思わずレンティシアは眉をひそめた。


「いらっしゃい。騎士さんかい?」

「ええ。仕事でここに来ていて、困ったことがないか聞いて回っているんですが」


 ギルが要件を切り出すと、カウンターの向こうにいた、薬屋の主人は、カウンターからわざわざこちらに回り込んできた。

 ギルが自然な動作で、レンティシアを背に庇うように立つ。

 店内に二人のほかに、客はいない。


「聞いてくれよ! 賊が増えちまって、薬草が取りに行けねえんだ。あいつらどうせ薬草と雑草の区別もつかねえんだから、もっと他の、薬草が生えてない地域に行ってくれりゃあいいのによ」

「それで、薬草はどうしてるの?」

「最近は商人から買ったり、物に寄っちゃあ、傭兵に頼んで、一緒についてきてもらうんだ。ただ、この前はそれで死にかけてさあ、大変だったんだぜ」


 二人は薬屋の話を聞いて、少し調査が必要だという結論を出した。

 解決するか、報告するか、もう少し他の人の話を聞いて考える旨を伝えたら、薬屋の主人は、とても喜んでくれた。

 そして二人はまた、町のなかへと戻っていく。

 町でいろいろと聞いて回れば、細かいことですぐに対応できるものもあったのだが、やはり賊の問題は、民の頭を悩ませているようだった。

 三日目の今日は、ひたすらに聞き込みで終わった。

 少し、疲れた。









 聞き込みを終えて、宿の部屋がもう一つ空いたことを告げられて、ギルは荷物を異動させた。

 昨日の夜は、距離があったというのに、なかなか寝付けなかった。

 食事のため、向かい側に座っている、長い金髪を高い位置で結っている少女は、どうにも、ギルを人畜無害の青年だと思っているようだ。

 長年の付き合いで想いつづけている少女が、同じ部屋で眠っているのに、どうして平常心でいられるというのだろうか。

 それでも、どれだけ想っていたとしても、ギルは決して少女に触れない。

 触れてしまえば、すべてを自覚してしまいそうで。

 女王になる覚悟をしている少女の、行く末を邪魔してしまいそうで、できなかった。

 彼女が女王になることを望み、そして、ギルが騎士であることを望むのなら、永遠にだってギルは彼女の傍にいるだろう。

 ふと、少女の表情をうかがう。

 疲れたのだろうか。表情が、顕著に物語っている。


「疲れたのか? 明日は朝、少し遅くてもいいぞ」


 ためしにそう言ってみれば、驚いたように、それでもわずかに嬉しさをにじませて、少女は首を横に振る。

 レンティシアは、いつだって王女として、一人で立っている気がする。

 ギルの言葉に嬉しそうにして、ギルに対して、ある程度の感情は抱いているように見えるのに、彼女はそれでギルを振り回そうとはしない。

 あくまでも立場をわきまえて、行動している。

 ギルもそうするから、二人は平行線なのだ。

 近いけれど、遠い。

 このテーブル一つ分の距離より、もっと。


「王って、一人ね」


 ぽつりとレンティシアがつぶやいた一言が、まさにギルが考えていたことで、少し驚いた。

 

「私、それを嫌だなんて思ったことはない。それでも、さみしいわね」


 そう言って自嘲する彼女を、抱きしめてなぐさめてやりたくなる。

 それでも、そんな行動が、また、彼女を苦しめることに、そして何より、自分を苦しめることになるのだから、決してできない。

 不可侵なのだ。


「……横に並べる奴は、いないだろうな」


 本当の意味で、女王の隣に立てるものなど存在しない。

 王はいつだって、一人だ。


「でも、斜め後ろには立てる。寂しいなら、いつだって、俺が寄れる一番近い距離で、お前の斜め後ろで、俺が立っててやるよ」


 こうやってレンティシアを言葉で励ます時、自分の台詞に恥ずかしくなって、思わず、彼女の強い意志のともる碧い瞳から、目をそらしてしまう。

 

「……ふふっ」


 真剣に言ったのに、予想外にも笑われて、思わず視線を戻した。

 二人の視線が絡み合う。


「最近、優しいじゃない。……ありがと」


 目の前で笑ったのは、王女ではなかった。

 ただのレンティシアが、ただの、幼馴染が、満面の笑みを浮かべていた。


なんとなく、この小説のイメージは、透明。


透明な世界を描いてみたいと思ったのです。

たぶん、十数話以内に完結します。


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