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二人の想いは重なって

 朝、目が覚めたら、なぜかベッドの上だった。

 レンティシアは、体を起こしながら、ぼんやりと宙を見つめる。


「あっ……!」


 そして、昨日の記憶を一気に取り戻す。


「確かめなくちゃ」


 酔った勢いで、秘めていた想いをすべてギルにぶつけてしまった昨日。

 それでも最後にギルからもらったような気がする言葉が、なんとなく頭の片隅にある。

 それは現実だったのだろうか。

 それともレンティシアの都合の良い夢だろうか。

 急いで着替えを済ませて、宿の食堂へ足を運ぶ。


「お、おはよう」


 すでに席についていたギルに、少しどもりながら声をかければ、ギルはふっと笑って挨拶を返す。


「おはよ。酔いは覚めたか?」

「おかげさまで。運んだのは誰?」

「サガだ。俺が頼んだ」


 その返答に、がっかりしたような、少しだけ安心したような気持ちになる。

 ギルに運ばれている状況で、自分がぐっすり熟睡していたなんて、もったいないと思ってしまったからだ。

 それにしても、サガに頼んだということは、彼はそれなりにギルの信頼を得たのだろう。


「あいつだけだからな、知ってるのは」


 そんなレンティシアの思考を読んだかのように、ギルはあっさりとそう返した。

 いつものように進む朝食。

 レンティシアは、まだ、聞けなかった。





 宿を出て、再び、フィリエの東町を目指して、町を出ようとした。


「帰るのか?」

「サガ! ええ。帰るわ。昨日はありがとう!」

「いや、それはいい」


 サガが、そういって、レンティシアに少し近づく。

 最初の日と違い、ギルはそれを制止しようとはしなかった。


「言いたいことは言っとけよ。全部、な。そして、聞きたいことも聞いとけ」


 小さな声で言われたその言葉に、昨日のことを知っているのかと問うか悩んでから、結局、問わずに、ただうなずいた。

 その小さな後押しが、うれしい。力になるのを感じる。


「また、機会があったら利用するかもしれないわ」

「ははっ、そりゃいい客だな。ま、がんばれよ」

「そっちこそ、仕事で死なねえようにな」


 サガにいたずらっぽく笑って言えば、サガは笑い、ギルも冗談めかして彼に言葉をかける。

 そして、二人はフィリエの西町を後にした。




 


「休憩!」


 そういって馬を止めて、木陰で少し伸びをする。

 ギルもそれにならって、馬から降りて、体を適度に動かした。

 

 さきほどのサガの言葉が頭をよぎる。



「ねえ」

「ん?」

「昨日の言葉、本気?」


 まっすぐに目を見て言えば、少し驚いたような顔をして、そして、彼は笑ってうなずいた。


「覚えてたんだな。酔っぱらい姫様は」


 ギルのからかいの言葉さえ、もう、まともに反応を返せない。

 レンティシアは幸せだった。


「好かれてるなんて、思わなかったわ」

「ばーか。お前が鈍すぎるんだよ」


 あきれたように、それでも優しい表情で、ギルが言う。


「ありがとう。ギル」


 その思いを抱きしめるようにして、ぎゅっと目を閉じて、前を向く。







 二人はフィリエの東町に再びいた。

 ミーアが喜んで出迎えてくれ、再びそこに宿泊することになった。

 夕食を食べ終わり、ギルは夜風にあたろうと、外に出る。


「あ、ギルさん」


 そういって話しかけてきたのは、ミーアの父親だった。


「ああ。すみません。ただで両方とも泊めていただいて」

「いえいえ。お二方は命の恩人ですから」


 にこやかにミーアの父親は笑って、そして、いう。


「若いっていいですねえ」

「え?」

「お二人はお仕事なんでしょうけれど、それでも、どこかお互いを大切にしている様子がうかがえます」


 ミーアの父親の言葉に、ギルは苦笑する。

 はたからみれば、そんなにわかりやすいものなのだろうか。


「若いうちにしか、できないこともありますから。若いときには、無茶をしてみるものですよ」

「はい?」

「たまには仕事を放棄して、二人でデートも悪くないかと。若いうちは、感情のままに生きてみるのがいいいですよ」


 意味ありげに笑いながら、ミーアの父は去っていく。

 すでにこれがデートのようなものだと言ったら、どんな反応を見せるのだろうか。

 

 すでに互いにそれぞれ婚約者がいるといったら、どんな反応を返してくれたのだろうか。







「明日で最後……」


 レンティシアは星を見ながらつぶやく。

 明日は、最後の日。


 レンティシアが、ただのレンティシアである、最後の日なのだ。

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