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<優しくするとろくな事がない件>

 山賊退治はあっさり終わった。

 色々考えてたのが馬鹿らしくなるほど、あっさり、さっくり終わった。


 「案ずるより産むが易し―――ってことだな」

 「なの!」

 「……ど、どういう意味さ?」


 「……ど…なっ…!?」

 「……お…い!?」

 「ツルハ……持っ……無い……!?」

 

 「ん? ああ、グダグダ考えるよりやってみたほうが簡単って意味だ」

  ―――しかし、どこで寝るかが問題だな」

 「そ、そこらで良いんじゃないの?」


 「出れ……い…!?」

 「……も…終わ…だ」

 

 「んー。もうちょっと奥に設置するべきだったかな?

  まあいいや、もう遅い。とりあえず火を起こしてくれ」

 「わ,わかったよ。ちょっと薪を拾ってくる……来ます!」

 

 薪を拾いに行ったライカを見送る。

 チラリと後ろを振り向くと、岩と土砂で出入り口が見事に埋まった洞窟―――山賊たちの拠点が見える。

 土砂の向こうから、山賊たちの悲痛な叫びが漏れ聞こえるが、気にしない事にする。


 ライカに先導され、拠点に付いた時。そこに一人、見張りが立っていた。

 まずは隠れ。幼女様に先行偵察を頼んだ。


 妖精神の姿を見れる者は殆どいない。

 声はどころか、気配ですら感じることが出来るのは、敬虔な信者くらいだ。

 山賊ごときに知覚される訳が無い。


 そうして、偵察任務を終えた幼女様から内部の様子を聞き。

 あらかじめ立てていた作戦を決行する。


 ライカに、けが人が出たと見張りに声をかけさせ、隠れてる場所に誘きだす。

 誘きだす場所に、山賊の死体をあらかじめ用意しておく。

 死体を見つけ、そちらに気を取られてる隙に、背後から二人がかりで襲う。


 これで見張りは終了。


 だが、思いの外大きな悲鳴が上がったため。中の奴らに気づかれた。

 慌てて、洞窟の入口に戻り。出てこようとしている山賊に先駆けて、幼女神様に預けていたモノを出してもらう。


 ―――拠点に行く前に寄り道した、がけ崩れしてる場所から回収した。大量の土砂を、だ。


 これで残りも終了。


 ライカからの事前情報。それに追加して、幼女様の偵察により、ツルハシとか土砂を崩すのに便利な工具が洞窟内に無いのは確認済。

 ついでに、裏口的なモノも空気穴も無いので、山賊たちの生き埋め窒息が確定した。

 

 事前準備に、土砂を小分けしながら岩や石を掘り起こすのは大変だった。

 スコップどころか軍手すら無かったから、当然のように指や手がボロボロになったが、結果は上々。

 その怪我も、ポーションで回復させたので、破傷風とかの心配も無い。


 ―――と、言うかこの霊薬。何げに高級品っぽい。傷だけじゃなく体力も回復したんだが……。


 「あ、集めてきたよ!」

 「そいじゃ、火をつけてくれ」 


 ライカは手馴れた様子で薪となる枯れ枝を組み上げると、胸の前で両手の指を複雑に絡め。ブツブツと呟き始める。


 「ルゥ、燐寸箱マッチを用意……いや、要らないか」

 「なの?」

 「―――に於いてマナに命ずる。発火ティンダー!」


 胸の前で組んだ手を離し、目標を定めるように指を差す。

 指先が仄かに輝き、指し示した先に組んである枯れ枝に火が点る。


 「便利なものだな」

 「え? あんた……あなたは使えないの?」


 「―――その魔法は使えない」

 「ふーん。精霊でも無理なの?」


 「可能だ。条件が整ってれば、だがな」

 「以外に不便なんだ……なんですね」


 嘘は言ってない。

 火を起こすには火精サラマンデルの力が必要だが、火精は火の気の無い所には存在しない。

 つまり、何もない状態から火をつけるのは精霊魔法エレメント・ルーンでは不可能だ。

 だが、ほんの僅かでも種火があるなら、それを拡大して大火事を起こすことも可能となる。


 制限や制約は多いが、効果が高い。それが精霊魔法の特徴と言える。


 ―――俺は、使えないがな!


 対して、ライカが使ってるのは、この世界で最もポピュラーな魔法で、呪紋魔法ルーン・マジックと呼ばれるものだ。


 特定の形で指を組む、指印サインと、特定の呪文スペルを唱えることで行使される基本的な魔法らしい。

 幼女様曰く、無駄がとても多く非効率的だけど。その分、使いやすくて覚えやすい魔法だとか……。


 ―――俺は、使えないがな!!

 

 無駄が多い。つまり応用の余地がある訳で、術者の個人差が如実に出る魔法系統だそうだ。


 指印の代わりに、魔方陣ヘキサグラムの刻まれた、発動具カタリストを使ったり。

 詠唱を省略して、無詠唱で魔法を使ったり。

 複数人で呪文を合唱して、本来以上の効果を上げたり。

 時間を通常の倍以上かけて念入りに唱えることで、本来使えない高位の魔法を発動させたり。

 指印も、魔方陣も、詠唱も省略して、ノーモーションで魔法を使ったり。

 

 色々と個性が出るらしい。

 ―――最後のノーモーションは、人間には無理っぽいな。


 魔力回路ゲシュタルトやら、魔導器官ソーサルコアなどが体内に存在しないと魔法は使えない。

 人間には、魔力回路も魔導器官も存在しない。 

 だから、それを補うために、指印やら魔方陣を使い。代用として魔法の基点とするのだ。


 ―――俺には、関係ない話だけどな!


 「さて、落ち着いたところで、明日からの事を話すとしよう」

 「なの!」

 「は、はい!」


 焚き火を囲い、背後の洞窟から、微かに聞こえる怨嗟の声をBGMに、会話を始める。

 

 「アイツが何者で、その後を継いだ俺が、何をしようとしてるか―――それを話したいが、長くなるのでコレは後で良いか……」

 「……」


 正直に話しても、信じる訳ないしな……。

 追々、状況見ながら話していくのが妥当かな?


 「そうだな、とりあえずこの先にある町に行く予定だが―――不都合はあるか?」

 「な、ないよ……ないです」


 「お前は、手配されてないのか?」

 「―――あたしは正式なメンバーじゃなかったから、大丈夫……です」


 「手伝えとは言ったが、正直、俺はおまえに期待してない」

 「!?」

 「何か当てが有るなら、そっちを優先しても良いが―――どうする?」


 無理やり同行させて寝首を掻かれるくらいなら、円満に別れた方が良い。


 「それと、預かった遺体を埋葬するまでくらいなら、付き合っても構わない」


 まさか背負って移動するわけにも行かないので、ライカの父親の遺体は俺が“借りて”、幼女様に預かってもらっている。


 ―――ていの良い人質? であるのは否定しない。


 俺が死ねば、遺体も失われる。

 実際は、幼女様のモノになるらしいが、この際、それはどうでも良い。


 ようは、ライカへの抑止力になれば、それで問題ない。


 ―――実際は、返せと言われたら俺は即座に所有権を失い。

 幼女様も速やかに彼女に返すから、抑止の意味が無いのは秘密だ。秘密にしないと俺がヤバイ。


 「それで、当てはあるのか?」 

 「―――ないよ……ないです」


 「無理に敬語を使わなくても良い。気楽にとは言わんが、普通に話せ」

 「あ、えと。分かりまし……分かったよ、これで良いかい?」

 「ああ、それで良い」


 当てはない、か……。

 だったら、しかたがない。当てが出来るまでは、面倒みるとしよう。


 ―――俺より有能だけどな! 逆に面倒見られないように注意しないとな! ははは……。


 「……」

 「……」

 「……」


 微妙な沈黙が辛い!? 何か話題は―――。


 「あ、あの。一つ良いですか……いいかい?」

 

 今度は、無理して普通に話そうとしてる!? 天然なのか、脅しすぎたのか、どっちだろうな?

 だが、話題が出来るのはありがたい、続きを聞くとしよう。


 「あの……その、着替えたいんですけど……だ」

 「ん、着替え?

  別に構わないが、どうして着替える必要……が―――!?」


 ―――聞かなきゃ良かった!!


 顔を赤くして、モジモジしてる彼女から目を逸らす。

 あー、あー、あー。脅しすぎたんだった! シクジッた! マジ、ミスったわ……。

 

 俺に変な趣味はない。この状況は、ただひたすらに気まずいだけだ!


 「それで……その、着替えだけど……そこの中に……」

 

 オズオズと差し出した指が示すのは、封鎖された洞窟だ。

 怨嗟の声はもう聞こえない。諦めたか、窒息したか、どっちでも良い。


 ―――いまは、それどころじゃねー!?


 そりゃそうだ。着替えだけじゃなく、予備の武器とか彼女や父の私物も洞窟の中だよな!

 だが今、土砂を回収したらアウトだ。

 声は聞こえなくなったが、窒息するには、まだまだ早い。

 蓋を開けるとしたら、明日の朝だ。


 だが、着替えが居るのは今だ。明日では遅い。

 ―――山賊が着ていた服を流用するか?


 いやいや、男臭い汗臭いのは仕方ないが、血まみれで肉片付きだぞ? 使えんわ!

 

 ならばどうする?

 濡れた服を、焚き火で乾かして再利用―――これだ! これしかない!


 「着替えは諦めろ。今日のところは、そこで乾かして使え」

 「え? あ…………はい……分かった…よ」


 良し。これで解決だ。

 いやー、一時はどうなることかと―――って、あれ?


 ライカは、あからさまにうなだれた後。何か決心したかのように顔を上げると、ゆっくりと立ち上がり。おもむろに服を脱ぎ始めた。


 え? 恥ずかしくないのか?

 あーでも、年齢的には、まだまだ子供だから羞恥心はないのか?


 あれ? でもさっき、恥ずかしがってたよな?


 「―――あ、あの……初めてだから……優しくして……くれよ?」

 「……は?」


 ―――どうしてこうなった?


 「チョーップ!!」

 「痛っ!? 優しくして……って言ったのに……」


 「そういう問題じゃない!

  ―――ルゥ。マントを出してくれ!!」

 「なの!」


 「え? え?」

 「乾くまで、とりあえずソレを羽織ってろ」

 「え? でも……やらなくて…いいの?」


 「何をどう考えて、そういう答えになったか知らんが。

  ―――そういうことを、やらせるつもりはない」

 「そうなの? じゃ、手でもしなくていいの?」


 ―――ライカの親父! 娘に何やらせてんの?!

 

 「ちがう、なの」

 「いやいや、だからそういう問題じゃ―――え?」


 「はなしを、よくきく、なの」

 「ルゥ?」


 「え、えと大丈夫だよ? 父も上手だって、い、言ってくれたし……」

 「まさかの展開!? 手遅れなのは親父あんただよ!?」

 「だから、ちゃんときく、なの!」

 

 詳しく聞いたところ。

 手でするってのは、エロい意味でない、普通のマッサージのことでした―――手遅れは俺だった!?


 彼女の思考はこうだ。


 ここで乾かす=服を脱ぐ=裸になる=エロいことを望んでいる。

 だが、断られた。

 でも何もしないと、何されるか分からない。

 だったら、父に褒められたマッサージでもしよう! そう考えた結果がコレだよ!


 コミュニケーションって難しいね。ははは……。


 ―――

 ――

 ―


 お互いに誤解は解けたが、気まずい……。

 色々と先走ったのが恥ずかしいのか、ライカは顔を赤くして目を背け、ここで会話も止まっている。


 焚き火の対面に座ってる彼女は、全裸にマント。幸いマントが大きいのと、彼女が小さいので全身をすっぽりと包んでいるため問題はない―――が、別の問題がある。

 そんな彼女の前に、脱いだ服が干されているからだ。


 焚き火で乾かすため、地面に刺して立てた樹の枝に貫頭衣と下着が干されている。

 下着は、ドロワーズっぽいが、どちらかと言うと、子供用かぼちゃパンツに近いようなので、色気もなく興味も引かないのでどうでも良いのだが……。


 見られる方は違うらしい。

 下着に目線をやると、あからさまに恥ずかしがるのだ。


 仕方がないので、周りに目を向けるも広がるのは暗い森林と背後の岩肌の洞窟くらいだ。

 見るべきものはない。


 話すことは、だいたい話した。ぶっちゃけ話題が尽きた。

 気まずい雰囲気の中、少し早いが寝るか? と思い。ふと空を見上げる。


 満天の星空。何年か前に、友人達と山にキャンプに行った時に見た光景と同じだ。


 「―――あれは北斗七星かな?」

 「なの?」

 「?」

 

 死兆星は見えないな。良かったよかった―――って、北斗七星?!


 星座が地球と同じ? ここは、異世界じゃないのか?!

 ―――いや、平行世界ってやつか? だったら同じでもおかしく無いか?


 「なあ、ルゥ」

 「なの?」

 「色々と突っ込みたい気分なんだが、とりあえず一つ答えてくれ」

  

 星。つまり惑星や星系といった概念があるのか?

 宇宙について、どう認識しているのか?

 UFOや宇宙人はいるのか? などなど。


 疑問が色々と浮かぶが、どうでもいい。今一番気になるのは、夜空に燦然と輝く月のことだけだ。


 夜空を覆い尽さんとする満点の星空の中、それでもなお、存在感を魅せつける大きな満月。

 それでけでも目を引く理由としては十分だが―――今は違う。


 「―――なぜ、月が……砕けているんだ?」


 砕月。

 月食や比喩などではない。文字通り、月は―――砕けていた。

 

 幼女様はチートです。

 勇者様や少女の父は優秀です。

 少女や山賊達は普通です。


 主人公は―――です。


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