<情けをかけるとろくな事がない件>
少女の名前は“ライカ”。苗字は無い。
傭兵くずれの父に育てられ、母親を知らないまま育つ。
貴族の領地争い参戦して、敗北。敗走による生活苦から山賊へと転身した父と共に暮らしていた。
山賊団の人数は、少女とその父を含め32人。
彼らは傭兵くずれなので、山賊の中では手強い方に含まれ、近辺では恐れられてる。
拠点は山林の麓から少し登った所にある洞窟。
10人前後のローテーションで林道を見張り、カモを見つけたら襲撃を行っていたらしい。
そして今日。通りすがったカモ―――半妖精の青年を見つけたが、彼女は襲撃に反対した。
こんなところを一人で旅をしてる人が只者のはずがない、危険だ!
―――と、反対したが、彼が身につけてる物の豪華さに目が眩んだ、父を含む仲間たちに反対を押し切られた。
ならばせめてと、ちょっとした策。自らを囮とした策を提示して、それを実行した。
経過は上々―――されど、結果は最悪だった。
「つまりだ、まだ最低20人は仲間がいるんだな?」
「あ、ああ……、そうだよ」
戦意を完全に失い、出来立ての水たまりの上で項垂れてる少女から色々と聞き出したは良いが……。
―――色々と最悪だ!?
少女の状態は脇に置いて考えよう。
傭兵くずれってことは、一般人に毛が生えたレベルじゃなく。
残った山賊も、それなりに腕が立つ集団ってことだろ?
ただでさえ勝ち目はゼロだってのに、さらにマイナス要素追加かよ?!
少女を人質に―――ってのも無理だ。予想はしてたが彼女に人質の価値は無い。
彼女と父親。その二人と山賊団との関係はあまり良くは無かったらしい。
むさ苦しい男の群れに女一人。なのに彼女が無事だったのは、父親が強かったからだ。
それと、彼女がまだ“子供”だったからだ。
彼女の年齢は14才。この世界での成人は16~18才。
いくら山賊でも子供。それも、仲間の娘に手を出すような外道は少ない。
―――少ない。そう、ゼロではない。
だから父親は焦っていたのだろう。手遅れになる前に、稼げるだけ稼いで山賊を止めるつもりだったようだ。
「良い親父だったんだな」
「そうさ! 父は凄いんだ! 優しくて! 強くて! それで!……それで……」
「だが、道を間違えた」
「!?」
少女に睨まれた。
怯えを残したままだが、目にハッキリと怒りを浮かべてるのが分かる。
生い立ちを考えれば、どうしょうもない事だったのは分かる。
彼女らにも情状酌量の余地はある―――が、だからと言って、罪が消えてなくなる訳じゃない。
それに本当に山賊になるしか道がなかったのか?
分からない。分からないものを分からないまま断罪するのは酷だが、これもまた“どうしょうもないこと”だ。
現時点での少女は、俺の敵には成り得ない。
脅しが聞いてること。そして、もう頼れる者が居ない実情。ここで俺に逆らう可能性は無いと言い切れる。
「力があるなら。剣ではなく、鍬を持つ道もあったはずだ」
「……」
綺麗事を吐いてるのは分かってる。
そりゃそう言う道もあっただろう。だが、それが最善だとは限らない。
―――山賊となることが“最善”だった可能性は否定出来ない。
「また、経歴を活かすなら自警団などに成る道もあった筈だ」
「……ないよ」
「戦犯として、手配でもされていたのか?」
「!?
―――そうだよ。
だから、山賊になるしか……」
「違うな。偽名を使うなり変装するなり国境を超えるなり、誤魔化す方法はあったはずだ。
それにそもそも、戦犯となるだけの理由があったんだろ?」
「……知らない。知らないけど、父はきっと私のために―――」
「その結果がコレか?」
「―――!? 父を馬鹿にするなー!!」
足元に転がる遺体を一瞥して、そう吐き捨てると、激昂した少女は立ち上がり。どこから取り出したかナイフを構えた。
おいおい、武装解除したはずなのに、何処に隠し持ってたんだよ?!
―――が、その反応は予想済みだ!
「ルゥ!」
「……はい、なの」
俺の合図に合わせ、幼女様が手を振ると辺りにばら撒かれた山賊の死体が消える。
そして、一人の青年の遺体が少女と俺の中間に出現する。
「―――その結果がコレだ!!」
「ひっ!?」
ルゥ。そして、勇者様。悪いな、利用しちまって……。
だが、これは“必要”なことなんだ。
「コイツは―――俺の知り合いだ」
「……!? え、あ……?」
実際には知り合いじゃないが、この際、それは些細なコト。
―――重要なのは“断罪するための正当な理由”を得ることだ。
「おまえらは罪を犯した。
―――さ、言い訳はあるか?」
「……え? あ……なん…で? あ……!?」
剣先を少女に向け、睨みつける。
そんな俺と、勇者の遺体を見比べるように視線を動かした後、状況を悟ったのか少女は、ナイフを取り落とし、再び座り込んだ。
妖精神様は、そんな俺達たちを冷ややかな。それでいて、何かを見極めるような目で見ている。
―――聞きたい情報は全て聞いた。
質問に答えれば逃すと言ったが、その約束を破るだけの正当性は確保できた。
俺は強者で、彼女は弱者。だが、それは仮初のものだ。
ここで絆され、旅の道連れにするのは愚策。道中確実に俺が“弱い”ことがバレる。
そうなれば彼女は、躊躇なく俺に牙を向くだろう。
―――かと言って、見逃すのも拙い。
彼女に頼れる人物はいない。いないが、生きる手段はある。
山賊の残党と合流すれば良いからだ。
悲惨な状況になるだろうが―――生き残ることはできる。
―――だがそれは、俺への死刑執行の合図でしかない。
何も考えず山林の奥に逃げて野垂れ死ぬなり、父の跡を追って自害でもしてくれれば、憂いは無くなるが、そう上手く行くとも思えない。
俺の生存確率を上げるためにも、アドバンテージがこっちにある、今ここで始末しておくのが上策と言えるだろう。
「命を奪ったのなら―――奪われる覚悟はあったんだろ?」
「……あ……!?」
一歩踏み出し。剣を逆手に持ち替える。
それに反応するように、少女は怯えたまま、腰が抜けたように座ったまま後退る。
恐怖に駆られた今なら、ろくに抵抗できないだろう。
いくら俺が素人でも、振り上げた剣を振り下ろすくらい余裕で出来る。それで終わりだ。
「罪を償え!」
「い、いやぁああー!?」
剣を振り上げ、一足飛びに少女へと跳びかかる。
少女は硬直し動けない。迫る死の恐怖から目を閉じ、悲鳴を上げる。
そして―――俺は全力で剣を……。
―――“地面”に突き立てた。
――――――
―――
――
「……え?」
剣が外れた事に気付いた少女は、呆けたように目を瞬く。
そして、剣を支えに腰を落とし、覗き込むようにして目線を下げた俺と視線が合った。
「罪を償う方法は、一つじゃない」
「え? それはどういう……」
少女の目を見据えたまま、俺は言葉を続ける。
「お前の罪は―――死んで償えるほど軽くない」
「……」
勇者は優しすぎた。
その優しさ故に命を落とした。
「お前が奪った命。その生命が成すはずだった事を代わりに果たせ」
「……ど、どういう意味さ?!」
勇者はハッキリ言ってバカだ。あまりにも甘すぎる!
ここで死ななくても、いつかどこかで同じような場面で命を落としただろうな……。
「俺は、こいつの後を継いだ―――継ぐことにした」
「……」
親指を立て、後ろに倒れている勇者の遺体を肩越しに指す。
「だが俺は、こいつほど強くはない」
「……」
むしろ弱い。圧倒的に弱い。
だからこそ、ここで彼女を殺すのが賢い選択だった。
「だから、手を貸せ―――“ライカ”」
「……本気?」
少女の手を取り、引き起こす。
理性的に、打算的に考えるなら、彼女をここで生かす、この選択は悪手だ。それは間違いない。
人を殺すことに忌避感はあるが、ソレに躊躇するつもりは無い。
だからこそ、この一連の行為が愚かであることを自覚している。
勇者は甘い。勇者はバカだ。
―――だからこそ、それを継いだ俺が、薄ら甘いバカな選択してもおかしくはない。
「俺は何時でも本気だ―――そうだろ? ルゥ」
「なの!」
妖精神様は、俺の言葉にコクリと頷くと、優しく微笑んだ。
彼女―――ライカが本当に仲間になるかは分からない。
途中で裏切られる可能性は依然としてある。
だが、幼女様が笑ってるならこれで良い。
できれば、少女も同じく笑えるように導ければ良いが、難しいだろうな。
難しいが―――そのための勇者だろ?
魔王を倒す?
英雄となる?
―――だったらその片手間に"子供"が笑って暮らせる世界にするのも難しくはないはずだ!
神だろうが人だろうが関係ない。
子供は騒いで、笑って、煩いのが当たり前だ!
そんな当たり前の事を阻害する、理不尽な世界は全部、俺が叩き潰してやる!!
――――――
―――
――
―――その前に、残る20人の山賊に、俺が叩き潰されなければ、だけどな! はは……。
幼女様>>>超えられない圧倒的な壁>>勇者様>>超えられない壁>>山賊ず>少女の父>山賊>=少女>>村人A>>主人公
絶望的な戦力比。だが、これが現実!
そんな現実に抗う主人公は愚者であり、世界でもあります。
勇者は“特別”です。
社会不適合者も“特別”です
よって勇者は社会不適合者です。
だからこそ、社会不適合者は勇者なのです!
―――いや、そのりくつはおかしい(AAry