<幼女に頼るとろくな事が無い件>
連続強盗殺人犯とその共犯者。
元の世界基準でも死刑級の重罪。こっちの世界でも重罪確定の凶悪犯。
山賊たちを殺したことに罪悪感は無い。
―――ただ、名状しがたい嫌悪感があるだけだ。
可能性は0に近いが、止めを躊躇って。万が一、こいつらが立ち直って襲いかかって来た場合。俺は確実に殺されただろう。そういう意味でも、ギリだが正当防衛のはずだ。
いくら相手が死にかけの手負いでも、武器持ちと素手の俺じゃ勝負にならない。
自慢じゃないが俺は逃げ足も大したことなければ、持久力も無い。
―――うん。マジで自慢にならんな。はははっ……。
「使い方はコレで良いのか?」
「そう、なの」
金属製の試験官と言った風体の銀色の筒から、コルクっぽい栓を抜いて、中の液体をドボドボと振りまく。
薄く光を放つ緑色の液体は、振りかけた先から蒸発するように消えていく。
―――深い傷口と共に、跡すら残さずに消えていった。
「おお!? こりゃすごいわ!」
「なの!」
幼女様がフフンとばかりに胸を張る。
いやいや、教えてくれたのは嬢ちゃんだが、この回復効果はあくまでもこの霊薬―――回復の霊薬のお蔭だから! 嬢ちゃんの力じゃねーから!
神々が直接的に世界に干渉することは禁じられてる。
理由は色々あるが、重要なのは―――敵を倒すために攻撃したり、俺とかを守るためにバリア作ったり、傷ついた人を癒すための奇跡を起こしたり―――などなど。そういった直接的な干渉は当然ダウト。
さらに、身体能力強化や神器とかの賞与も制約に引っかかるため出来無い。
つまりだ、今のところ妖精神様は助言するだけ―――ちょっと違うな。
質問に答えてくれる“自分しか読めない辞書を持った女の子”でしかない訳だが……役立たず、とは言えない。
知識は大前提だ。それがなければ何もできない。
それを舌足らずで要領を得難いとはいえ、無償で提供してくれてる訳だから十分役に立ってる。
役に立ってはいるんだが……。
―――なんか、ねえ?
「さて、後はこの小娘が目を覚ます前に、やることやっとくかね」
「なの!」
こっちの世界に少年法はない。つまり子供だからと言って更生を期待して罪を減ずるような甘い仕組みは無い。
さらに言うなら女子供であっても。如何なる理由があろうとも―――罪人は罪人。その扱いを変える理由にはならない。
なら、なぜ助けた?
理由は単純に、情報が欲しかったからだ。
山賊がここにいる者“だけ”とは限らない。ここに着ていない仲間がいる可能性は十分にある。
俺は弱い―――が、丸腰で手負いの少女よりは確実に強い。
目覚めて抵抗されても対処可能なら、情報のためにも……“人質”にするためにも生かしておく価値がある。
―――山賊みたいな悪党相手に人質が通用する可能性は低い上に、どっちが悪党か分からなくなるけどな!
「ふぅ……疲れた。
久々に動くとやっぱ体力の低下を痛感するわ」
「だいじょうぶ、なの?」
グロテスクな光景と咽返るような臭気の中。山賊たちの懐を漁った使えそうなモノを探す。
火事場泥みたいな真似は気が引けるが、現状ろくな物を持たない俺は“使えるものは何でも使う”と言った心構えで動かないと余裕で野垂れ死にするだろう。
半端な倫理観や感傷は、今は無駄だ。泣いたり悔やんだり悩むのは後で良い。
現在の時刻は約15時。日の傾き具合からして後3~4時間で日が暮れるだろう。
幼女様に聞いた限りでは、一番近い人里で100kmは離れてる。今から夜通し歩いてもたどり着くのは不可能だ。
つまり食料や水の確保は必須って訳だ。そうして使えそうなものを剥ぎとり、拾い集めたは良いが……。
「うーむ。コレ全部持ってくのは不可能だな」
山賊から―――
長剣 3本
短剣 2本
山刀 3本
手斧 4本
小銭入り巾着 8袋
大きな布袋 6袋
肩当て 8個
胸当て 4個
円形盾 2個
治癒薬草 2個
松明4本
火口箱 3個
10mの縄 3条
気は引けたが、元勇者からも―――
真銀の鞘 1本
銀の鉈 1本
真銀の鎖帷子 1着
旅人のマント 1枚
回復の霊薬 3本
治療の霊薬 2本
妖精の秘薬 2本
燐寸箱 1箱
背嚢 1袋
筒止め帯 1本
毛布 2枚
保存食 3日分
羊皮紙の巻物 4巻
革の鞄袋 1個
20mの登山綱 1条
野外用食器 1セット
方位磁石と聖王国北部の地図 1セット
―――とりあえず、使えそうなのはこんなところか……って、山賊と勇者。持ち物の格差パネェわ。
「さーて。問題は、これらをどうやって持っていくかだな」
「なの?」
保存食は必須。これは確定。
一つ使ってしまったが、霊薬の類も全部持ってくべきだな。
都合よく専用のベルト式のホルダーもあるから問題はない。
―――遺品&血まみれってことを除けばだがな……。
「後は地図と毛布。それから、えーと?
一応後先考えるなら換金しやすそうなモノも持ってくべきだが……」
「なんで、なやんでる、なの?」
「ん? そりゃなあ。先立つ物も確保しとかないと後々キツイんだよ」
山賊が用意してた、戦利品お持ち帰り用の袋もあるから、ロープで連結して引きずっていけば、全部持ってくことも不可能じゃないが……。
体力が持つわけがない。100粁だぜ? しかも未舗装&高低差もそれなりにある道だ。
正直な話。最小限の装備でも踏破できると断言できない。
―――あーくそ。もうちょっと運動しとくか、体鍛えときゃ良かったわ。
「なんで、ぜんぶもってかない。なの?」
「勇者として期待してるところで悪いが、俺はそこまでパワフルじゃないんでね。
とてもじゃないが、全部は無理だ。持ちきれん」
「わたしが、もっちゃだめ。なの?」
「……あー、そうだな。それじゃ、適当に持てるだけ持ってくれるか?」
ま、軽いものを何個か持ってくれるだけでもありがたいわな……とか、軽く考えてたが、幼女様。
いやいや、妖精神様は、そのお力の一端を見せてくれました。
「は?」
「えい! なの」
無い胸を張ってドヤ顔を浮かべる姿は、神々しいと言うより微笑ましいものだったけどさ。目の前で起きた現象は、手品じゃないなら奇跡としか言えないほど凄かった。
―――集めて山となったモノが全部。一瞬にして消滅した……だと?
「……あーと、えーと、ルゥ? ちょっと、説明してくれないかな?」
「すこしあずかっただけ、なの」
そう言って、消滅させた時のように、手をサッと振ると。
一瞬のキラメキとともに、消えてたモノがドサッと現れた。
しばらく唖然としてしまったが、軽く頭を振って立ち直ると妖精神様に詳しく聞いてみた。
「ふむ。つまり俺の“モノ”を一時的に預かるくらいなら大丈夫ってことか……」
「そう、なの!」
―――前言撤回しよう。幼女様。意外と使えるわ。
モノを変質させるような干渉はアウトだが、単純に。モノをそのまま異空間に収納して、取り出したりする分には問題ないらしい。
ただし、それでも制限はある。
*預かれるのは、俺。つまり勇者の“所有物”であること。
*収納、取り出しは俺立ち会いの下でしか出来無い。
*意思を持つものや、固定されてるモノ。債権など実態を持たないモノには適用されない。
どこまでが所有物となるのか?
共有財産的なモノはどうなるのか?
窃盗や借用したモノはどうなるのか?
所有物の定義はなんなのか?
疑問は尽きないが、後々検証するとしよう。今はとにかく時間がない。
「んー、そうだな。
それじゃ悪いが、“今、俺が身につけてるモノ”以外全て預かっててくれ」
「わかった、なの!」
幼女様が頷き。さっきと同じように手を振ると、目の前の景色が一変した。
予想外の結果に驚愕するも、すぐに原因に思い当たり苦笑する。
「あーあーあー。そういやそうだな。
そうか、こっちでも“そう”扱われるわけね」
目の前に広がるのは、何もなくなった道。
予定してた戦利品? だけではなく、死体はおろか血すらも消滅―――幼女様に回収されたらしい。
―――死んでしまえば、ただの肉塊。ってか?
幼女様は存在がチートです。
神々の中ではザコですが、神とソレ以外では天地の差がありますので、十分チートと言えます。
ただし、制約は多い上に、本人の知能(社会経験に基づく判断力)が低いため。
主人公の指示なしでは力を使いこなせず無能です。自主性なんて“今は”ありません。
また指示しても、それを理解するのに時間がかかります。
すごく役に立つようで―――実は立たない。役に立たないようで―――意外と使える。
それが幼女神のクォリティ!