<幼女に関わるとろくな事が無い件>
主人公は、最初から最後まで劇中最弱です。
チートによる圧倒的な力での無双はありえませんので、そういう展開は期待しないで下さい。
また、チマチマした努力的な成長での勝利も期待しないで下さい。
主人公は、成長期の少年でも天才でもないので特訓とかはあまり意味無いからです。
ただし、現代知識を使った起死回生や、アイテムや仲間による、ご都合主義的な無双展開はありますので、それをご期待ください。
平和な世界から、危険な異世界に来て三日目。私は、現在進行形で死にかけてます。
―――と言うか“また”死にかけています。
硬いベットに寝かされ、薄いペラペラの毛布を被って高熱に唸ってます。
ゲホゲホとくしゃみと鼻水が止まりません。
ベットの隣では、泣きそうな顔をした幼……妖精神様がオロオロしてます。
村人Aさん(名前はまだ聞いてない、聞く余裕もない)が冷えたタオルを額に乗せてくれました。
後で粥を持って来てくれるそうです。
―――感謝してもしきれませんが、この粥、クソ不味いです。高熱で舌が麻痺してるからなんとか食べれますが、平時は無理です。
食べるものを食べたなら、出るものが出るのも道理です。
だるい体で立ち上がり、本日何度目か分からないトイレタイムを取ります。
頭痛、腹痛、倦怠感、嘔吐感、ムカつき、関節痛、喉の痛みに肺の痛み……。
フラフラになりながらトイレからベットに戻ると、妖精神様の姿が見えません。どこかに出かけたのでしょうか?
どうでもいいです。困ったときの神頼みと言いますが、こういう時に彼女が役立たずなのは、この三日でよーく思い知りました。
大見得を切って勇者を引き受けたこと。それ自体に後悔はありませんが、どうしてこうなった感は拭えません。
やはり幼女に関わったのが間違いでした。次は無視します。絶対に無視します。
―――次があればだけどな! ああ……意識が……。
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今日も今日とて、引きこもりライフ満喫中の三十路の独男。東城一也とは俺のことだ。
安アパートの一室で、ノートPCを広げてFPSと呼ばれる一人称視点のゲームでオンライン対戦中だ。
個人的にはTPS(三人称視点)の方が好みなんだが、まぁどうでもいい。
「……え……ん」
一戦が終わり。実績が更新されランキングが表示される。
成績は中の上。結構ヤリ込んでるんだが俺の腕じゃ、まぁこんなもんかと軽く自虐しながら電子タバコを加える。
「……えー……ん」
口内に広がるミント風味を味わいながら、天井を見上げる。
―――さーて、明日からどうすっかね。
「…ふえ……え…ん」
派遣切り。世知辛い世の無常。学歴なし、資格なし。やる気もなし。無い無い尽しの俺が首を切られたのはある意味当然だわな。
幸いなことに俺は漫画とゲームくらいしか趣味がないため、低賃金の割には貯金はあった。だからこそ首を切られた直後は余裕があった。
ちょうど良いからしばらく遊ぶかと、引きこもって早三年。この判断が致命的だった。
一年二年とズルズルと怠け続け、とうとう三年目だ。
さすがに貯金もやばくなってきたので就職活動を始めたは良いが、仕事が無い。
空白期間が効いたのか、たんに不況のせいか面接に落ちまくった。
長い引きこもりが祟って、体力筋力がガタ落ちしてるため、肉体労働系が選択肢からはずれるのも痛い。
そうこうしてるうちに貯金が尽きた。
「ひっく…ひっ…ぐす…」
借金はしたくないんだが、明日のメシ代すら無いのは拙い。
買い置きがあるから一、二週間は大丈夫だが、現金が無いのは問題ありだ。
こうなると友人に頼むか、親戚に頼るしか無いが―――気が重い。
誰かに借りを作るのは嫌いだし、コネに頼るのも気が進まない。
だけど、現状自力でどうにかするのは不可能なくらい詰んでる訳で、しょうがないわな……。
「ふえええええーん!」
「……煩い」
さっきから聞こえる子供の鳴き声が煩い。
現在時刻は平日の昼の2時。近くに学校とかもなければ、近所にも子供はいない……はず。
少なくともここ数年。それらしい声を聞いたことはない。
迷子か何かだろうかね?
昨今の時勢と自分の状況を客観的に考えて、子供に近づくのは危険だ。
運悪く不審者扱いされ、通報されたら面倒だ。実際にそういう事例をいくつか知っているからなおさらだ。
親切が仇になる嫌な世の中だが、嘆いた所で状況は変わらない。
だから他の誰かに任せる。それが賢いやり方だ。
ここは住宅地。昼間は人が少なめじゃあるが、いないわけじゃない。誰かがなんとかするだろ。俺がわざわざ何かする必要はない。無いはずなんだが……。
―――子供が泣き止む様子がない?
これだけ泣いてるのに誰も何もしない?
いくら人情薄れた物騒な世の中だと言っても、さすがにおかしくないか?
膨れた疑問に背を押され、軽く着替えて携帯を掴むと、靴を履いて家から外に出る。
そのまま、泣き声を頼りに探し始める。
育児放棄とか虐待なら通報。迷子でも声を掛ける前に通報。
見敵必殺ならぬ、見敵通報するとしよう。そうしよう。
駐車所に出る。声は駐車場脇の茂みの中から聞こえる。
少し躊躇するも、茂みを掻き分け中に進む。
この先がどうなってるかは知らない。私有地だと拙いが……まぁ見つからなければなんとかなるだろうと楽観的に考えることにする。
予想以上に茂みは深かったが、手足に出来た擦り傷切り傷を気にしながらもなんとか茂みを抜けた。
森の小道。左右に二輪の浅い轍が目立つ田舎道と言った風情の場所に出る。
おいおい、俺が住んでる場所の近所に森なんてないぞ?どうなってるんだ?
困惑しながらも当初の目的である、泣いてる子供を探すために辺りを見渡す。
子供を発見。明るい金髪に白のワンピースを来た10才くらいの外人の女の子。
―――はい、アウトォー!
手入れしてないボサボサの髪。安物のシャツに、軽く羽織ったジャケットを着て、薄汚れたスラックスを履いた無精髭の三十路男と金髪幼女の組み合わせ。
どう考えても一緒にいるだけで通報間違いなし。と言うか俺が逆の立場でも通報するわ!!
反射的に踵を返し、そのまま立ち去ろうとしたが、状況を認識すると同時に幼女へと……。
―――倒れている男にすがりつくように泣いている幼女へと駆け寄った。
「おい、大丈夫か!?」
「……が……」
「おいおいおいおい!?、マジか……刃傷沙汰かよ」
「……しゃ……が……」
「意識なし。脈拍なし。血だらけ傷だらけ……」
「……しゃ……が……じゃったの」
「救急車……110じゃなくて、119だったよな?
―――って、圏外? んな馬鹿な!?」
「…………」
「えーと、嬢ちゃん。人を呼んでくるからここでちょっと待って……」
「ゆうしゃが、しんじゃったのー!」
「はっ?」
はいはいはい、こうして幼女と関わった結果。俺は異世界で、勇者をすることになりましたとさ。
―――俺の人生、どうしてこうなった?
泣いてる子供に近づくだけで死亡フラグが立つ現代日本。
世知辛いってレベルじゃねーぞ!