新たな御子
氷に閉じ込められた颯妃を憎々しげに睨みつけた後、マルスはユーナに近寄る。
その瞬間的にユーナを横に抱えて、後方に下がった。
そしてユーナが先程までいた場所には土埃が舞っており、晴れた時には地面が陥没していた。
それを見た周りの者達が騒ぎ出す。
しかし、すぐに静かになることに
甲高い笑い声が聞こえてきたからだ
皆、キョロキョロと辺りを見回して、無言で上空を見上げた。
そこにはまだ10歳前後だと思われる少年
少年に付き従うかのように寄り添う紫水晶の瞳の青年
大きな斧を肩に掛けた屈強な身体の男
その三人から一歩後ろにはベールで顔を隠す女性が静かに目を伏せ、従っていた。
「きさまら何者だ」
マルスの鋭い問いに青年が口を開く。
「貴女達人間は卑しい種族ですね
見ていたらとても知能ある種族だとは思えませんね」
穏やかな表情から出された言葉は刺々しく、その合わない表情と言葉を理解するのが遅れたようだ。
「ふざけるな、名乗りもしないで無礼な言動
こちらもそれ相応の対応をするぞ」
グレイが怒りの声を上げる。
しかしそれは屈強な男の笑いで青ざめる事に
「我等が分からぬとはまだ人に舐められているようだな」
獰猛な光を宿す瞳がグレイ達を射抜く。
一同が固まる中、今まで黙っていたリーフがグレイ達の腕を引く。
「あいつらは・・・・」
青ざめた表情と震えながらも強い意志をみせるリーフに
美しい声が遮った。
「ようやく気付きましたの?
我等は災厄の御子、スゥ様を筆頭に、貴方方人類を滅ぼす者
私の名はザイナ、こちらはモールト、あちらはフェナンド」
その言葉に理解した順にさまざまに反応し出した。
「ならばお前らは魔族か」
「何故ここに?結界はどうしたんだ」
「まだ準備が整っていないのに」
それをつまらなそうに見遣り、スゥは後ろを振り返る。
「行け」
その言葉と同時にフェナンドとザイナ、それといきなり転移してきた千は越える魔族とおぼしき者達が
グレイ達に襲い掛かった。
急いで防御の体勢に入るがその前に攻撃が入る。
兵士や民が数十人がその攻撃により吹き飛んだ。
あまりに強さにグレイが兵士達に民を逃がすように指示を飛ばし、なおかつ残る兵士でユーナを守るようにする。
だが言い終わる前に殺気を感じ、後ろに下がることに
「ふ~ん、お前王族って奴か?
上が腐ってれば下も腐るしかないんだ」
フェナンドが斧を振り下ろした体勢でニヤリッと笑っていた。
それからが暴虐や虐殺の嵐であった
逃げ惑う者達を殺め、向かってくる兵士を笑いながら吹き飛ばし、建物を壊し始めた。
それを冷たい眼差しに見るスゥ
完全にここはカオスだった。
ユーナも皆を助けるためとフェナンド達を止める
ため力を行使する。
しかし、まだ使い慣れてないためなかなか上手く守れないようだ
魔族優勢の状況にスゥがつまらなそうに欠伸をし、それから何かを見つけたように地に降り立つ。
それを見た人間が襲い掛かるもモールトによって阻まれた。
「スゥ様の邪魔なんですよ」
一撃で地に倒される。
それを気にした風もなく、スゥは進んで行き
冷たい氷を優しく撫で、一言告げた。
「解け」
たったその一言で氷が溶けて行く。
その状況にザイナと対峙していたリーフが信じられないものを見たとばかりに固まる。
「可哀相に同族にこんな事されて」
溶け切り、閉じ込められていた颯妃がスゥに倒れ込んだ。
受け止めて頭を撫でながら淋しげに抱きしめると
小さな声とともに瞼が開く。
温かい、この人はもしかして
瞼を開くと最初に見えたのは幼い少年
しかし、その少年の姿は知っている
そう昔から知っているのだ。
「大丈夫のようだな。起きれるか?」
その問い掛けに頷き、立ち上がる。
少し、身体がふらつくが大丈夫だ。
その時、右手が握られ浮き上がった。
いきなりのことに少年に縋り着く。
すると少年が少し驚いたようだが、支えてくれる。
「見ていると良いよ」
見下ろせば
どう見ても、人類側が不利のようだ
だが、颯妃の心になんの感情も浮かばない。
自分は人に拒絶された身であり、助けたいと思う相手はあいにくここにいない。
だから静かに見届けていたのだ。
だが、マルスが黙っていなかった。
「お前、人でありながらそちらに着くというのか」
勝手過ぎる声に、なんの表情も浮かべずマルス達を見下ろす。
「それがどうしたの?」
いきり立ち、こちらに魔法弾を打ち込むマルス
自分を害そうとすることに眉をひそめ
ゆっくりと手を翳した。
すると青い膜が颯妃を守るように展開される。
その瞬間、たくさんの人々が動きを止めてこちらを見た。
「な、なんでお前がその力を」
「見間違いじゃ」
「しかし、あの青い魔法光は、慈愛の力で魔法を発動したのみ現れる光だ」
慌てふためく姿は滑稽である。




