リーナの欲しい者
執筆者:ウラン
プルルを回収したノイウェルは、続いてリーナのいる事務室へと足を運んだ。
事務室に到着すると、リーナは包帯にノイウェルには読むことのできない文字を魔草から採取されるインクで刻んでいた。
巻いたところの傷の治癒を補助する魔法の包帯を作っているのである。赤色のインクは、包帯に描かれて数秒立つと透明に消えていく。
しばし作業を黙って見ていると、魔法の包帯を一つ完成させてから、リーナはノイウェルに目をやった。
「どうかした? ノイウェル君」
「ああ、少しの。しかし、リーナは勤労じゃな。ラグナにも見習って欲しいのだ」
「んー、あの子は魔法が使えないからねぇ」
リーナは苦笑しながら答える。
「なんと! そうであったのか?」
「意外だった?」
「いや、ラグナなら魔法くらい使えそうなイメージがあっての。そう言えば使った所を見たことがないの。むぅ、艦長足るもの、仲間を偏見で見てはいかんな」
「ふふふ。そうねぇ、確かにあたしも始めはそう思っていたんだけどね。何でも、体質的に使えないらしいのよ」
微笑みながら説明するリーナの言葉を聞き、ノイウェルはふむ、と頷く。
「そうであったか。知らんかった。もう少し、仲間を知る努力をせねばいかんな」
ふふ、とリーナは再び微笑む。さながら、親戚の子供の夢の話でも聞いているお姉さんのような風貌であった。
「それでも、ちょっとくらいは手伝って欲しいのだけれどね。まぁ、強く言えないのは、惚れた弱み、ってやつかしらね」
何かおかしな単語が聞こえた気もするが、気のせいだろうと一蹴する。リーナは、アストライアの数少ない常識人の一人なのだ。ただし、ノイウェルの想像の話ではあるが。
その辺で与太話は終わりにして、本題に入ることにする。
「ところでリーナ、最近大きな収入があったであろう? それで、今我は皆に欲しい物を聞いて回っているのだ。何かあるかの?」
心なしか声は軽い。ラグナ以上に面倒なことにはならないだろう、という予想があったからであろう。
「ラグナが欲しいわ」
所詮は希望的観測だった。
「……いや、金で買える物でたのむ」
心なしか声は固い。ラグナ以上に面倒なことになりそうだ、という予感があったからであろう。
現実とは、非情なものである。
「じゃあ、ラグナの高感度」
「いや、金で買える物でたのむ」
立て続けに同じ言葉を言わなければならない時は、大抵面倒な状況である。
予感は、当たった。
「いやねー、高感度何てお金でいくらでも買えるじゃない」
現実マジ厳しすぎ。
「ほら、今回ラグナは結構活躍したらしいし。それなら先輩としてご褒美に何か欲しい物でも上げようかなって」
それだけ聞くと割かし中のいい先輩後輩にも見える。が――、
「うふふ、それでラグナの高感度が上がるなら安いものよ」
この一言が全てをぶち砕いて粉砕していた。
「ね、ラグナが欲しい物ってわかる?」
「……いや、先程聞いたのだがないらしいの」
「だよなー。うーん、いつも飾りっけがないし、アクセサリーなんてどうかしら?」
「…………」
ネックレスを着けたラグナを想像してみる。違和感バリバリだった。
「……ま、まぁ、いいんじゃないかの?」
「そう? それじゃあそうしようかしら」
笑顔で頷くリーナ。が、急に思考顔へと変わる。
「でも、買ってもらった物をあげるって何か微妙ね。ちゃんと自分のお金で買ってあげた方がいい気がするわ」
「あー、そうかもしれんの」
「それに、折角だからデート中に一緒に見たりして選びたいし……」
「…………」
突っ込みたい所があった気もするが、スルーしておくことにする。触れたら何か大切なものを失くしてしまいそうだったからだ。
「……よし、決めたわ」
「どうするのかの?」
と問うと、リーナはとびっきりの笑顔でこう答えた。
「お給料として、現金で頂戴」
「……心得た」
リーナは堅実的だった。