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スキンクの欲しい物ッ!?(そんな驚く事でもない

クルー達の要望を粗方聞いて回ったノイウェルは、相方のプルルを頭に乗せ、ひとまず書庫へ向かっていた。

別に休憩に向かう訳ではない。

これもまた、「クルーにプレゼントの要望を聞きに向かう」という作業の一環に過ぎないのである。


そのクルーとは、読者諸君もとっくのとうにお気づきであろう。

砂漠の魔物ことアストライアの異形司書・スキンクである。

莫大な蔵書を誇るアストライアの書庫管理を担う彼は大抵の場合書庫に住み着いていた。



ココン


ノイウェルは軽めに書庫の戸をノックする。


「スキンク、居るかー?」

「プルー(居ますかー?)」


何時もならばここで手早く鍵が開けられ、『あンれまァ艦長~、今回はどういったご用件でェ?』などと良いながらスキンクが顔を出したりするのだがしかし、今回はそれが無かった。


「寝ておるのかのう?」

「プル~(私に振られても返答に困りますよ)」


念の為ノイウェルは魔法で図書館内に探りを入れてみたが、反応は一切無い。


「…外出中か?」

「プルゥー(そうみたいですね)」

「仕方ない…出直すとするか―「多分部屋じゃないかな」

書庫から引き返そうと振り向いたノイウェルに話しかけてきたのは、割烹着に箒とちり取りというスタイルの禾槻だった。

「誰かと思えば禾槻であったか。して、スキンクが部屋に居るというのは?」

「ノコギリに金槌、あとバーナーの音がしてたし、何よりスキンクさんの声が響いてたからね。

多分間違い無いよ」

「左様か。恩に切るぞ」

「プルルゥ~(有り難う御座います)」


禾槻の情報を頼りにスキンクの部屋へと向かうノイウェルとプルルだったが、ここで禾槻の言葉が頭に引っかかる。


「ノコギリに金槌は良いとして……バーナーとな?奴は一体何を始める気だ?」

「プル……ル…(おかしいですね…何故か寒気が……)」


何はともあれ、一人と一柱(?)はスキンクの部屋の前までやって来た。


―部屋の前―


ガガガガガン!ガガン!ガンガン!

ヴァゴヴァゴヴァゴヴァゴヴァゴッ!ヴァヴァヴァヴァヴァヴァゴギリッ!

キシュボォァァァァァァァッ!ピシュボルァァァァァァ!

――『怪物~化け物なんてェ俺にとっちゃァ褒め言葉ァァァ!

可能な限り、命の果てまでェェェェェやってやれェェェェ!』――


禾槻の情報は間違っていなかった。


猛烈な勢いで金槌の音が響き、有り得ないような速度でノコギリが建材を切り、ガスバーナーが火を噴く音がドア越しに聞こえてくる。

更に、中でそれら道具を操っているであろうスキンクは、何やら歌まで歌っている。


「(ノックする気も失せるな……)」

「(初めて出会った瞬間逃げたのは正解だったらしい…)」


『江西ゴッその心がァ~求めるものはァ~負ーけるっ気ーしない筈ぁー!……っと、そろそろ良い具合だな。


良し、休憩すっか』


「(良し、隙が出来た。出てきたところでごく自然に話しかけて―――『ェおっしゃァーい!」―――むぎゃふッ!?」


タイミングを見計らってスキンクが部屋から出てきたところで話しかけようと想定していたノイウェルだったが、『自然に歩いているふり』をしようとした所、スキンクが蹴破るようにして開け放った扉が顔面にぶち当たり、その影響で吹き飛ばされてしまった。


「あン?何か今木の板と脊椎動物が衝突するような音がしたような……」

辺りを見渡したスキンクは、自分の上司が6m程先で横たわっているのを目にする。

「――て、あらァ゛ー!?

艦長!?艦長ォー!」

「…ぉ…おぉ、スキンクか……じつはそなたに―

―「誰に殺られたんです!?一体何処の誰がこんな真似を!まさか第三帝国機構の連中か!?」―

―いや、そなたにだな―

―「いや…こいつはまさか白崎一族の……?だとしたら何て連中だ!11の男の娘を狙うなんぞ性根が腐ってやがる!」―

―おい、聞いておるのかスキンク―

―「いや待てよ?奴らは俺が十五の頃当主が子宮に癌発病して途絶えた筈……となるともしかして―「スキィィィィィィンク!」―はい、何でしょう?」


ノイウェルは慣れない大声で因縁だらけの異形児が引き起こす無限ループを断ち切る事に成功した。


「実を言うと、先の一件でそなたが解読してくれた設計図。あれがシュヴァルトライテで高く売れたのだ」

「おぉ、そいつぁ良かった」

「それで、だ。慰労も兼ねてその売り上げの一部で、そなた等の欲しい物を買ってやろうかと、そう思ってな。

スキンクよ、何か欲しい物は無いか?」

「そうさなァ……今ちょっと部屋の改造をやってるんで、それの備品の不足分が欲しい所なんですよねェ」

「……改造…?」


寒気がした。

この男、ハウエンツァより友好的かつ協力的でこそあるものの、その思考はハウエンツァ以上に得体が知れない。

否、この男に比べればハウエンツァすら可愛く思えてくる。

セルシアは書庫の本が専門書や学術書ばかりと言っていた。

アストライアは元々軍用にと作られたのでそれは当然の事だったが、この男が司書に就任して以来その原則は揺らぎ始めている。

補給のために立ち寄る各所で、こっそり船を抜け出したこの男は、何処からか私物の本を回収してきては隠れた場所に本棚を増設しているのである(クルーの殆どはその事実に気付いていない)。

しかもその本というのは、正体不明の言語が手書きで記されたノートであったり、明らかに読者を厳選するようなタイトル・内容の本であったりするのである。

その男が部屋を改造ともなると……まさか魔物の製造でもやろうというのか?

一瞬良からぬ事を創造してしまったノイウェルだが、艦長として自分に尽くしてくれるクルーを疑う事は悪徳だと思い、詳細を伺うことにした。


「改造とは?」

「温室ですよ。食材・戦力に使えそうな動植物を養殖するんです」

「ほ、ほう…成る程……野菜を作ったり鳥を育てたりするのだな?」


絶対違う。ノイウェルはそう革新しながらも一縷の希望を捨てなかった。


「いやぁ、そっち方面は市販品で事足りるでしょう?

養殖するのは大体野草と虫が主ですよ」

「そ、そうなのか?」


等と疑問系で返しているがしかし、そんな事は分かり切っていた事である。


「ひとまずクヌギの木を組織培養してヤマタイマユガの養殖にチャレンジしてみようかと。

コイツ等が出す糸を煮詰めて生成すると絹なんて比じゃねぇ価格で売れるんです。

熱帯域に棲息するモリキュミスコガネの雌幼虫はクリーミーな味わいに定評があるって言いますし、フートゼファールっつーハーブの一種は右半分が緑で左半分が黒っつー変わり種なんですが、この葉を乾燥粉末にして混ぜ合わせた奴は豚肉の味を絶大に引き上げる効果があるんです。

ただ出回って無ぇのが欠点なんで、梅田の奴に取り寄せさせて組織培養でもやってやろうかと。


あとはそうさなぁ……オリムラカミキリとシノノノスズメとかやってみたいですねぇ」

「……その蟲は何だ?

オリムラといえばヤマタイの神話に伝わる神託により再起と反逆の力を得た英雄であり、シノノノはその伴侶であったとされているが……」

「由来はまさにそっからなんですよ。

でね?コイツ等を幼虫期から同じ飼育箱で育てると、何故かカミキリムシが雄に、スズメガが雌になっちまうんですって。どんな手段を試しても、十割方。

んでしかも、全く別の昆虫とは思えない連携を見せやがりましてね?どっかの研究報告書によりゃこの二匹が交尾して間にとんでもねぇのが産まれたとかなんとか!」

「とんでもないもの?」

「そこについちゃ記録が無ぇもんですから詳細は不明ですが、育ててみる価値は大有りかと思いましてねぇ。


総額はしめて……190万て所ですかねェ」

「190万…?」

「そうなんですよ。そこが悩み所なんですよねー。

しかも今し方梅田の奴に連絡取ったんですが、シノノノスズメの食草が成長必要分手に入らないもんでそっちでどうにかしてくれとか帰って来やがりましてね?

雌の成長分となると軽く5株は要るんですよねー。あとすっかり忘れてましたが空調と温度管理も大切だからコンピュータ制御の出来るエアーコンディショナーが要るんでしたわ。

こうなると総額が……あっちゃあ、こりゃ酷ぇ。一気に225万にまで引き上がっちまいましたわ。

艦長……足りない分は俺のギャラから引くって事でどうにかなりませんかね…?」


卑屈になって頼み込むスキンクに対するノイウェルの返答は、意外にもあっさりしたものだった。


「別に構わぬぞ?その程度そなたの給金から差し引く必要性も無い。というか、アストライアは企業でないのだから給料等という制度、そもそも有りもせぬではないか。

安心するが良いぞスキンク。あの時一目見たその日より、余はそなたの尽きる事なき探求心が本物であると見抜いておる。

そら、あと50万ほどであれば自由に使って構わんぞ?」

「有り難う御座います。では、その50万は此方で私的に使用させて貰っても構いませんかね?

温室とはまた違った趣味に使いたいんですが」

「構わぬ。存分に使うが良い」

「有り難う御座います。それでは注文の品の方、宜しくお願い致します」


こうしてスキンクの注文を取り終えたノイウェルだったが、この後アウロやリーナが彼と結託し、妙な材料を用いた料理や菓子類がクルー達に振る舞われる事になる事など知る由も無い。



食材の正体を知らされた一部クルーがストレートに反応したり、より怪しげになったリーナの菓子をつまんで倒れた真人間のクルーの体組織や生理機能が面白過ぎる変異を引き起こすのも、そう先の話ではない。

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