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転生しても幽霊でした! リスのぬいぐるみボディで始まる冒険者生活

作者: 枝豆子
掲載日:2026/06/05

「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」



 家主のおばちゃんの口車に乗せられて、今日も何処かの生ぐさ坊主が、ろくに覚えてもいないお経を唱えている。



「やあ、やあ!」



 本日の塩は、粗塩か? そんなスーパーでも売ってそうな塩なんて俺に効くはずもねえ。俺は、坊主の正面に寝そべって、耳に穴に指を突っ込みながら、尻を向けた。



「本当に、これで除霊はできたんかい?」

「しばらくは、大丈夫なはずです」



 俺の姿が見えない二人は、除霊が無事終了したと帰っていく。だから、そんな粗塩じゃあ、俺はいつまでも天国すら旅立てねえからな!




 もうすでに、おわかりいただけただろうか? 俺は、どうやらこのボロい木造アパートに棲みつく地縛霊というヤツらしい。



 これでも、人畜無害な地縛霊だと自負しているんだけど、世の中にはちょっぴり霊感がある人間もいるみたいで、このアパートの住人もその類いだったようだ。



「夜、誰かの視線を背後から感じるんです……」



 悪いね。テレビゲームってのをやったことがないんだよ。ドラドラクエスト? めちゃくちゃ面白いゲームじゃんか、俺だってちょっとだけ楽しみたいんだよ。



「夜中に勝手にテレビがついたりするんです……」



 いやあ、俺が生きてた頃には、アニメってもの自体がなかったんだよ。深夜アニメ最高だね! 俺も異世界で冒険者やってみたいぞ! 迷惑かけないように、音量小さくしたのに、怖がりやがって……勝手にテレビつけてゴメンね?



 ということで、住人から苦情を受けた家主が、嘘くさい霊媒師や生ぐさ坊主に頼み込んで、俺を除霊しようと躍起になってるってことだ。




 いいなぁ……俺も、思いっきり走り回りたい。



 家主と坊主が帰った後、静まり返った部屋の中から窓の外をそっと眺める。幼い子供たちが走り回り、大きな笑い声が聞こえてくる。生前の記憶なんて残っちゃいねえが、それが俺のこの世に縛る未練なのだろうか?





『ぬおおおおおおおおおお!』



 そして、俺は、空前絶後の最大のピンチに堕ちった。



 俺は、いつものように、窓から外を眺めていただけなんだ。だけど、あの女は……俺を見てニヤリと笑った。背筋がゾッとする底冷えのする笑みは、あの女を敵だと認識してしまった。



 家主を引き連れて、部屋に入ってくるなり、わけの分からない香を部屋中に焚き始めた。薄れゆく意識を繋ぎ止めようと争うも、身体中の力が抜けていく。今まで効いたことのないお札が、俺の身体を焼いていく。チリチリ燃える蝋燭の炎が、俺をここから出て行けと捲し立てた。




『天国か、地獄かと言われれば、どうか神さま、俺は異世界へ転生したいです!』




 意識朦朧としていくなか、俺は、ドラドラクエストの主人公のように、冒険の世界へ旅立ちたいと願いながら、意識を手放した。





 で、ここは、何処でしょうか?



 土の匂い、草の匂い、今まで過ごしていたらホコリっぽいぼろぼろの木造アパートとは違う、頬を撫でる風。空に輝く満天の星空に浮かぶ、見たこともない大きさのお月さまが、足元を青白く照らしている。



 すでに止まったはずの心臓が、ドキドキと脈打つ……ような気がする。



 月明かりに照らされた自分の手足へゆっくりと視線を落とした。




 現実とは時に残酷なものである。




 もしかしたら、もしかしたらと思いましたよ。どうやら、神様は俺の願いを半分だけ叶えてくれたようだ。




 月明かりに照らされた俺の手足は、うっすらと輪郭を残す。試しにそばに立つ大きな木の幹を触ろうと手を伸ばすも、スカッ、スカッと空を切る。エイッと足で蹴飛ばしても空振りだ。



 神さま? 異世界転生って、新しい命を授けてくれるものではないでしょうか? これじゃあ、地縛霊から浮遊霊になっただけじゃん! ふよふよ漂って、またもや除霊されろっていうんですか?




 ふよふよ漂いながら、青白く光るお月さまを睨みつけた。世界は、どうしても俺には優しくないらしい。



 今までだって、一人で過ごしてきたんだ。世界が変わろうとも、地縛霊から浮遊霊になろうとも、俺は楽しく生きていく。 生きていく? 生きて……いけるのか?




 頭の中で、ドラドラクエストのオープニングファンファーレが鳴り響く。




 俺って、死なないから無敵じゃね?




 いずれ、成仏する日が来るかもしれない。百年? 千年? いや、それ以上? 地縛霊から進化して浮遊霊になったんじゃん! ひょっとすると、異世界にきて俺は新しい能力に目覚めちゃったりする?




『ファイヤー!』






 ハイ、世の中そんなには甘くはありませんでした! ひょっとしたら、魔法が使えるかもなんて、ほんの少ししか思っていませんでしたからね。赤く染まるような気がする頬を手のひらで覆ってモジモジしながら、俺はふよふよと進み始めた。




『!?』



 ふと、誰かに見られているそんな感じがした。思わず振り返ってみれば、そこはゴミ捨て場だった。



 折れた剣や壊れた防具、木を削ったようなお皿や器。見たこともない獣の皮や骨、人間の生活感を感じさせるゴミ捨て場だ。




『いやはや、なんとも、なんとも、いくら幽霊だからといっても、魔物の骨とかは怖いぞ』



 腐ったお肉がこびりついた魔物の骨を見て、動かない心臓がバクバクドキドキと動いているかと思うぐらいに驚いた。ぽっかりと穴の空いた魔物の頭蓋骨を見て、内心ビビりまくりなのは、俺だけの秘密だ。



 打ち捨てられたゴミの山。人間? の生活臭あるゴミの山の中から、俺は運命の出会いを見つけた。



 ゴミの山から顔を覗かせたそいつは、つぶらな瞳で俺をじっと見ている。そいつも以前の俺と一緒でゴミの山から動けない宿命。



『おまえも独りなのか?』



 俺の問いかけには何も応えない。応えれるはずがなかった。俺がいた世界でも似たようなヤツはいた。アパートの窓から見た外を走り回る女の子が抱えていたリスのぬいぐるみ。



『お前も、俺と一緒に来たのか?』



 ただのぬいぐるみが、話してくれるはずがない。だけど、何処か故郷の匂いがするソイツの頭をそっと撫でた。




 俺の魂が、すうっと引き寄せられた。そして、次に目を開けた瞬間、俺はリスのぬいぐるみの中に憑依していた。




 少しほころびた腕。だけどぐるぐると動く。もふもふとしたしっぽが自分の意思でゆらゆらと動かせた。




 ゴミの山から、身体を捻り出せば、ゴミの坂道をゴロン、ゴロンと転がった。身体がぶつかる感触、手足がバタバタと動き、あちらこちらに触れていく。初めての感触に俺の鼓動が速くなる……ような気がする。




 俺、大地に立つ!




 そして伝説へ。ドラドラクエストのキャッチコピーが、俺の全身を駆け巡る。



「次は、冒険者ギルドかな?」



 どうやら、憑依すれば俺は会話もできるらしい。



 ありがとう、怖かった女。俺は、異世界で新たなお化け生を楽しめそうです。


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