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やうと村

教室の外の廊下で、窓の外を見ながら美和とさえが並んで話している。


「わたしさぁ、遠足行けないみたいなんだ」さえが落ち込んで言う。

「そう…なの?」

「お母さんが遠足代を払ってないみたい。昨夜言われちゃった。

『遠足も行けなくてごめんね』だって。美和と行きたかったなぁ」

しょんぼりしているさえを見て

「ふたりでどこかへ行こうか?」と美和は提案した。


「マジ?ほんとに?行きたい。どこかいい所ってある?」

「お母さんの出身の村で、やうと村っていって

何ていうか、白川郷みたいな村で静かでいい所なの」

「へえ、いいね、白川郷も行ってみたかったし」

「泊るところがないけど、お母さんの幼馴染のおじさんが

神主さんやってるから、そこの神社に泊めてもらえるように頼んでみるね」



帰宅して、さえと出かける事を母に話すと

「あら、さえちゃんって、前に言ってた子よね。村へ行くの?決めたの?

じゃあ永介に連絡する?それとお弁当作るね」と確認した。

「うん。多嘉良たからさんに泊めてって電話する」乗る気でない美和だが

「決めたんだ。行かなきゃいけない」自分に言い聞かせた。



「おー。今週末だな。いいよ。待ってるから差し入れ頼む」

電話を受けながら「多嘉良さん」といわれたお腹の出たおっさんが答える。

「いろいろ持って行くね。おつまみとか。お菓子とか。」

「よろしく。」


電話を切ると黒い羽根が多嘉良の眼前に舞う。

目の前にマントを羽織った長身の男が立っていた。

右目に眼帯をして、黒髪を後ろに束ねた男。


「愛ちゃーん、美和が週末に…」そこまで言って多嘉良は首を掴まれて

持ち上げられる。

「愛ちゃんとかいうなっ」 「すんません愛鷹あしたかさん。てへへ。」


「週末かぁ。ひよるなよ、美和」多嘉良はいつになく真剣な顔で思った。



まだ夜も明けない土曜日の早朝、

「先祖とつながり、心静かに行くべき場所へ連れたまへ」

そう唱えながら、美和の母がさえのお弁当を作っている。


「気を付けて行ってらっしゃい」

母に見送られて、美和は家を出た。


始発のバスで母の故郷へ向かう美和とさえ。

バスで信州の山の中の、終点のバス停まで行ってそこから徒歩で2時間。

山奥にその村はある。

「先が長いから、眠っていこうね」美和に言われて「うん」と答えるさえ。

「でも、美和と泊りで遠出って嬉しいー。嬉しくて、実はあまり寝られなかった」

「わたしも」と美和は窓の外を見ながら、静かに目を閉じた。



終点には登山客しかこないので、

小さなお土産屋さんを兼ねた山小屋があるだけだ。

登山道とは逆の場所にゲートがあって、「熊出没注意」と

「私有地につき立ち入り禁止」の看板がある。

「入っていいの?」さえの心配をよそに

「大丈夫。この先が村なの」と美和は進んでいく。


鳥の声。虫の声。風のささやき。2時間はあっという間に過ぎた。

川の中の石を渡ってしばらく行くと、目の前が茂みでふさがれた。

美和は「このまま進むの」と茂みの中を進む。

と、目の前が開けて舗装されていない道と田畑と、

まさに白川郷のような藁ぶき屋根の家が点々と建っていた。

足元には向かい合わせに狐の置物が置かれている。


そこがやうと村だった。


読んでいただき、ありがとうございます。

引き続き、楽しんでいただけますと嬉しいです。

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