表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンセティック・ワイルド:事象の地平線(イベント・ホライゾン)LUNA‗BOOK THREE  作者: 光闇居士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

【結末 A:幻想的融合同化】 月(LUNA)は森になる

『一つ目の道は「継承」だ』

 クジラの思念が、温かい波のようにルナを包み込む。

『君の肉体を捨てなさい。個としての輪郭エゴを溶かし、この森のコアとなりなさい。君という器を使って、溢れ出した全てのデータを再構築するのだ。君は人間であることをやめ、この星の記憶を守る「月」となる』

 ルナは自分の手を見た。指先から少しずつ、銀色の結晶が光の粒子となって剥がれ落ちていく。

 恐怖はなかった。むしろ、10年間背負い続けた重い鎧を、ようやく脱ぎ捨てられるような安堵があった。

「私が……森になる?」

『そうだ。君はかつて「迷い子」であり、「戦士」だった。次は「守りマザー」になるのだ。遥か未来、新しい生命が芽吹くその時まで、君の光で夜を照らすのだ』

 ルナは微笑んだ。

 眉間の皺が消え、戦火で強張っていた表情筋が緩む。それは36歳の疲弊した女性ではなく、かつて冒険に目を輝かせていた少女の顔だった。

「悪くないわね。……もう、走らなくていいんでしょう?」

 ルナはポンチョを脱ぎ捨てた。傷だらけの体があらわになり、そして光に包まれる。

 彼女は黒ずんだランタンを胸に抱きしめ、チックタックの方を向いた。

「ねえ、チックタック。私の『時間』、ちゃんと整理してね」

「ああ、任せてくれ。君のテープは、最高傑作として棚の一番上に飾るよ」

 チックタックが、幻の帽子を目深にかぶり、敬礼した。

 ルナは、クジラの口――特異点の中へと、踊るように飛び込んだ。

「ルナ&ザ・フォレスト・コレクティブ」

 誰かがそう呼んだ気がした。

 瞬間、閃光が世界を覆った。

 それは破壊の光ではない。再生の光だ。

 ルナの肉体を構成していた原子の一つ一つが、光る蝶になり、音符になり、色彩となって拡散していく。

挿絵(By みてみん)

 灰色の砂漠に雨が降り注ぐ。データではない、本物の水だ。

 砂が土に戻り、枯れ木に緑が走り、世界が息を吹き返していく。

 そして夜空には、砕け散ったオーロラの代わりに、たった一つの、大きく美しい「月」が昇った。

 その月は、かつてないほど青白く、優しく地上を照らしていた。


数百年後。

 再生された緑豊かな森に、また一人、小さな迷い子が足を踏み入れる。

 その子は、夜空に浮かぶ誰かの笑顔のような月を見上げ、ランタンを掲げてこう呟くのだ。

「きれい……。ねえ、あそこで誰かが呼んでいる気がするの」


(Ending A - The End)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ