第二章:星雲のクジラ
道の最奥にいたのは、もはや生物としてのクジラではなかった。
それは、宙に浮かぶ巨大な「銀河」だった。
かつて皮膚だった場所には無数の星々(記憶の断片)が瞬き、背中にあった庭園は次元の亀裂となって枝分かれし、宇宙そのものを背負ってそこに存在していた。
リヴァイアサン。高次元データ生命体へと進化した、森の主。
その瞳だけが、あの日のままだった。
全てを見通し、全てを許すような、深く、静かな瞳。
『ルナ。私の愛しい、痛々しい子供よ』
頭蓋骨の裏側に、音が直接響いた。それは言葉ではなく、純粋な意味の塊だった。
『君は自由を選んだ。その代償として、偽りの安寧だった世界は崩壊した。君はずっと、その重荷を背負って歩いてきたのだね』
クジラがゆっくりと降下してくる。その巨大なヒレが触れるだけで、周囲の空間が波紋のように揺らぐ。
ルナは震える足で立ち上がり、黒ずんだランタンを差し出した。
「私は……私は、間違っていたの? あなたを繋いでいた鎖を切ったことは、罪だったの?」
彼女の瞳から涙がこぼれた。それは涙ではなく、液状化したデータだった。
「教えて。この苦しみの先に、何があるの? 世界中の人々が肉体を失って、終わらない夢の中を彷徨っている。これを終わらせるために、私はここに来た」
クジラは答えなかった。ただ、その巨大な口をゆっくりと開いた。
その奥には、ブラックホールのような、あるいは全ての始まり(ビッグバン)のような、絶対的な「特異点」が渦巻いていた。
『我々は膨張しすぎた。この星の許容量を超えて、記憶と感情が溢れ出してしまった。
ルナ、最後の人間よ。選択するのだ。
君が持ってきたそのランタン――君の「魂」を使って、この物語に結末を書き込むのだ』
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ルナの前に、二つの道が示された。




