狂熱の風鈴
テーマは『風鈴』
『第7回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』の対象となる超短編作品です。
玄関のドアを開いた瞬間に灼熱の波に飲み込まれる。
「―――あっつ」
見上げれば空には雲一つなく、地獄のような真っ青な快晴が広がっていた。ことここに至っては、今年の夏は暑い、という評すら聞かなくなって久しいものとなっていた。なぜなら、そもそんなことを考える余裕すらないほどに夏は暑いのだから。
一歩進むごとに体力が削られるアスファルトの上を、目的地に向かいとぼとぼと歩いているところにふと気付く。
―――ちりんちりん。
「風鈴? ……珍しいな」
耳に心地よい音。
住宅街の静けさの中響き渡るように鳴り響く。
きっと状況によっては涼しく感じるのだろうが、こうして炎天下の中ではまさに焼け石に水といったところだろう。むしろ、その心地よさゆえに異質さを感じてしまうほどだ。
「……珍しい?」
呟いて違和感を抱く。
考えてみればそうだ。このご時世あまり風鈴の音など聞くことがなくなっていた。下手に鳴らせば近所迷惑とも言われてしまう世の中で、それでも風鈴を鳴らしたいと考える家庭も少なくなってきているのだろう。
そもそも、一昔前であっても風鈴というものは誰もが使うというものではなかった。それでも、時折どこかから聞こえる涼し気な音に安心感のようなものを覚えたものだ。
でも、それも昔の話。時代は変わってしまった。
だからこれまでは気にすることもなかった。
あるいは、あまり大きな音が鳴らないように気を遣っているのかもしれない。
―――ちりんちりん。
だからこそおかしいのだ。
こんなにも大きな音に今まで気付かなかったのか。
それだけではない。
顔を上げて視線を周囲に巡らせる。
それがどこから聞こえてくるのかわからない。
ぶわりと汗が滲む。
不思議な感覚。住宅街に反響しているという理由ではない。本当に、どこで鳴っているのかわからないのだ。
脳が揺れるように痺れる。寒気がする。得体の知れないどこかに紛れ込んでしまったような恐怖。
ここは自分の知っている世界なのだろうか。
―――ちりんちりん。
それ以外の音が消え、静まり返っている。人の気配もない。単に暑いからでは説明のつかない異常さ。
走り出す。
その音から逃げるように。
一刻も早く、目的地に着くように。
ああ、そうだ。
そもそも自分は、何のために、どこに行くつもりだったのだろうか。




