1.点字ブロックは神である。
渋谷の雰囲気は、嫌いでこそないが兎にも角にも歩きにくい。
周り全てから音が反響し、慣れていても
ぶつかるのが当たり前。
私のペースに、誰も合わせてはくれない。
ガヤガヤとした喧騒を抜け、人気のない公園に入る。
公園内では、土の感触を楽しみながら、
カサリカサリと落ち葉を踏みしめていた。
白杖をベンチに立て掛け、恐る恐る座る。
リュックサックから、お茶を取り出して、
コクりと飲む。
少し落ち着いた。
どこからか甘い花の匂いがする。
この季節なら、ヒゴロモソウだろうか?
ヒヤリとした空気の冷たさで、少しばかり肌寒い。
秋は過ごしやすい季節とはいうが、私は夏の暑さや、
空気そのものが好きだ。
帰ろう。
ベンチの横で、白杖が私を待っている。
一歩、また一歩。
足の下に奇妙な凹凸の感触が戻ってきた。
――点字ブロック。
この世界で、私を導いてくれる、ただ一柱の神。
点字ブロックは、全ての人に差別をしない。
他のスペースはくれてやる。だが、
私の自由はくれてやらない。
「きゅるるー」
おっと、腹の虫が鳴いている、小腹が空いてしまった。
帰る前に、何かお腹を満たせるものを…どこに入ってるかな?
リュックをごそごそ漁くり、手作りサンドを見つける。
ラップで包んだサンドイッチには、肉厚なお肉と玉子焼き、
それとレタスが挟まれていた。ラップをゆっくり剥がすと、
鼻腔をくすぐるのは、香ばしい油とパンの甘い匂い。
これこそ最強だ。
人が座れる幅の花壇ブロックに座り込み、
一口、また一口。
視線を感じながらも、気にせず噛む。
咀嚼音に嫌悪する人は多いが、私は敢えて噛む。
見えない私にとって、咀嚼音は、私の音であるとともに、
私の大事なリズムなのだ。
周りに音がないと不安になる。
音があると安心する。
周りと、私の音が混ざり私になる。
雑踏の中、風が吹き抜ける。
リュックから飛び出た買い物袋が、
ガサガサと音を立てる。
今日の外出は、母から買い物を頼まれたからだ。
母は、私がいくら結果を出しても、出来て当たり前だと言う。
しかし、それが堪らなく嬉しい。私を普通に扱ってくれるのは、
母だけだから。
秋の静けさも、人波に呑まれて風情がない。
その風情のなさも、またかくあればこそだ。
人は騒がずにいられない生き物だから、
喧騒もまた、遠くに感じる。
行き先は、わが家。
行く先を示す道は、途切れ途切れになって
不安にもなるが、自分のペースで進む。
足裏の凸凹が、私を安心させる。
この凹凸は、踏みしめる度に、
足裏マッサージのようで気持ちいいのだ。
やはり、点字ブロックは神である。




