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宇宙船インフィニティ

作者: 古数母守

 宇宙船インフィニティは遠く離れたイリシオス星系に向かっていた。何もない宇宙空間をひたすら真っ直ぐに進むだけの航路であり、船は自動操縦だった。乗組員たちは皆、冷凍睡眠装置で眠りについていた。イリシオス星系に到達する頃に、彼らは目覚めることになっていた。比較的容易なミッションであり航海はすこぶる順調であったが、ある時、冷凍睡眠装置で誤作動が生じてしまった。それは半導体素子の異常に起因するものであったかもしれないし、除去しきれなかったソフトウェアのバグに起因するものであったかもしれないが、結果として一人の乗組員を冷凍睡眠から目覚めさせることになった。


 突然、心地よい眠りを中断させられたエドワードは、船内でぼんやりしていた。イリシオス星系に着いたのかと思って現在位置を確認したが、まだまだ遠く離れていることがわかった。なんだって自分は目覚めてしまったのだろうかとエドワードは思った。そして冷凍睡眠装置で眠りについている同僚たちを眺めていた。その中には彼が秘かに思いを寄せるエミリーがいた。

「ああ、エミリー」

エドワードはつぶやいた。だがその思いは叶いそうになかった。エミリーが船長のトーマスに好意を抱いていることはクルーの間では周知の事実だった。

<いい気になりやがって。俺の方が年上なのに、いつも偉そうにしやがって。お前の何がいいんだ。世渡りが上手いだけじゃないか>

エドワードは思った。そして眠っているトーマスの顔にこっそりマジックで落書きしてやろうかと考えた。

<いや、もしかしたらこれは罠かもしれない>

銀河開発事業団は時々、抜き打ちで乗組員の適性をテストするという噂をエドワードは思い出した。そして自分は今、そのテストの対象となっているかもしれないと考えた。

「やっぱりあいつは信頼の置けない奴だった」

ここでうっかり変なことをしてしまったら、そう言われて笑い者にされた上、事業団を追放されてしまうかもしれない。そんな見え透いた罠に引っ掛かる訳にはいかない。そして彼は再び眠りにつくことにした。だがその時、隣で寝ているゴードンの装置のボタンにうっかり触れてしまった。


 しばらくするとゴードンが目を覚ました。イリシオス星系に着いたのかと思って現在位置を確認したが、まだまだのようだった。

<腹が減った。何か食べ物はないかな?>

ゴードンは考えた。久しぶりに肉が食べたいと彼は考えていた。だが、こっそり撮影されているかもしれないと思った。

「冷凍睡眠中にこっそり肉を食べていた人がいます」

そう言って私を笑いものにするつもりかもしれない。そう思ってゴードンは食べるのをあきらめて冷凍睡眠に戻ることにした。だがその時、隣で寝ているジェームスの装置のボタンにうっかり触れてしまった。


 しばらくするとジェームスが目を覚ました。実は彼は地球人に紛れたエヌ星人のスパイだった。エヌ星人はいつも地球人にひどい目にあわされていた。いつか仕返しをしてやろうと同志たちと誓った日のことをジェームスは思い出していた。もしかしたら今、この船にある機密情報を入手するチャンスかもしれない。彼は一瞬そう思ったが、すぐにこれは罠に違いないと考えた。

<この中に俺がエヌ星人と知っている奴がいるのかもしれない>

とにかく慎重に行動しなければならないと彼は考えた。こうしてみんなが眠っていると思うと、つい本性が出てしまうものなのだ。私にはエヌ星の未来が掛かっている。ここで捕まってしまう訳には行かない。そう考えて彼は再び眠りについた。


 宇宙船インフィニティは広大な宇宙空間をイリシオス星系目指して突き進んでいた。それぞれの思いを胸に乗組員たちは皆、深い眠りの中にあった。


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