第七話 初めての友達
――――四才になった。
魔法の練習を続ける内に魔力操作に長けてきたのか、最近段々と邪魔に感じてきていた自分の羽と尻尾を寝ている時も消せる様になった。
三才ぐらいまでは服を着たら隠せる程度の大きさだったが、それでも自分の背中やお尻から灰色の物体が出ている事の違和感を拭えなかったから常時消せる様になって良かったと思う。
そもそも、羽はまだそこまで大きくないからか羽だけでは飛べないし、闇魔法と風魔法の併用だけで空を飛ぶ事は出来る。
もう少し大きくなれば羽だけでも頑張れば飛び立てるらしいが、基本的には空中での姿勢維持や方向転換等、魔法浮遊の補助に役立つ様だ。
何はともあれ、これで見た目は完全に人間。
短髪グレイヘアのそこらによくいるただの元気な四才児だ。
魔法の方は、あれからも一応全属性の練度上げはしているが、基本六属性はどうせ高適性の種族と対峙したら立ち打ち出来ないだろうと思い、最近は空間魔法の練習に重点を置いている。
空間魔法は現状、かろうじて上級の[リサイズ]までは使える様になったが、まだまだ魔力量が少なく、魔力精度も低いので中々思った通りには出来ない。
[空間掌握]という能力のお陰か、本来複数人でやっと発動出来る[ゲート]を単独で発動出来るのは大変嬉しいが、まだ魔力が少ないから遠くに[ゲート]の出口は作れないし、[ゲート]自体も大きく出来ないからヒトは通れない。
さらに、魔力精度もまだ低いから入口出口共に思い描いた場所から大きくずれる。
近道はない、日々精進あるのみ……
――――そんなある日、父はガードの仕事に出掛けたので俺はいつもの様に庭で魔法の練習をし始めた。
俺は手を前に出し、いつもの反復練習をする。
「[ゲート]」
少し離れたところにヒトの頭の大きさ程の黒い円が二つ出来た。
「また失敗……まだまだ上手くいかないなぁ……」
いつもと対して変わらない成果に少しガッカリしたが気を取り直して再度手を前に出して[ゲート]を発動する。
「[ゲート]」
先程とあまり変わらない結果だ。
「何それ?魔法?」
急に門扉の方から女の子の声が聞こえた。
振り返るとそこにはいつもお手伝いで代わる代わる来てくれるヒトの一人、エルフの【ジヒメ】さん、とその隣にはジヒメさんにどことなく面影が似ているエルフの少女、さらにその少し斜め後ろに獣人族の少年がいる。
「サンちゃん、来るのちょっと遅くなってごめんね〜」
金髪ロングで小柄美人のジヒメさんが今日は家事をしに来てくれた様で、手を振りながら近付いて来た。
「いえいえ!いつもいつも有難うございます!
父も僕もめちゃくちゃ助かってます!」
「相変わらずサンちゃんはうちの子と違ってしっかりしてるねぇ」
(そらそうだ、中身は立派なおっさんなんだから……)
「娘にいつもサンちゃんが魔法の練習しているって話していたら見てみたいって言うから今日は連れて来ちゃった!」
ジヒメさんがまるでテヘッと言いそうな笑顔で言った。
(なるほど、それで俺の[ゲート]を見て驚いていたのか……)
「その話しが聞こえて俺も一緒に行きたいってお願いしたんだ!」
と、斜め後ろにいる茶毛の犬っぽい獣人族の少年が少し前に出てきた。
「あ、俺は【ダンサ】!ここにも来てるバタンは俺の母ちゃんだ」
「私は【リハマ】、宜しくね」
ダンサは親指を自分に立て、ジヒメさんと同じく華奢で金髪ショートのリハマはペコリと会釈した。
「申し遅れました、僕はサンノです。
宜しくお願いします」
会釈をしながら四才児らしからぬ挨拶をしたからか、三人は一瞬キョトンとしたがすぐに、
「リーちゃんもダンサもサンちゃんと同い年だからそんなかしこまらなくていいよぅ」
そう言いながらジヒメさんがキャラに似合わず大阪のマダムの様な手振りで教えてくれた。
「そうそう、俺ら三人同い年なんだから仲良くしようぜ!」
「ね!三人で友達になれたらいいよね」
と、二人が四才児らしい模範解答の様な可愛い笑顔で言った。
(友達……そういえばこの世界に来てから年が近い子と関わるのは初めてだ……)
「分かった、有難う!じゃあ俺も堅苦しい喋り方はやめるね!」
そんな子供達の微笑ましい光景に満足したのか、
「よし、じゃあ私はベッコウさんにもらっているお給金分働いてくるね!」
そう言ってジヒメさんは俺の家に入って行った。
前世で色々経験したとはいえ、四才の子供三人集まって何をしたらいいのか分からない俺は現状を打破する為頭をフル回転させた……
「ジ、ジヒメさん行っちゃったね……」
振り返って二人を見た俺の顔はきっと引きつった笑顔になっているのだろうと思いつつ、場を取り繕う為に口火を切った。
すると、ダンサが頭の後ろで手を組んで、
「ま、大人はいない方がいいよ!俺達だけで遊んだ方が楽しいじゃん!」
「でも危ない事はダメだし庭から出るのもダメだってお母さんが言ってたよ?」
そう言いながらリハマがダンサに少し詰め寄った。
「あ、じゃあさサンノ!さっきの魔法?あれ教えてくれよ!」
「ダンサずるい!私も教えてほしいぃ」
(四才児の方が俺より場繋ぎ力があるとは……おっさんなのにごめん……)
「あぁ、うん、教えるのはいいけど、親に黙って勝手に教えても怒られないかな?
俺、せっかく二人と友達になれそうなのに勝手に魔法を教えて友達付き合いを止められるの嫌だなと思って……」
そう言うとダンサとリハマは少し互いに顔を見合わせた後こちらに向き直して、
「私は大丈夫!いつもお母さんからサンノ君の事聞いてて今日も魔法を見たいって言って付いて来たから」
「うーん俺んちは魔法の話しは特にしてないけど母ちゃんからサンノの事はよく聞いてたぜ!
母ちゃんが家事をしに行く家にめちゃくちゃ優秀な子供がいるって褒めてたからたぶん大丈夫じゃないか!」
ちょっと鼻がむず痒くなったのでこっそり鼻を擦った。
「この時間ってバタンさんは家にいる?」
「おう、たぶんいると思うぞ!」
「じゃあさ、バタンさんに、サンノから水を出したりする生活が便利になる魔法を教えてもらってもいい?って聞いて来るのはどう?」
「お!それいいな!今すぐその通り言って来る!少しだけ待っててくれな!」
ダンサはそう言いながら俺に後押しされて力がみなぎったのか体の前で握り拳を作り、言い終えるとすぐ元気良く走り去って行った。
途中去り際に一瞬こっちへ振り返り、
「二人だけで抜け駆けするなよ!リハマ!」
と言っていたので、マンガやアニメだと「覚えてろよ」と言う完璧なタイミングだなと思いながらダンサを見送った。