第六話 魔法の初期練習・開発
――――数週間が経った。
あれから魔法の理解と練習を深め、俺は基本六属性の初級と空間魔法の[バッグ]は使える様になった。
空間魔法は[バッグ]でさえも使えるヒトがかなり少ない様で、父に使って見せると大変驚くと同時に、神童だの天才魔法少年だのと騒いでそれ以来大鎌を勧めてくる事はなくなった。
単一の各属性初級だけだと、
光→豆電球より少し明るい光が出た
(近くを見るだけなら懐中電灯は不要になる)
闇→ヒトや物を少し重くしたり軽くしたり出来た
(体重測定の時等は魔法が発動出来ない様になっているらしい)
火→マッチで点けた様な小さな炎が出た
(ライター要らずで喫煙者には必須魔法か?)
水→ヤカンで注ぐ時ぐらいの水が出た
(飲めるし意外と便利だが浴槽等に貯めるにはまだ水量が弱くてじれったい)
風→扇風機の弱風ぐらいのそよ風が出た
(スカートを履いた女性の近くでは使わない様にと注意書きがあった)
土→地面にポコっと拳大の突起が出た
(風と同じく、スカートを履いた女性の足元に出して転ばすなと書いてあった)
どんだけ魔法を悪用する奴がいたんだ……
というかスカートの女性以外にもダメって書かなきゃ……
とはいえ、とりあえず全ての初級を使える様になったので、後は日々練習して魔法効果を上げようと思う。
それと並行して、次は魔法書を参考に庭でこれらを組み合わせる練習をする。
最初は水と闇で作る水の玉、[ウォーターボール]だ。
頭の中でまずは水のイメージを固める。
「よし」
いつも通り、前に突き出した手の平から水がチョロチョロと出た。
次はその水に闇魔法の重力操作で周りから均等に圧が掛かる様にイメージする。
チョロチョロチョロチョロ……ピタッ
地面に付く寸前の水と手の平からの水が止まって集まりだしたので、そのまま固まるイメージを続けたら小さな[ウォーターボール]になった。
しかし、
「ふぅ」
と一息付いたら集中が切れてしまったのかパシャっと音を立てて[ウォーターボール]が落ちてしまった。
第一段階としては成功したのかもしれないが、本来これはイメージを同時に継続しなければ[ウォーターボール]が大きくはならないのだろう。
(難しい……けど……楽しくなってきた!)
しかもこれを攻撃手段として使うには、集めた[ウォーターボール]をさらに闇魔法で軽量化して風魔法で飛ばし、目標に当たる寸前で軽量化を解除する必要があるみたいなので先は長い……
――――さらに数日が経った。
[ウォーターボール]を維持して飛ばすのは段々出来る様になってきた。
まだヒトを吹っ飛ばす程の強さはないが、地球にある縁日の射的屋さんがあったら最新のゲーム機も落とせるだろう。
魔法の並行処理にも慣れてきて味を占めたので、次は土魔法で作った土を闇魔法で軽くして風魔法で拡散させる[サンドストーム]が使える様になった。
その小さな[サンドストーム]を見て俺は粉塵爆発を思い付いたのですぐ火魔法をぶつけてみたが、可燃性の粉塵が少なかったのか上手く着火しなくて肩を落とした。
ただ、後から冷静に考えたら家の庭で成功しなくて良かったとも思う……
こういった組み合わせの可能性を模索しながらパラパラと魔法書のページをめくっていると、無属性の初級に[性質変化]という魔法があった。
これはどうやら、
固体を生み出す土魔法
液体を生み出す水魔法
気体を生み出す風魔法
これらに合わせる事で数秒間だけ既知の性質に変化させられる様だ。
ただの土塊を金やダイヤに変えられるのではとヌカ喜びしたが、『数秒間だけ』という文字を見てスンッとなった。
しかしこの[性質変化]を覚えた事によって組み合わせのバリエーションは劇的に増えた。
可燃性粉塵に変化させた土+火→粉塵爆発
可燃性油に変化させた水+火→広範囲延焼
可燃性ガスに変化させた風+火→大爆発
変化させた水+変化させた風+火→火炎放射
といった感じだ。
もちろん庭で練習するには危ないので流石に今回は父にお願いして町の外に連れ出してもらって練習した。
ただ、変化させられるのはあくまでも既知の性質に限られていて、例えば、毒や毒ガスは前世を含めても知らないから今は作れないが、恐らくこの先毒や何かしらの効果を及ぼす成分を知れば作る事が出来るだろう。
これら色んな可能性にワクワクすると同時に、改めて魔法の恐ろしさが身に染みた。
ヒトを簡単に傷付けてしまう能力を覚えた事をきちんと理解して、過不足ない様に運用したいと父と自分に誓った。
――――翌日、前日の俺の誓いに感動したのか、父は傷を直すポーションと減った魔力を回復するマジックポーションを全種類買って来てくれていた。
いずれのポーションも効果量によって初級中級上級とあり、上級になると十本もあればこの家が買える金額との事。
せっかくなので全ポーションを、まずは瓶を触りまくったり瓶自体を一舐めしてみたりした。
瓶を堪能したら次は瓶から手の平に少し出して直に触ってみたり匂いを嗅いでみたりした後、ワインをテイスティングするかの様に味わいながら全てを飲み干した。
こんな行動に意味があるのかは分からないが、流石に父も少し苦笑いをしていた。
早速、[ウォーターボール]を作って今堪能したポーションに[性質変化]させてみたが、残念ながら父も自分も元気一杯、健康そのものなので効果が分からないだろう……
だが父は結果報告を楽しみにしていそうな顔でこちらを見ているので、出来たポーションを一気飲みして、
「ポーションになってる!腰痛がなくなった!
わざわざ買ってきてくれて有難う父さん!」
三歳児に腰痛はないだろと思いつつ、そう言いながら俺は父に抱き付いた。
父は満足気に笑いながら俺の頭をグシャグシャに撫でていた。