第五十一話 役割分担
クマスが[ゲート]が開くと中から身なりのいい金髪の男が出て来た。
「ふむ、あなたは確かトーミナク第三王子の……?」
金髪の男が[ゲート]から出て来るやいなや、悪魔代表の男はそう言いながら値踏みをするかの様に凝視した。
「突然の面会、申し訳ございません。
改めてご挨拶させて下さい。
私はトーミナク第三王子、コーア・トーミナクと申します」
そう言いながらコーアは貴族らしい上品なお辞儀をした。
「それで……今後のキーマンとの事ですがコーア様はどうなさるおつもりなのですかね?」
「はい、クマ、ゴホンッ、失礼……吸血鬼代表様からこの集まりの事はお伺いしておりますが、悪魔代表様とお呼びすればいいですか?」
「フフフ、名前を言いそうになってわざわざ訂正されなくても構いませんかね。
この期に及ぶともう名前を隠す茶番も必要ないでしょうし、皆ここのメンバーの事は調べているでしょうからね」
悪魔代表の男がそう言って全員を見回すと、魔人代表の男は一瞬ドキッとした顔をした。
「そ、そうですね、私は魔人代表改め、魔人族【シクトマ】国軍大臣、【ビノハキ】と申します」
「私は吸血鬼族の生き残り代表として来ております、クマスと申します」
「儂は獣人族の国【タートイ】軍総大将、【ナセン】という者だ」
「私は悪魔族【ジクンシュ】国軍参謀長の【ミーシズ】という者ですかね」
「皆様有難うございます。
それでは今後、この場では皆様をお名前で呼ばせていただきます」
ビノハキが口火を切って名乗ると、それに続いて目下の者から順に次々と名乗り、コーアはそれに対し深々と頭を下げながらお礼を言った。
「それではコーア様はそちらの席にでもお座りいただきましょうかね」
「有難うございます」
ミーシズが下座で空いている一つの椅子を手で指すとコーアはお礼を言ってそこに座り、活動報告をし始めてから立ったままだったクマスも着席した。
「それで?コーア様はなぜ同族を裏切って一箇所に手引きしようとなさっているんですかね?」
「はい、それではまず理由からご説明させていただきます。
皆様ご存知の通り我が国は、中道派の国王陛下、タカ派の第一王子殿下、ハト派の第二王子殿下となっており、現状、国の政策としてはハト派に近い為、国王一派と第二王子一派が手を組んでいる状態です。
その為、このままだと第二王子が王位を継承してしまうと危惧した第一王子は、この国を戦争に導いてタカ派が台頭する様に仕向けようとしました」
「まぁそこまではこの国の事を知ってる奴なら大体知っているわな」
コーアは黙ってナセンを見ながら頷いた。
「まず、第一王子は『ある者』の助言や助力を得て、国民感情に根深くある選民意識を刺激しました。
そして、高まったヘイトを魔人族へと向けさせ、戦争は仕方がないという風潮に世論誘導をしました」
「『ある者』とは誰ですかね?」
「トーミナク国軍元帥の【トスモ】、この者です」
コーアは懐からタグを出し、画面一杯にトスモの顔写真を出して見せた。
「この写真はクマス様にもお渡ししておりますので後程皆様もお受け取り下さい。
トスモは元帥という事で頭も切れる上、自身の戦闘力も非情に高く、その者の入れ知恵もあって第一王子一派が台頭して参りました。
当然、トスモを始め、第一王子一派は皆戦争で何らかの利益を得る者達なので利害も一致しており、結束が強いのです。
しかし私はこの国が戦争をする事には反対の為、何としても第一王子一派を止めようとしましたが、トスモが第一王子最大の後ろ盾という事を最初は知りませんでした。
その為、可能性がある者を中心に、「第一王子は無能なので第三王子に頭を変えるべき」と吹聴して回ると徐々に第一王子の存在感は薄れ、皆が私に従う様になりました」
「ではこの国を内偵させている者から聞きましたが、コーア様の悪評が急に目立ち始めたのはその為だったのですか?」
トーミナク首都を中心に、第三王子の評判が急に悪くなった事をアーシャはシクトマ国に報告していた為、その事はビノハキの耳にも届いていた。
「そうですね、城の内外でタカ派の印象付けをする為、目立つ場所では率先して他種族に悪態を付いていました」
(サンノ君からトーミナク首都のレ組で第三王子に絡まれたって聞いていたけどわざとだったのね……
ちょっとサンノ君達が可愛そうね……
フフフ……)
「いずれにせよ、私は第一王子のポジションに成り代わる事が出来たのでトスモの存在を知り、クマス様に使いの者を行かせたのです」
ちなみに、先日バイーダに来たミルツはコーアが言う使いの者だが、ミルツに会った事は国へ報告しない様クマスがアーシャにお願いをしていた。
クマスは何としてもこの話しをまとめたかったので、魔人族以外の種族も集まる場で初めてこの話しを出した方が魔人族単独で断る事はしないだろうと考えたのだ。
この考えはアーシャとも共有していた為、この日の前日コーアと初めての極秘会談をする際にもクマスは単独でコーアの元へと赴いた。
「なるほどな!あんたの考えや計画は大体分かった!
要するに、第一王子に成り代わって戦争推進派のメンバーを掌握したから一網打尽にして大掃除しようって腹か!」
「仰る通りです」
コーアはナセンに座ったままお辞儀をした。
「ただ、一つ分からねぇのが、あんたは何でそこまでして戦争を止めたいんだ?
それに、身内を売るって事は身内が死ぬ可能性もあるんだろ?」
「はい、それは、甘言に惑わされやすい第一王子では国の行く末が危ぶまれるので、私は第二王子に王位を継承してほしいと思っているからです。
それと、第一王子は前王妃の息子で、第二王子と私は現王妃の息子というのもあります」
「ガハハ!この機会に第一王子を亡き者にして王位継承権争いも終わらせようって事か!」
コーアの腹黒さをナセンは気に入った様だ。
「えぇ、第一王子が国を任せるに値する人物なら母親の違い等どうでも良かったのですが……
元々私は王位継承権に興味がないですし……」
「話しは大体分かりましたかね。
それでは、具体的にどうなされるおつもりですかね?」
「はい、今から一週間後の夜、城の塔で決起集会をする予定でして、そこに第一王子やトスモ含め、一派が全て集まる予定なので塔を爆破していただきたいのです。
ただ、出来れば爆破前にクマス様が持っておられる銃という武器で遠くからトスモを殺して下さい。
あの男だけ塔を爆破したぐらいでは死なない可能性もあるので……」
「爆破は工作員が持って来たダイナマイトという物があるからこれなら充分塔を爆破出来ると思います」
クマスはそう言って[バッグ]からダイナマイトを一つ出してテーブルに置いた。
「塔の低い所は足が速い獣人族の方にこれを設置してもらい、高い所は悪魔族の方に上空から設置していただければと思います」
「分かりましたかね」「おう!分かった!」
「では私は銃でトスモを殺す役をさせてくれ!
黒幕だけはこの手で始末したい……」
「分かりました、ではこのスナイパーライフルという銃をお渡ししておきますので、一週間後までに練習をお願いします」
「分かった!」
こうして、トスモの狙撃は魔人族、地上付近の爆薬設置は獣人族、高層部の爆薬設置は悪魔族、という役割分担が決まったのでクマスは持っているダイナマイトを全て[バッグ]から出し、ミーシズとナセンに渡した。
(狙撃役がビノハキだけだと不安だからサンノ君達にも下見してもらって[ゲート]で不測の事態に対応出来る様にしてもらっておこうかな……)
「では次は一週間後の夜、塔から一番近い城壁の外にお集まりいただくという事でいいでしょうか?」
「「はい」」「あいよ!」
そう言ってコーアが立ち上がって頭を深々と下げると、皆荷物を[バッグ]に入れ、クマスとコーアだけ残して会議室を後にした。
「クマス様この度は有難うございました」
「いえ、この作戦が上手くいく事を祈っております。
それではコーア様、[ゲート]でお送りいたします」
ヴヴンッ
こうして、コーアを送り終えたクマスは、自身も[ゲート]でバイーダ坑道へと戻った。




