第五話 魔法の理解
――――三才になった。
今回の誕生日プレゼントで俺はやっと魔法に関する本を父に買ってもらえた。
当然、二才の誕生日にもお得意のクリティカルおねだりスキルを炸裂させたが、未熟な子供が魔法を暴走させてしまう心配の方が甘やかす気持ちよりも勝ってしまった様で、筋トレや体術の本しか買ってもらえなかった。
(いや、まだ体が出来ていない幼児にその本もまずいだろ……)
とは思ったが何はともあれ、魔法書を読みながら早速魔法の勉強だ。
部屋で何かあったらリフォーム費用で父を泣かせてしまいそうなので庭で本を読む事にしたが、庭に出ると今日は父も休みなのか父は素振りをしていた。
自称堕天使で厨二病末期症状だからか父のメイン武器はマンガやアニメに出てきそうな死神の大鎌だ。
父の事は大好きだが少し恥ずかしいし、ちょくちょく決めポーズを取ってドヤ顔でこちらをチラ見するので、遠くで素振りをしてほしいとも思う。
気を取り直して、チラ見してくる父には悟らせない程度に満面の愛想笑いをしながら俺は魔法書を読み進める。
どうやらこの世界の魔法はファンタジー世界にありがちな基本六属性と、各属性を補助したり特殊な作用をする無属性を合わせた、計七属性の様だ。
ただ、各属性に対する強弱の相関関係は特になく、しいて言えば火と水が相互弱点になるかなというぐらいで、よくある水→火→風→土→水という様な四すくみとかではない。
なお、無属性は前述の六属性とは違って、基本的には直接攻撃に適さない魔法なので特殊枠の様だ。
自分の属性適正値や魔力を知覚するステータスプレートの様な物はないので、種族毎平均値を書物から把握した上で一つ一つ確認するしかないが、自分で分かりやすくする為、便宜的に適正値を数値化する事にした。
この世界のヒトは全種族大なり小なり魔力を保有しており、基本的には全てのヒトが最低限七属性の適正値を一は保有しているらしい。
そこから、種族特性に適した属性だけ三とか五とかになる様だ。
上には上がいるだろうし、最上級の魔法使いがどれぐらいなのか分からないので何点満点なのかは置いておきたい。
各種族と適性属性に関しては、
天使族:光属性
悪魔族:闇属性
魔人族:火属性
人間族・魚人族:水属性
翼人族:風属性
獣人族:土属性
竜人族:個体差があるが基本は物理特化の脳筋
となっている。
なお、まだ俺が授乳していた頃は他種族と魔人族の違いが分かっていなかったが、どうやら実は魔人族の乳母さんも来てくれていた様だ。
有難い話しだ。
また、エルフ族は鳥人族とまとめて翼人族に入るらしい。
そしてどうやら、父が俺に代わる代わる多種族の乳母さんを連れて来てくれていた事には大きな意味があって、乳児は授乳したらその種族の属性適性や属性耐性を少し受け取れる効果がある様だ。
とはいえ、それだけで適正値がオール五とかになる訳ではない様なので、チート無双で俺TUEEEが出来ないのは残念。
それに、竜人族の俺は基本的には脳筋種族の様なので、魔法攻撃(物理)となりそうで悲しい。
もしかしたら父はそれを知っていて俺にも大鎌を持たせようとチラ見しているのか……?
(いや、武器を持つとしても大鎌はたぶん選ばない、すまん父さん……)
再び気を取り直して俺は魔法書を読み進めた。
どうやら魔法を発動するには特段、長い詠唱や魔法陣の様なものは不要で、完全無詠唱でもいいが発動する魔法名をトリガーとして口に出す事が多い様だ。
(火の精霊よ、汝の力を与えたまえ、我汝の力を〜)
みたいな厨二病っぽい事を口に出さなくていいのは助かる。
しかし魔法を発動するにはイメージが重要で、まずはそれが完璧に出来ないと魔法が発動しない。
その為、頭の中でイメージを素早く具体的に出来る様、魔法書にはもっぱら図柄や絵、また、それを補足する説明文ばかりだ。
ひとまず俺は転生時に与えてもらった空間魔法のページを探した。
どうやら空間魔法は一応無属性に含まれており、攻撃には適さないので生活魔法に分類されていた。
そしてそこにはまず一番最初に、
『空間魔法は初級でさえも無属性適正が高くないと使えません』
という注意文が書いてあったので一瞬身構えてしまったが、適正値を調べる術を知らないし、一応転生時に[空間掌握]という能力を受け取ったので俺には関係ないだろう、と前向きに考えてスルーを決めた。
この本には合計四種類の空間魔法が紹介されており、必要な適性値や魔力が低いものから順に、
初級【空間収納(通称:[バッグ])】
(四○元ポケットの様なもの)
中級【空間移動(通称:[ゲート])】
(どこ○もドアの様なもの)
上級【空間拡縮(通称:[リサイズ])】
(ガ○バートンネルの様なもの)
特級【空間創設(通称:[亜空間])】
(ボッチの楽園)
が載っていた。
中級以上の三種類はさらに高い無属性適正に加えて、膨大な魔力も必要なので各地のゲートポータルは通常、適性をもったヒトが数人掛かりで魔石の補助も受けて発動している様だ。
なお、俺が与えてもらった空間掌握という能力はどれをどのぐらいの規模で使えるのかはまだ分からない。
ただ、空間魔法に限らず全属性に共通して単一属性だけでは生活魔法程度の為、全属性を並行して練習した方が良さそうだと本を読み進めて分かった。
例えば、[バッグ]に重い物を収納するには闇属性の重力軽減魔法を併用したり、水玉を攻撃に使えるぐらいの威力でぶつけるには風魔法を併用したり、といった感じだ。
これは一朝一夕には使いこなせなさそうだなと天を仰ぎながら、
「ふぅ」
と溜め息にも似た一息を付くと、「な!お前も魔法なんか諦めて俺と一緒に大鎌の練習をしよう」と言わんばかりの父のニヤけ顔が視界の端に見えた。