第四十四話 ガナタとの初顔合わせ
――――クマスと日本へ行く約束をした翌日。
俺とピンは昼ご飯を食べ、[ゲート]でクマスがいる部屋(?)のパーテーション前に来た。
「クマスさーん!」
俺が呼び掛けるとしばらくして、
「はーい……おはよう……
少し待ってね……」
と、中から寝起きの声で返事が来た。
(今起きたんかい……朝弱いんだな……
それで昼過ぎに来いって言ったのか……
吸血鬼だからか?いや、ピンはむしろ朝俺を起こすぐらい早起きだし関係ないか……)
等と考えていると中から呼ばれたので俺とピンは返事をして部屋に入った。
中に入るとクマスは俺達に前と同じクッションを指差しながら、
「とりあえずそこら辺に座って~」
と言って来たので座った。
「『日本』に行く前にまず少し説明するわね」
「はい」
俺が返事をするとクマスはポケットから二つの時計を出した。
「サンノ君は気付いていると思うけど、トートシンは『地球』と時間の進みが少し違うから[ゲート]を使うのはこの時計の長針が二つ同時に天辺を指した時ね」
地球から持って来たであろう時計の天辺には十二の文字が書かれており、トーミナクの時計には十の数字が書かれている。
「なるほど、時間が違うから『地球』の時計も用意していたんですね」
「当然よ!向こうにいるガナタにはこっちの時計を渡しているしね!
それと、これもサンノ君は薄々気付いているかと思うけど、こっちより『地球』は重力が強いから最初は体が重く感じるだろうし気を付けてね」
「分かりました、ピンももしきつくなったら闇の[重力操作]とかで体を軽くするんだぞ」
「うん!」
「あ!というか、『地球』で魔法は使えるんですよね?」
「えぇ、じゃないと私こっちに帰って来れてないじゃん!
使える理由は分からないけどね!」
「『地球』でも魔力は自然回復するのか、それとも、こちらで溜めた分しか使えないのかはどうなんですかね……?」
「うーん……
ガナタは向こうで[眷属化]を何十人にも使っているみたいだからたぶん自然回復するんじゃないかな……
ま、私は運良く優秀な[ゲート]要員を確保出来たから気にしなくていいし、もし気になるならサンノ君検証ヨロ!」
「く……」
何となく俺はこの先もずっとこのヒトにこき使われそうな未来が見えた……
(でもピンを助けてもらった手前、俺、このヒトには頭上がらないんだよな……)
「ま、細かい事は気にしない!
そうこう言っている内に後二・三分で[ゲート]を開いてもらう時間よ!」
「はい、とりあえず『桂浜』をイメージして[ゲート]を開いたらいいんですよね?」
「えぇ!一応、いらないとは思うけど、補助用の魔石を渡しておくわ」
「有難うございます」
クマスはそう言いながら俺に握りこぶし大の魔石を渡して来たので受け取った。
「まぁじゃあ一・二分早いかもですが、初めての超長距離[ゲート]ですし、イメージして開けそうなら開きますね」
「えぇ、お願い!
あ、海の満干具合とか、雑木林の季節感とかは頭の中で色んなパターンをイメージして探っていく感じだから!」
「了解しました」
俺は立ち上がってピンの手を握り、片手を前に出した。
頭の中でイメージを固めて行く。
そして満干具合や季節感を色んなパターンで組み合わせてイメージした景色に当てはめていくと、急激な脱力感に襲われる瞬間が来た。
(これだ!このパターンだ!
ただ、俺の魔力で足りるのか……?)
「一致するパターンを見付けました![ゲート]開いてみます!」
ヴヴンッ
「やったね!流石サンノ君!」
「これ、距離があるから一気に魔力持って行かれますね……」
「いやいや、魔石無しで一発成功は上出来上出来!」
かなり魔力を使ったからか、体がすごくダルい。
「ま!じゃあ早速!行きましょ!」
「「はい!」」
そして俺達三人は[ゲート]を潜った。
ただでさえ魔力消費で体がダルいのに、[ゲート]を通った瞬間、重力の違いで体が重くなって益々ダルさが増した。
いずれにせよ、無事地球に着いたがこちらは冬の夜だった様で少し肌寒く感じた。
「思ったより重力の差ってしんどいですね……」
「まぁ初めての超長距離[ゲート]で魔力も大分使った後ってのもあるだろうね!
次からはそこまで使わないから大丈夫よ!」
「次も俺にさせる気満々じゃん……」
「フフフ……あ!丁度ガナタが来たみたいよ!」
クマスがそう言うと道路の方からこちらへと向かって歩いて来る眼鏡を掛けたスーツの男性が見えた。
「ん?その子達は?」
「あぁこの子達は私と同じ『地球』出身の転生者よ」
「ほう……ん?その女の子は何か見た事ある気が……」
クマスはガナタにピンの事や俺の事、それと、自分達の復讐に手助けしてもらう事等を話しした。
「なるほどな……
まぁ余りこれ以上他のヒトを巻き込みたくはないと思っていたが、同じ『日本』出身者で、ピンちゃんもいるならむしろこうなるべくしてこうなったのかもな」
「ピンもいるならってどういう事ですか?」
「ん?話ししていないのか、クマス?ピンちゃんを連れ去ろうとしていたのは、俺達の復讐相手と同じトーミナクの第一王子一派ってのを……」
「あ、私達の復讐相手もピンちゃんの仇と同じってのは言ってなかったわ……」
「ほんとお前は昔からおっちょこちょいなところあるよな……
相変わらずそうで安心したよ……」
「それより、ガナタさん達の復讐相手も第一王子だったのですね……
俺達の復讐相手が第一王子だって事はクマスさんが昨日話ししてくれた昔話で知りましたが……」
「そうなのよ!まぁ今は何でか分からないけど第一王子のしていた事を第三王子が引き継いで、第一王子はすっかり表舞台に出て来なくなったし噂すら聞かなくなったけどね」
俺は初対面のガナタさんを立ててガナタさんに聞いたがクマスが割って入って来た。
「まぁ最新の政治情勢なんかはクマスの方が把握しといてくれたらいいよ!
俺はこっちの事で手一杯だしな」
「なるほど……
じゃあガナタさん達の復讐相手は第一王子と第三王子って感じですか?」
「んー、そもそも、第一王子って頭悪い事で有名だったから当初から裏で操っているヒトがターゲットだったけどね……」
「それはまだ誰か分からないのですか?」
「そうなのよ……
だからまぁ第一王子と第三王子とその一派全部に復讐するつもり!」
「なるほど……」
「その辺の調査は引き続きクマスに任せるよ!
サンノ君ももし何かあったらクマスを手伝ってやってくれたら有難い!」
「分かりました!あ、そうだ!忘れるところだった!
十年ぐらい前、ピンをクマスさんと一緒に助けてくれて有難うございました!」
「あぁ気にしないで!
同胞守っただけだし、こうやって運命的な出会いを演出出来た様で心から良かったと思うよ!」
スーツを着こなしてエリートっぽい雰囲気のあるヒトだがすごくいいヒトそうなので、何もなければ幸せな結婚生活を送っていたであろうこの夫婦を復讐の日々に変えた第一王子と第三王子一派を俺は許せない……
「とりあえずこっちは、もう少ししたらトートシンとの玄関口になるこの辺一帯の安全を確保出来るし、後一・二か月もすればそっちに武器を送る手筈も整う予定だ」
「分かったわ!
丁度連合軍の進捗も同じ時期ぐらいに確認する予定だから、次は二か月後ぐらいにまた来るわね!」
「了解!分かっているとは思うが、色々と気を付けろよ!」
「えぇもちろん!ガナタもね!」
「あぁ!サンノ君とピンちゃんもな!」
「はい!」「はーい」
こうして俺達は互いの顔合わせと無事を確認し終えたので、[ゲート]でバイーダ坑道内に戻った。
久々の日本だった為少し他にも行ってみたいと一瞬思ったが、魔力をかなり消費していたし、騒ぎになったりしてガナタの裏工作に水を差す事を恐れて今回は自重した。
その後は、予定していた通りアーシャを坑道に呼び、日本での活動が予定通りである事や、二か月はこのまま動きがないであろう事を報告して解散した。




