第四十一話 迎撃準備完了
ロビーにたまたま居合わせたヒトの協力もあり、今回のワイバーン迎撃作戦に関わるヒトはものの数分で招集出来た。
早速、クマスから全員へと作戦が伝えられ、途中途中で多少ざわつきはしたものの、最終的には俺が提案した作戦を皆快諾してくれた。
それと合わせて、後から揉めない様、討伐後に魔石から得られる報酬や貢献ポイントの振り分けも決められた。
と言うのも、ワイバーンは金級指定という事で、規定では一体につき百万トートと貢献度百ポイントもある為、有耶無耶にするには少し額が大きい報酬だからだ。
俺もクマスも今回の件で町に不信感や不満を持つ者を出したくない為、お金は今回の迎撃作戦に関わる全ての者、約五十名で均等に山分けし、貢献ポイントは俺とクマスを合わせて十名いるレシーバーで均等に山分けする事にした。
報酬の取り決めも終わり、作戦準備に取り掛かる事になったので、俺は角を段々に付けたすり鉢状の[亜空間]を生成し、弓や投擲武器を扱える者と魔法を扱える者を三・四十人[亜空間]内に送った。
俺がつい先程ワイバーンと対峙して間近で見たあの速さで自由に飛び回られると、魔法や武器による攻撃を当てる事は難しいだろうと思った為、その飛行能力を活かせない状況にするべきだと俺は考えた。
その状況の解決策を思い付くに当たって、この町が火口の中にあるという事も大きなヒントになった。
俺は火口をヒントにすり鉢状の空間を[亜空間]内に作り、さらに中で待機してもらうヒト達の足場として、すり鉢状の内部はなだらかな斜面ではなく、角を付けて階段の様にした。
こうする事により、ワイバーンをすり鉢状の最下部へ送るだけで上から全員で安全に一斉攻撃をすればいいだけになる。
ただ、空中で静止しているワイバーンを[亜空間]へ送ったところで真上に浮上される可能性がある為、先程俺がピンを町に[ゲート]で送った時の様に、高速飛行中いきなり送った方が[亜空間]の壁にぶつける事も出来て良いだろう。
その為、先程俺がやった様に、[ライト]や軽い攻撃で注意を引きつつワイバーンから逃げ続けられる有翼人を探す事になった。
俺達は遊撃隊として志願した数人と一緒に再度会議室に入り、部屋の入口付近で立ったまま円になった。
「この中で、最大飛行速度時速百二十キロ以上、平均速度時速百キロ以上で飛べるヒトはいるかしら?」
俺の隣にいるクマスがそう言うと、円陣の中にいるエルフの男女と鳥人の女性が黙って手を挙げた。
その内、エルフの女性が恐る恐る、
「飛べますが、どれぐらいの時間飛ぶ必要がありますか?
正直、長時間は厳しくて……」
と言って来た。
俺は手を挙げ、意見を述べてもいいか?という表情でクマスを見たらクマスは黙って頷いた。
「恐らく、ワイバーンは五体でV字に隊列を組んで向かって来ると思われますが、その内最後尾にいる一体はこちらに近付く前、俺の射程に入った瞬間[亜空間]に送ります」
「じゃあ町に飛来するのは四体ね」
クマスがそう言ったので俺は黙って頷いて続けた。
「はい。で、その四体がすぐバラけるとは思えないので、まずは一番長時間誘導出来る自信がある方に四体まとめて引っ張っていただきたいのです。
そして、[亜空間]内にいるピンから俺に次を送ってもいい旨の連絡が来たら、四体の内最後尾にいる一体を[亜空間]へ送って三体に減らします」
「うんうん、[亜空間]を隔てていてもピンちゃんからサンノ君には連絡が出来るのね!?」
「まぁ本当は俺とニョロですが……」
俺がボソッと言うと俺を挟んでクマスの反対隣にいるピンの髪留めをチラッと見た。
「あぁ……」
「「「??」」」
クマスは少しニヤッとし、他のヒト達はよく分かっていない顔をしている。
「まぁ、いずれにせよ、それで三体まで減らせる訳ね!」
「はい」(有難うクマスさん!)
俺がニョロの存在を隠したがっているのだと察したクマスは話題を戻してくれた。
「で、三体になったら今手を挙げていただいた残りお二人にも加わっていただき、軽い攻撃を当てたりして挑発しながら、三体をバラけさせたり、あえてまとめたりして敵の分断と混乱を画策します。
そうなると、こちらは隙を見付けて交代する事も出来ますし、最初のお一人以外は長時間高速で飛ぶ必要はないかと思います。
後は、クマスさんが全体を見ながら必要な指示をしつつ、他のワイバーンの視界に入っていない個体を順次[亜空間]へと送るだけで終わります」
俺が作戦を最後まで話すと遊撃隊の志願者達は口々に、
「なるほど!」
「それなら私でも出来ると思う!」
「すごいな坊主!」
と、絶賛してくれたので俺は少し恐縮し、
「いえ、本当は俺も誘導係に行きたいのですが、先程ワイバーンを撒いてしまったので覚えられていたら俺を追わないかなと思いまして……」
と言うと、鳥人の女性が、
「いいよいいよ!
じゃあ長時間飛び回るのは自信あるから最初の四体を引き付けるのは私がやらせてもらうね!」
「有難うございます……」
と気持ち良く立候補してくれたので俺はお礼を言いながら頭を下げた。
「他の遊撃隊の方達は、万が一ワイバーンの注意が町へ向いた時に、軽い攻撃を当てながら上空に飛び上がって誘導係にバトンタッチをお願いしたいのですがいいでしょうか?」
俺はそう言いながら先程手を挙げていない他のヒト達をグルっと見渡すと、皆口々に、
「全然問題ねぇよ!」
「おう!むしろそんな事だけでいいのかよって感じだし!」
「全体を見て指示してくれるクマスさんや、逐次[亜空間]でワイバーンを送るサンノ君、誘導係の三人には危険が及ばない様俺らが守るから安心してくれな!」
という感じで頼もしい返事をしてくれたので、俺やクマスさん、誘導係の三人は皆お礼を言いながら頭を下げた。
無事全ての作戦会議と準備が終わり役場の外へ出ると辺りはすっかり夕方になっており、俺達が外に出たのを見計らっていたかの様に、火口の縁で見張りをしていた者からクマスさんにワイバーン襲来の知らせが届いた。




