第三十九話 ワイバーンはプテラノドン?
町の皆が迎撃準備をしている中俺とピンはまず、クマスに教えてもらったワイバーンの旋回目撃地点へ行く事にした。
なお、途中で俺もピンも羽を出し、いつでも高速飛行に移れる様心の準備はしている。
しばらく飛ぶと、予定していた地点に到着したが近くにワイバーンの姿は見えなかった為、俺達は少し巣の方へ向かって飛ぶ事にした。
「ワイバーンさんいないねぇ……」
「油断してたらダメだぞ!
ワイバーンは金級指定されている強敵なんだから……」
ピンはまだ七才だからか、いまいち危機感がない事を俺は少し嗜めた。
すると、前方から五体のワイバーンがまるで渡り鳥の様なV字隊列を組んでこちらへと向かって来ているのが見えた。
五体で卵を探しに行くところなのか、卵を見付けた為仲間を集い怒り心頭で町へ襲撃しに行くところなのかは分からないが、いずれにせよワイバーンを町から遠ざける必要がある。
「ピン、ストップ!五体いるぞ!」
「うん!」
俺とピンは空中で静止した。
「少し回り込みながら、まずは[ライト]でこちらに注意を向かせよう」
「分かった、私も[ライト]使った方がいい?」
「うーん……いや、目を引かせる為に点滅させたりするし、もしワイバーンがピンに向かって行ったりしたら危ないから[ライト]は俺が使うよ!」
「はーい!」
ピンが返事をしながら片手を上げた。
「じゃあ[ライト]使うよ!
最初の動き出しまでは手を繋ぐけど、ワイバーン五体がこちらに向かって高速で迫って来たらピンは俺の前に出て最高速で真っ直ぐ飛ぶんだよ!」
俺はそう言いながらピンの手を握った。
「もしワイバーンに追い付かれそうになっても[ゲート]でピンだけ町の上空に送るから安心して!」
「うん!」
ピンの返事を聞くと俺は横移動しながら、視界の邪魔にならない様頭上に[ライト]を出した。
[ライト]を激しく点滅させているとV字隊列の中段にいた一体のワイバーンがこちらに気付いた様で、急にこちらへと向きを変えた。
「ギヤアアァ!」
こちらに向かって針路変更してきた一体のワイバーンが甲高い声で吠えると他四体も同じ様にこちらへと向きを変えた。
「全員こっち向いた!後は真っ直ぐ飛ぶ針路までピンを引っ張るからそこからはピンが先頭な!」
「分かった!」
町から巣へと向かって行く途中で正面から遭遇した為、ワイバーンを町の反対側へと誘導するにはグルっと回り込む必要があった。
俺はピンの手を引いて大きな円の外周を沿う様に飛びながら、ワイバーンが五体全て付いて来ているか、ピンに炎のブレスが届く距離ではないか等を時折振り返って確認した。
そうして何度目かの確認をした時、俺達に一番近い個体がおおよそ三十メートル程の距離まで差し迫っていたので、
「ピン!俺の前に出て全速力でぶっ飛ばせ!もう後ろは見なくていい!」
俺はそう言いながら繋いでいるピンの手を引き上げ、前へと押し出した。
(ワイバーンを近くで見れた!恐竜のプテラノドンみたいだ!)
ピンには言えないが、ワイバーンの姿形を目視出来る距離で見て俺の少年心(?)に少し火が点いていた。
「分かった!」
ピンはそう言うと風魔力を最大放出して、[血液操作]で出した血の羽が風切り音を出し始めた。
ビュワアアァァ!
ヒューーーーー!
俺が出す竜人族の羽も羽毛等ない為、風切り音が出る。
何なら、尻尾もある為ピンより煩い……
ビューーーーー!
ピンにはもう後ろを見るなと言ったが、俺はピンの飛行速度に合わせながら時折ワイバーンとの距離を確認しており、するとワイバーンも風魔法で加速したのか、じわじわと追い付いて来ているのが分かった。
(このままだともうすぐ追い付かれそうだな……)
「ピン!そろそろ限界だ!
ピンだけ[ゲート]でバイーダ上空に送るから[ゲート]を通ったらそのまま上空で止まって待ってて!」
ピンも俺も高速飛行中の上、ピンは俺よりも前にいるので俺は大声で叫んだ。
「分かった!サンニィも無理しないでね!」
俺の声がちゃんとピンに届いた様なので安心した俺は、[ゲート]でピンと一緒に俺も移動してしまう事を避ける為、少しピンとの隊列を崩して横にずれた。
それと同時に、ワイバーンの注意をこちらに向ける為、再度頭上に[ライト]を出し、激しく点滅させた。
ワイバーンが全て俺に引き寄せられた事を確認した俺は、
「じゃあピン!また後で![ゲート]!」
と叫び、ピンを町へ戻した。
俺だけになるともっと飛行速度を上げられるので、ワイバーンを見ながら徐々に速度を上げてワイバーンの最高速度を測ると、あくまでも体感だが、恐らく時速百キロちょいかなと見積った。
ただこれは、もう十年以上前の前世でバイクに乗っていた時の風圧を基準にしているので、地上より風の強い上空だという事や、地球より少し重力が軽い事等を考えると正しいのか分からない。
それでも、一般道路と同じぐらいの最高速度しか出ないと昔聞いたプテラノドンを上回るワイバーンは、風魔法を使えるから早いのだと自分を納得させた。
そんな考察をしながら結構町から離れた頃、俺の最高速度の方が自分達よりも早いと悟ったワイバーン達は俺の追走を諦め、引き返そうとしていた。
(大分町から引き離したし、時間稼ぎとしては充分だと思うが……攻撃したい……)
俺はそんな事を考えながら少しうずうずしている。
しかし、一度に五体全て倒せたらいいが、中途半端にすると攻撃された怒りを町へと向ける可能性がある為、俺は渋々攻撃を諦めた。
五体のワイバーンが引き返して行くのを確認した俺は、一応見えなくなるまでは空中で待機してから[ゲート]を使った。
[ゲート]はバイーダ上空に出してまずピンと合流しようとしたら、[ゲート]から出た瞬間に後ろからタックルの様な抱き着きをピンがして来た。
「サンニィ~~!おかえり!」
「おう、ただいま!」
俺はピンの頭を少し撫でながら言った。
「とりあえず、下りて町長さんやクマスさんに報告しに行くか!」
「うん!」
俺とピンはスーッと静かに町の中へと下りて羽を消したが、やはり既に何人かは見ていた様で、付近にいたヒト達が駆け寄って来て口々に、
「おい、その羽って竜人族の羽なのか!?」
「俺、初めて見た!」
「それにそっちの女の子は吸血鬼族で血の様な羽って事は[血液操作]持ちなんじゃないの!?」
「しかもチラッと見えたけど単独で[ゲート]使って戻って来てたよな!?」
「えぇ~じゃあそんなすごい子達が偵察に行ってくれていたの!?」
「ありがとな!坊っちゃん嬢ちゃん!」
「疲れただろうけど役場にまだ町長さんやクマスさんがいるから報告だけしに行ってあげてね!」
「他の準備は俺達がやっておくから君達は襲撃までゆっくり休んでてくれ!」
町のヒト達は自分達の町を守ってくれる一員だからか、すごく温かい言葉で俺達を受け入れてくれた気がする。
「有難うございます」「有難う!」
俺とピンは少し戸惑いながら町のヒト達にお礼を言い、町役場へと向かった。




