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第三十四話 クマスの過去その二

 俺達はクマスが淹れてくれたお茶を飲んで一息ついた。

 クマスがお茶を飲みながら、


「じゃあ話しを続けるわね。

 どこまで話しをしたんだったっけ?

 あぁ、私が怪しい男達から退避したところだったね……」

「はい」

「当時私はね、サンノ君達も知っていると思うけど、ダクツ町近くの誰も住んでいない館を根城にしていたの……」






 ――――






 怪しい男達が使った[ゲート(空間移動)]に自身の[ゲート(空間移動)]を重ねて計画通り小さな檻を館へと送り届けたクマスは機を見て自身も館へと向かった。

 二階の寝室へと送った檻は無事届いており、館の灯りは点けず一先ず子供を檻から出す事にしたが、鍵が掛かっていた為檻の中に[ゲート(空間移動)]を出して腕を伸ばし、檻の外にある[ゲート(空間移動)]へと押し出す事にした。


 ヴヴンッ

 ズルズル……


 子供を起こさない様クマスは慎重に、ゆっくりと檻の中から押し出した。

 そして無事檻から子供を出し終えたクマスは床から子供を抱き上げ、グルグル巻きに包まれていた布を取ると、中から幼い女の子が姿を現した。


「女の子だったのね……後はこれを……」


 そう言ってクマスは少女を優しくベッドに寝かせ、さるぐつわを取ってあげた。

 さるぐつわを取ると、それを付けられたまま泣き叫んだり乱暴に扱われたりしたせいか、口の端が切れて少し血が出ていた。


「ひどい……」


 そう呟いてポケットから出したハンカチを少し水魔法で湿らし、血を拭いてあげようとすると、


「痛っ!」


 思い掛けない所からトゲが刺さった様な痛みに驚き手を引いてその手を見た。


「何今の?」


 そう言ってクマスは今自分が拭こうとした少女の口元をよく見ると、さっきまでは何ともなかった血がバラのトゲの様になっている。


「何これ?

 血が勝手に形を変えて自分自身を守ったの?

 何で?どういう事?」


 この時のクマスは[血液操作]能力をまだ見た事がなかった為、クマスの頭の中がクエスチョンマークで一杯になっていると、急に部屋の扉が開いた。


 ガチャ

 ギーー


 クマスはビクッとして扉の方を見るとそこには白髪で銀縁眼鏡を掛けた見知った顔の男がおり、


「びっくりした、【ガナタ】か……」


 クマスがそう言いながら胸を撫でおろすと、スーツを着た男はコツコツと足音を立てながら室内に入って来た。


「灯りも点けず何をしているんだ?

 ん?その子は何だ?」


 男に聞かれるとクマスは森の中での出来事と、ここで今起きた事を話した。

 するとその瞬間ガナタは急に血相を変え、


「何だって!?」


 と言いながら少女の口元を見て、


「おい、クマス、この子はたぶん[血液操作]能力持ちだな……」

「えぇ〜……

 あ、声が少し大きかった……」


 聞いた事はあるが初めて実物を目の当たりにしてそれを教えられたクマスは、びっくりして声が大きくなってしまった事を諌めた。

 たまたま助けた子が稀少で強力な固有能力を持っていた事に驚くと同時に、困惑した二人はベッドの前で顔を合わせて立ち尽くした。


「……どうする……?」

「うーん……

 正直、この能力を使える子は、殺された同胞の復讐をする時にも強力な戦力になるとは思うが……」

「こんな幼い女の子を復讐の道具になんかさせたくない……」

「それはもちろん俺もそう思うが……

 それに、こんないつ誰に命を狙われるかも分からない状況で、逃げ隠れてばかりの生活をしている俺達がこの子を大きくなるまで育てられるかも怪しい……」

「そうだよね……」


 また二人は考え込んでしまった。

 しばらく沈黙した後、ガナタが口を開いた。


「今は俺達だけで育てる事が出来ないし、預けられる様な信用出来るヒトも知らないから、『その時』が来るまで封印するのはどうだ?」

「うーん……」


 クマスは腕を組んだ。


「幸い、この館は平和な国にあるし、クマスが見付けた地下室だったらそうそう見付かる事もないんじゃないか?」

「うーん……

 確かにこの館の地下室を見付けるにはまず肖像画の仕掛けに気付かないといけないし、地下室の扉は開かないから[ゲート(空間移動)]を使えるヒトじゃないと中に入れないけど……」

「だろ!?

 普通のヒトは肖像画の仕掛けに中々気付かないし、気付くとしてもクマスの様な転生者ぐらいなんじゃないか?」

「あぁ、まぁ前にも言ったけどあの肖像画を傾ける仕掛けは私が元いた世界では『お約束』だったしね……

 それに、転生者ならもし仕掛けに気付いても倫理観とかが私に近いと思うから変な事にはなりにくいか……」


 すると、光明が見えてきて少し嬉しくなったガナタは興奮気味に、


「よしじゃあ早速、トーミナクにあるここへ来る前の根城に[ゲート(空間移動)]を開いてくれるか?

 あそこに吸血鬼を封印出来る棺があったはずだ」

「その棺は本当に大丈夫なの?死んだりはしないんだよね?」

「あぁそれなら大丈夫だ。

 吸血鬼は十字架とか苦手な物に囲まれると魔力が抑え付けられて全ての生命活動か極小になるだけだから死んだりはしないよ」


(吸血鬼は十字架が苦手なんてまるでファンタジー世界ね……)


「ちなみに、吸血鬼は他に銀やニンニクも苦手じゃないよね?」

「そんなん聞いた事ないし、この前クマスは銀のフォーク使ってペペロンチーノパスタ食べてたじゃん……」

「あ、そうだったわ……

 じゃ、じゃあ、吸血鬼は心臓に杭を打たれたら死ぬのはほんと?」

「いや、そんなんされたら吸血鬼じゃなくても死ぬし、そこまでしなくても俺達は死ぬからここまで絶滅の危機になってるんじゃん……」

「そ、そうね……

 それにそう言えば日の光に弱いのも極端に魔力が減っている時や子供の時ぐらいだしね……

 何か私の知っている吸血鬼と所々認識のズレがあるわ……」

「何を今更……とにかく、早く行こうぜ」

「そうね、じゃあ夜の内に行ってさっさと回収しましょうか」

「あぁ、棺だけだと心許ないし封印に役立ちそうな物が他にもあったら持って来よう。

 あ、その前にまずはこの子を一応地下室に連れて行こう」

「あぁ確かにそうね、じゃあまずは地下室に、[ゲート(空間移動)]」

ヴヴンッ


 そう言いながらクマスはベッドの横に向かって手を突き出し[ゲート(空間移動)]を出した。

 その後二人はまず、地下室へ行って中央の台座にそっと少女を寝かせ、続けて[ゲート(空間移動)]で以前根城にしていた所へと向かった。

 そこも今の根城と同じく誰も住まなくなった館だったが、トーミナク国内という事もあり、灯りも点けず静かに必要な物を運び出した。

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