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第三十一話 バイーダ町長

 俺達は羽や尻尾を消し、元火口の上から下りながらバイーダの町を見渡した。

 町の大きさは大体一キロ四方ぐらいだろうか、上からだと充分全体像を見渡せる広さだ。

 俺達が入って来た街道からの入り口と反対側の斜面には鉄格子の様な扉が付いた数多くの穴が見え、その下にギュッとコンパクトに纏められている町が見えた。

 古い町だからか、平屋は見当たらないが建物は全て四・五階建てで、人口密度が高そうな雰囲気は想像通り、まさに火口版軍艦島だ。


 そんな事を思いながら町に入ったが、誰も住まなくなって手入れがされていない廃墟の様な建物も多く、行き交うヒトも少ないので少し寂しい印象を受けた……

 しばらく歩くと目的の白い建物に着いたので町役場側の入り口から入ろうとしたら扉が閉まっていた為、しょうがないので少し回って町長宅側の入り口にある呼び鈴を押した。


 ビーーッ


 ブザー音の様な呼び鈴が鳴り、しばらくすると扉が少しだけ開いて中から人間族のお爺さんが姿を覗かせた。

 髪は白く、同じく白いヒゲと眉毛がフサフサで目と口がよく見えない。


「どなたですかな?」


 当然だが、少し警戒している様だ。


「俺はサンノと言いまして、この子は妹のピンです。

 タミルさんにご紹介いただいて、しばらくこの町に滞在したいと思ってご挨拶に来ました」


 すると老人は隠れていた目を見開いて、


「タミルからの紹介じゃと!?

 あいつは元気にしておるんか!?」

「はい、タミルさんとは同じレシーバー仲間で、ご縁があってトーミナクの首都で話す機会があったのです」

「なんと……

 あいつは立派にレシーバーをやれておるのか?」

「あ、えっと……

 仕事をご一緒した事はないんですが、困っていた私達に手を差し延べてくれた、優しさに溢れたお方でした」

「そうかそうか……

 あいつは元気にしておるか……」


 そう言って老人は泣きそうになっていた。


「あぁ、すまん、儂はこの小さな町で町長をしておるんじゃが、タミルは儂が昔から子供の様に可愛がっていたからのう……

 そうじゃ!こんな所で立ち話も何じゃ、中に入ってくれ」


 そう言いながら半開きだった扉を開け放ち、中に手を指して案内してくれた。


「お邪魔いたします」「お邪魔しまーす」


 俺とピンはそう言って案内されるがまま、客間へと通された。


 客間は決して豪華ではないが、手入れが行き届いており、清潔な雰囲気だ。

 俺達は上座に促されたので案内されたソファに座り、対面に町長が座った。


「茶も出してやれんですまんな」

「いえ!」

「息子がおったんじゃが昔魔物に襲われて亡くなってからは儂一人なんじゃ……」

「そうですか……」

「まぁもう十年以上前の事じゃし、息子が死んでからはタミルを息子代わりの様に育てる事が出来たから気にせんでくれ」

「タミルさんもご両親を亡くされてからこの町のヒト皆が俺を育ててくれたと言っていました」

「そうかそうか……」


 町長は昔を懐かしむ様に少し遠くを見ながら目に涙を浮かべた。


「君もその年頃で大分しっかりしておるしきっといいご両親に育てられたんじゃろうな」

「有難うございます」


 育ての母がいない事はわざわざ言う事でもないかと思ってお礼を言うだけにした。


「ところで、タミルにここを紹介されたという事は、君達も何か訳があってこんな所まで来たんじゃろ?」

「はい、実は……」


 俺はトーミナクの首都近郊でレシーバーとして日々魔物狩りをしていた事、そのペースが他のヒトより早くて目立ってしまった事、その結果王子に絡まれたり悪巧みする者らに狙われている事を話した。


「ふむ……なるほどな……

 それで一時的に身を隠す場所としてタミルがこの町を紹介したんじゃな」

「はい……」

「確かに、ここなら身を隠すにはうってつけの場所だろう。

 タミルの紹介じゃ、好きなだけここにいて良いぞ」

「有難うございます」


 そう言って俺が座ったまま深々と頭を下げたらピンも真似る様に頭を下げた。


「当面の住む場所はこの建物の三〇一号室が空いておるからそこがいいじゃろ。

 若い夫婦が住んでおったんじゃが稼ぎを求めて町を出たから家具とかも全部残っておるぞ」


 そう言いながら町長は鍵を取り出し、簡単な地図を書いてくれた。

 俺は差し出された部屋の鍵と地図を受け取り、


「有難うございます。

 それと、もう一つお聞きしたい事がありまして……」

「お?なんじゃ?何でも言ってみなさい」

「はい、有難うございます。

 タミルさんから聞いたのですが、まだこの町に吸血鬼族の方はいらっしゃいますか?」

「吸血鬼族?」


 そう言うと町長はピンを見て、


「もしかしてじゃが、そっちのお嬢ちゃんは吸血鬼族なのかい?」

「はい、吸血鬼族の話しを切り出してすぐ妹を見抜けたという事は吸血鬼族とお会いした事があるんですか?」

「あぁ、あるな……

 タミルも含めて他言は絶対にせんから良かったら吸血鬼族を探している理由を聞かせてくれんかの?」

「はい……」


 俺はピンと町長を交互に見ながら、ピンが五年前両親から引き離された事、その場で両親を殺された事、その後恐らく吸血鬼族の事をよく知るヒトの手に寄って長年封印されていた事を話した。


「なるほどのう……

 そこのお嬢ちゃんはその年で大変な経験をして来たんじゃなぁ……」

「はい……

 それなので、少しでも当時の詳細を聞ければと思い、同じ吸血鬼族のヒトに話しを聞きたいのです」

「分かった……

 じゃあすまんが明日の昼過ぎ、もう一度ここに来てくれんかの?

 坑道の地図と、入り口を閉ざしておる鉄格子の鍵を用意しておくから」

「もし牢屋の様な所に閉じ込めておられるのなら俺達がそこを開けて中に入ってもいいんですか?」

「あぁ、それは問題ない。

 なぜ問題ないのかは明日吸血鬼族のヒトに会えば分かるじゃろう」

「それに……

 今日初めてお会いした俺達にここの住人を紹介して大丈夫なんですか?」

「それは、タミルが信頼して君達に話ししたのじゃから変な事にはならんじゃろう」

「そうですね……

 もし、その吸血鬼と話しして敵対する事になったとしても先走ったりせず、この町にも迷惑掛けない様、町長やタミルさんにまずは相談したいと思います」

「そうしてくれると有難いが、ヒトの過去は変えられないし、正当な理由があれば誰も口出ししないから安心してくれ。

 この町の住人全員が善人という訳ではない事は皆知っておるからな」


 仲間意識が強くて狭いコミュニティでも悪事を働く奴はいるし、助け合いの精神は正義感や倫理観の上で成り立っているのだろう。


「分かりました、ちゃんと考え、流されず、見極めようと思います」

「おうおう、まぁ大して何もない町じゃがゆっくりして行ってくれ」


 そう言いながら町長が立ち上がったので、俺達も立ち上がり、


「何から何まで有難うございます。

 それではまた明日の昼過ぎにお邪魔いたします」


 そう言いながら俺はお辞儀をし、釣られてピンもお辞儀をした。

 その後は玄関まで案内され、部屋へ向かう途中の食事処で夕食を済ましてから部屋で休んだ。

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