第二十七話 助言者現る
ホテルに戻った俺達はすぐ近くの食事処で少し早めの昼食を取る事にした。
王子に目を付けられた今、この街を拠点にする事をやめるべきか考えながら黙々と食事をしていると、
「もしかして君がサンノって子か?」
隣のテーブルに座っていた男性から急に声を掛けられた。
年齢は十七・八ぐらいだろうか、手入れの行き届いた軽鎧を身に纏った黒人の騎士だ。
「あぁ、食事中に突然すまない、俺は【タミル】だ」
そう言って男は敵意も軽蔑もない証明の為か、右手をおしぼりで拭いてから座ったまま身を乗り出して握手を求めてきた。
そんな誠実な態度を取られると当然俺もその握手に応じながら、
「俺はサンノ、こっちは妹のピン、宜しく」
握手を離すとタミルが、
「俺もレシーバーなんだが、君の快進撃が噂になっててどんな奴なのか一度話してみたいと思っていたんだ」
「なるほど、でも残念ながらこれと言ってお話しする程の事は特になくて……」
「あ!いや、助言くれるのは有難いがそうじゃないだ!
あぁすまん、食べながらでいいからな!」
そう言って男は俺達の食事に手を指した。
「ではお言葉に甘えて……」
俺はそう言ってから食事を続けた。
「おう、気にするな!
あぁ、俺は助言を求めたんじゃなくて君に助言しておこうと思って声を掛けたんだ!」
「俺に助言ですか?」
俺はそう言って、助言をしてくれるヒトとの会話中に食事を続けるのは失礼だと思ったので少し食事の手を止めた。
「まぁ君は強いから気にしなくていいのかもしれないが、君の話しをする奴らの中には良からぬ事を企んでいる奴らもいるから注意した方がいいぞと言いたかったんだ」
「ちょ、少しだけ待ってもらっていいですか?
急いで食べるので場所を変えましょう」
何か危険な計画の噂を聞いたのではと思った俺は残りの食事をかきこんだ。
タミルは「そこまでしなくていいのに」と言わんばかりの顔で苦笑いしている。
「すいません、お待たせしました、カフェにでも行きませんか?」
「君だったら降り掛かって来る火の粉は簡単に払えるだろうに、そこまで悪意に過敏な反応をしなくてもいいんじゃないか?
カフェに移動するのはどうせ俺もこの後行くつもりだったから全然構わないが……」
「いえ、悪意に敏感な理由もカフェでお話しします……
さ、ピン、デザート食べに行こっか!」
「うん!行く!」
俺はピンの手を引き、タミルと一緒に近くのカフェへ向かった。
カフェに入ると俺達は少し奥まってて他の客に会話の内容が聞かれにくいテーブルに座った。
ピンには大人しくしてもらう為大きめのパフェを与え、俺とタミルは場所代としてコーヒーを注文した。
「すいません、行きたいカフェがあったかもしれないのに近場で……」
「味音痴だからコーヒーの違いなんて分からないし気にしなくていいよ」
「有難うございます。
それでまず、今悪意に敏感な理由なんですが……
実はついさっきもレ組で少しトラブルがありまして……」
「やっぱり何かあったか……
そろそろ何か行動を起こす奴が現れそうだったんだよな……」
「さっきはコーア王子とのトラブルだったので噂に上がったりはしない人物だと思うんですが……」
「あぁ、あの馬鹿王子か……
どうせ馬鹿王子の事だから何をしようとしたのか大体想像はつくな……」
「はい、恐らくご想像の通り、家来にしてやる、妹はペットにしてやる、と言われたのであるヒトの助けも借りて逃げて来ました」
「だろうな……俺が聞いた悪巧みをしている連中も大体同じ様な感じだ。
この国の連中は他種族を見下して自分達が一番上だと思い込んでいる奴らが多いからな……
まぁ自分より弱い者を見て安心する奴はこの国以外にもいるだろうが……
それに、人種差別や人権問題に配慮して全世界で奴隷制度は禁止されたが、表向きだけ奴隷ではない体裁を取り繕った人身売買をこの国は黙認している」
「中々闇が深いですね……」
タミルが黙って頷いた。
よくある異世界ファンタジーだと奴隷制度が頻繁に出てくるが、中世の文明レベルと違って地球の現代文明に近いと世界的に奴隷制度は許されない人権問題になるのだろう。
「それで、俺が聞いた噂の中で一番過激だったのが、妹さんを誘拐してその妹さんをネタに君を脅して使い潰した後、二人共人身売買組織に売れば金にもなるし目障りな他種族を二人同時に始末も出来るって企んでいる奴がいる様だ」
「なるほどですね……」
「まぁでも君の事だから軽く返り討ちに出来るだろうし、そっちの嬢ちゃんも何となくだがたぶん結構強いんだろ?」
真剣な顔をしていたタミルが少し安心感を与えようと表情を緩めた。
その気遣いを受け取った俺も一瞬少し表情を緩めたが、再度引き締めて、
「そうですね、妹はもしかしたら戦闘力だけなら俺より上かもしれません。
しかし、王子に続いて犯罪に抵抗感のない者が次々現れる可能性を考えると今後どうするか悩みますね……
これ以上王子に関わって完全に敵対してしまうと国自体とも敵対しかねませんし……」
「あぁ、たぶんだが、あの馬鹿王子なら、王子個人と敵対したからといってすぐ国自体と敵対する事にはならないと思うぞ。
現国王はある程度先の事も考えて、今は魔人族に大きな戦争を仕掛ける時ではなく国力増強に力を入れているが、馬鹿王子は何を勘違いしているのか、後先考えずに超強行政策を打ち出して激しく対立している様だ。
まぁ過激思想のタカ派議員が何人か馬鹿王子の味方に付いているから国王派も手を出し辛いみたいだが……」
「なるほど、それであの王子は俺を武力のカードとしてとりあえず手元に置いておこうとでも思ったんですかね……」
「だろうな……
索敵に秀でていて戦闘力もあるから先兵や斥候として使って、もし魔人族に殺されたり捕まったりしても他種族だからという言い訳で知らぬ存ぜぬが出来るからちょうどいいんだろ……
あ、すまんな、ひどい事言って……」
そう言いながらタミルはペコっと頭を下げたので俺は両手を前に出して首を振りながら、
「いえいえ!王子の心理を予想されただけですし、タミルさんがそうしたいと思っている訳でないのは分かっているので頭を上げて下さい」
そう言うとタミルは頭を上げ、表情を引き締め直した。
「で、だ!そこで一つ提案があるんだ!」




