第二十一話 トーミナク首都の散策
レシーバー組合のトーミナク支部に来た俺とピンは早速依頼受注窓口がある部屋へ向かった。
その部屋はまるで職業安定所の様になっていて、番号札を取って待機椅子に座り、番号が呼ばれたら間仕切りで隣が目隠しされた窓口に座る感じだ。
俺もピンも髪色等から一目で人間族でない事がバレているので、部屋に入ってからは終始多くのヒトにジロジロと見られている。
そんな注目を浴びる中、番号が呼ばれたので俺とピンは並んで窓口の椅子に座った。
窓口の対面には、目が少しツリ目で虚栄心が強そうな男性がおり、
「こんにちは、本日はどの様なご依頼をお探しですか?」
と言いながらこちらを品定めする様な目で見て来た。
「早くランクを上げたいので出来れば依頼ついでに魔獣と戦える依頼が有難いです」
「魔獣と戦いたいと申されましても、まだお若いですよね?」
「自分は十二才ですが年は関係あるのですか?」
「いえ、レシーバーになられている訳ですし最低限はクリアされているのかと思いますが、どうしても実戦の経験値は他の方に劣るかと思いましたので。
ご依頼人様からは大切なお金を依頼発注時に一部いただいておりますので失敗は許されないのです」
要するに、子供だからまだ討伐依頼は受けさせないと言いたい様だ。
「では魔獣出現場所へ行く護衛依頼はありますか?」
「失礼ですが、あなた様方は人間族ではございませんよね?」
「はい、俺達は竜人族です」
ピンの種族は過去や現在進行形で敵対している吸血鬼族や魔人族とは言えないので何となく俺と同じ竜人族という事にした。
「そうなりますと、ランクが低い他種族の方には護衛依頼も難しいかと思います」
明らかに見下している態度に段々イライラしてきたが、俺の手を握っているピンの握力が強まってきていてピンもキレそうなのが分かった。
「ではもういいです。依頼無しで魔獣狩りをして貢献度を稼いできます」
「そうですか、誠に残念ですが致し方ございませんね。
それでは、お気を付けてお帰り下さいませ」
俺はそう言いながら立ち上がり、会釈もせずに部屋を出た。
事前情報の通り、選民意識が強過ぎてイライラしたので他種族が人間族の争いに首を突っ込まない気持ちがものすごく分かった。
いずれにせよ、当面は依頼に頼らず、首都の外で魔獣を倒して魔石を集めるしかなさそうだ。
そんなこんなで支部には魔石鑑定の時にしか用がなくなったのでとりあえず支部を出たが、俺は一先ずプリプリ怒っているピンをなだめ、少し首都を見て回る事にした。
街中を見ていると、オーチュ国と違ってトーミナク国は移動に人力車は使わない様だ。
恐らく、風魔法が得意な翼人族や、土魔法が得意な獣人族と仲が良くないから人力車の曳き手がいないのだろう。
その代わりに、地球の自転車の様な物や、魔石を使ったスクーターの様な物が近距離移動手段となっている様だ。
ただ、以前聞いた通り魔石効率が悪いからか、スクーターの移動速度はせいぜい日本の法定速度で走る原チャリ程度だ。
そんなスクーターでも俺の少年心(?)はくすぐられるのでじっくり見たいところだが、目立つ行動は控えた方がいいので諦めた。
街をしばらく歩いていると潮の香りがして来た為、海に近付いた事が分かった。
街から少し離れたその一帯はどうやら友好的魚人族の人魚族が生活している地域の様で、雰囲気はまるでヴェネツィアだ。
そこではマーマンやマーメイドが獲れたての魚や真珠を売っていて、初めて見る種族と綺麗な街並みにピンはさっきまでの不機嫌が嘘の様に目をキラキラさせながらキャッキャとはしゃいでいる。
俺も正直、前世でヴェネツィアは行ってみたい所ランキングの上位にあったのでテンションが高い。
そこで俺はどうしても気になった質問をしたくて真珠を売っているマーメイドのお姉さんに、
「すみません、今度レシーバーの依頼達成したら妹に真珠をプレゼントするので今日は質問だけいいですか?」
「はーい、どうしたのぉ〜」
マーメイドのお姉さんが水から小舟に上がって来た。
「あの、単純な好奇心なのでもし失礼に当たる質問なら申し訳ないんですが、こちらの真珠ってお姉さんの涙なんですか?」
「あらぁ?ウフフ。
僕にはまだ早いからもう少し大きくなったら教えてあげるよぉ〜」
魚の様な下半身をパタパタとしながら色っぽく、おっとりとした口調で誤魔化された。
が、しかし、俺は大人になった時またここに来る事を心に固く誓った。
「えぇ〜サンニィ今度この綺麗な玉買ってくれるのぉ!?」
「おう、やっぱ可愛い子には綺麗な物が似合うしな!」
「じゃあ楽しみにしとくね!」
「私も買いに来てくれるの楽しみにしてるねぇ〜」
真珠の謎は持ち越しになったがピンの機嫌が良くなってニコニコしているし腕にギュッと捕まって可愛いのでここに来て正解だった様だ。
俺達はお姉さんにお礼とお詫びを言い、その場を後にした。
その後もトーミナクのヴェネツィアを堪能した俺達は少し街の外に出て近辺の魔獣を見てみる事にした。
街の壁門にはガタイのいいヒゲモジャの門番がおり、俺はレシーバータグを見せながら、
「少し壁外の魔獣を調査しに行きたいのですが通っていいですか?」
「おう、若いのにレシーバーなんて仕事大変だねぇ!」
と、門番はガハハと言いそうな感じの笑顔で言って来た。
(このヒトは感じが良さそうなヒトだ)
「いえいえ、門番さんこそお疲れ様です」
「お?坊主、若いのにしっかりしてるなぁ!」
「有難うございます。
ちなみにこの辺りはどんな魔獣がよく出るんですか?」
「あぁ、この辺りは魔獣と言うより魔物って感じの敵が多いな!
あそこに見える森で出現報告が多いんだが、昔からこの国と仲が悪い魔人族が嫌がらせでゴブリンやオーガを大量に解き放ちやがったんだ」
そう言いながら門番は森を指差した。
「なるほど、それで生態系が狂って魔獣は減ったんですね……?」
「そう!
それと、ゴブリンもオーガもヒトが落とした武器やヒトから奪った武器を使うから気を付けろよ!
集団で囲んで来る事もあるしな!」
「そうなんですね……では武器を持っている魔物を倒したら出来るだけ武器も回収して来ますね……
誰かの遺品かもしれないですし……」
「坊主、他種族なのにそこまで気に掛けてくれて有難うな。
これ良かったら腹の足しにでもしてくれ」
門番はそう言って懐から携行食を取り出し、少し分けてくれた。
「お気遣い有難うございます。
では少し行って参りますね」
「おう、気を付けろよ!
嬢ちゃんはその坊主から絶対に離れるんじゃねぇぞ!」
「うん、有難う!おじちゃん!」
こうして俺達は魔物出現報告が多い森に入った。




