第二十話 人間族と魚人族の国トーミナク
――――俺が最初の目的地を決め眠りに就いた頃、日本の東京都内某所ではとある会合が催されていた。
約五年前、高知の桂浜に降り立った怪しい男は、戦闘力に限って言えば決して高くはないが、吸血鬼族固有能力の一つ、[眷属化]能力を使える吸血鬼だった。
これは血を吸ったヒトを魔力で上回っていたら意のままに操れる危険な能力で、男はこの能力を使って日本の政治を掌握しようとしている。
しかし、国会議事堂や議員会館等に行って「こんにちは、血を吸わせて下さい」と言った所でつまみ出されるか下手したら捕まる事が日本での生活を通して分かった為、いずれかの国会議員と二人きりになれる可能性がある場へ行く事を企んだ。
その為に男はまず、政治家との関係性が強いと聞いた○○会議所のメンバーだった中小企業経営者に近付いて眷属にし、社長付きとして自分を入社させた。
入社してからは大人しく息を潜め、元○○会議所で繋がりがある人間から会合に招待される時を待った。
そうして待つ事数日、ターゲットとなり得る人間が来そうな会合に招待されたので同行させてもらう事にした。
その会合には目論見通り、国会議員が参加していたので男はまず配膳係の者を眷属にした。
次に、その眷属にした配膳係を操ってターゲットとなる議員のグラスに利尿作用を促す薬を混入させた。
そして、ターゲットがそのグラスを飲み干した事の確認が取れた男はトイレに先回りし、個室で待ち構えた。
しばらくすると、トイレに一人の人間が入って来て男性用小便器で用を足しているのが分かったので、個室から出てターゲットかどうかの確認と、他に人がいないかどうかの確認をして誰にも見られる事なく無事に[眷属化]を成した。
ここまで来たら後はその議員に私設秘書として自分を採用させ、様々な場所で隙だらけの議員を背後から噛み付くだけで目的達成だ……
――――
所変わってここはダクツ村のゲートポータル。
今日から人間族の国トーミナクで情報収集をするがここへ来る前に、タグを使っていつでも連絡を取れる様、父やバタンさんやジヒメさん、それとそれぞれの親を通してダンサ、リハマと連絡先交換の為魔力紋を登録した。
なお父を登録してからはテストと称して目の前にいるのにも関わらずタグのメッセージ機能でやり取りをし、「これでお前が寂しく感じてもこのメッセージ履歴を見て寂しさも紛れるだろうし帰りたくなったら[ゲート]で帰って来てもいいんだぞ!」と言っていたが、要するに父が寂しいからメッセージを見て帰って来いと言いたいのだろう。
しかし旅立ってすぐ親に頼る訳にもいかないので実際には俺も寂しくなるが履歴を見て我慢するつもりだ。
ゲートポータルの部屋に入る数字が書かれた扉の前にて、俺とピンは扉を背にして立ち、父は見送りをする為俺達の前に立っている。
「じゃあもう行ってしまうか?」
「うん、もうやるべき事はやったと思うしそろそろ行くよ」
「そうか……寂しくなるな……」
「まぁ……ね……
俺も言ったら益々寂しくなるから言わなかったのに……」
「そうだった、すまんすまん!」
父が思い出したかの様に気丈に振る舞ったがピンが父に抱きついて泣き出した。
「父さん、私をここまで本当の子供の様に育ててくれて有難うね……」
「ちょ、おま、本当の様にって……
何才になってもどこにいてもお前も本当の子供なんだからそんな事言うな」
父も泣きそうになっている。
「有難う父さん、ピンを本当の妹にしてくれて」
「俺も家族が増えて嬉しいしな!
それにピン、別にこれが今生の別れじゃないんだからそんなに悲しむな」
「うん……そうだけど……」
「旅先ではこいつに一杯甘えるんだぞ!
で、こいつが頼りないなって思ったらいつでもお前だけ帰って来ていいからな!」
そう言いながら父はしゃがんでピンの頭を撫でた。
「ピンをお姫様扱いするのはもう二十年以上してるから大丈夫だよ」
「そうだったな!
ニョロさんも、お気を付けて……
二人の子供達を何卒宜しくお願いします」
父はしゃがんだままニョロを見て少し頭を下げた。
「おう、任しとき!」
「じゃあもう行くね!何かあれば[ゲート]ですぐ戻るから気軽に連絡して!
あ、でも牛乳が切れたから買って来てくれとかはなしでね」
「おう、牛乳を切らさない様に気を付けるわ!
まぁじゃあ、気を付けてな!行ってらっしゃい!」
「「「行ってきます!」」」
俺達は精一杯の笑顔でそう言うと父は立ち上がり、俺達はゲートポータルの部屋に入った。
中に入るといつも通り三人の魔法士がおり、これまたいつも通り事務的に行き先確認をしてきた。
「トーミナクのレシーバー共同組合トーミナク支部にお二人でお間違えないですね?」
「はい、大丈夫です、お願いします」
「かしこまりました、では」
「「「[ゲート]」」」
ヴヴンッ
見慣れたゲートが開き俺とピンとニョロは[ゲート]を潜った。
――――
人間族の国トーミナクは厳密に言うと、人間族と一部の魚人族が一緒に暮らす海洋国家だ。
一部の、と言ったのは、同一国家内にも関わらず敵対している魚人族の部族もいるからだ。
また、この国は昔から魔人族と敵対しており、国内には敵対的魚人族、国外には魔人族、といった具合に争いの種がそこかしこにある。
それにも関わらず、かつて人間族は敵対していた吸血鬼族を絶滅寸前まで追い詰めた事もあって選民意識が非常に強く、他の種族を見下している節があるので魔人族以外の国がこの争いに首を突っ込む事はない。
その為、この国は自国のみで諸問題を解決しなければならず、限られた国土の島国という事で少し前まで実施されていた人口抑制計画を撤廃し、今は人口増加と富国強兵が国家スローガンだ。
なお人間族の身体的な特徴は、地球にいる人類と全く同じ為、グレイヘアの俺や綺麗な白髪のピンは髪色だけで目立ってしまう。
そんな目立つヒトがかつて敵対して絶滅寸前まで追い詰めた吸血鬼族の事を調べたいと言ってもやぶ蛇を突きそうなので、まずはこの国に根付きレシーバーランクを上げて信用してもらうべく、[ゲート]は組合支部へ送ってもらった。




