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第十六話 ピンの覚悟

 ――――俺とピンが再会し、父も含めて家族の結束を強めていた頃、地球にある日本は真夏の深夜だった。


 そんな深夜の誰もいない高知県、桂浜海岸に突如黒い円が出現した。

 そう、トートシンでよく使われている[ゲート(空間移動)]だ。


 ヴヴンッ


 その[ゲート(空間移動)]から一人の男が出て来た。

 その男はピンと同じ様な白い肌、白い髪を持ち、銀縁でちょっと冷たい印象を与える眼鏡を掛け、スラリとした体型によく似合う上等な黒スーツを着ていた。


「暑いな……」


 男はボソッと日本語で呟いた。

 深夜とはいえ真夏の高知だから暑いのは当然だ。

 浜風があるとはいえ、スーツをビシッと着ていたら少なくとも涼しくはない。


「地球はこの服がいいと聞いたが地球の人間は皆暑さに強いのか?」


 男は額の汗を拭いながら流暢な日本語で呟いた。


「それに、思っていた以上に体が重い……」


 男は暑さだけでなく、重力の違いにも戸惑っていた。


「とりあえず、地球の事や日本の事を色々聞いて言葉も覚えたが、この言葉がどれぐらい問題なく通じるか試さなくてはな……」


 そう言うと男は辺りを見渡した。

 すると、海岸の上に見える道路を一台の車が走って来て、近くに止まった。

 男女二人が車から降りて海岸へ向かって来るのが見えたので男は隠れて少し様子を見る事にした。


(薄着じゃねぇかよ!じゃあこの服はこの時期に合わないだけだったのかよ……)


 男が着て来た服に後悔していると、夏の装いのカップルが浜辺で立ち止まって話しだした。


「やっぱたまには夜の海もええなぁ」

「やねぇ」

「そいやここって夜入ってもええがぁ?」

「私も知らんき気になるならもう移動する?」

「やなぁ……しょうもない事で捕まんのもアホらしいしな」


 そう言ってカップルは浜風を深呼吸で深く堪能してから車に戻って行った。


「さっきのが方言ってやつか……

 難し過ぎるだろ……

 あれは覚えるの時間掛かりそうだし早く東京って所に行かないと……

 ここがどこかまだ分からないが……」


 土佐弁を聞いて絶望してつい呟いてしまったこの男は、ある目的の為この日本に馴染み、日本の中枢に潜り込もうとしていた。

 だがその為にはまず髪色を黒くしたり、東京への旅費を稼がないといけない事をまだこの男は気付いていない……






 ――――






 一方、トートシンのベッコウ宅。

 父を仕事に送り出した俺とピンはリビングのソファに並んで座り、昔話に花を咲かせていた。


「そういえば、何でお前は近くの川に行った時いつも投げたらすぐ持って来るおもちゃを無視して逃げたんだ?」

「そんな事あったかなぁ……?

 あ、分かった!

 お兄ちゃんがおもちゃを投げた所にオスがマーキングのオシッコしてて嫌だったの……」

「あぁ、なるほどね……そういえばお前は生まれてすぐヒート防止の為に避妊手術したからオスに興味なかったんかな?

 ごめんな、手術しないとお前の体に良くないって聞いたからさ……」

「いや、そうじゃなくて……」


 ピンが少し下を向いて何か言い掛けたタイミングでダンサとリハマがやって来た。


「サンノー入るぞー!」

 ガチャッ!


 ダンサが玄関を開け、ピンを見たリハマが開口一番、


「その子は?」

「この子はピン!昨日父さんと行った任務地で見付けたから保護したんだ!

 で、家族はもう亡くなっているらしいから俺の妹になったんだ」

「「ええぇ〜」」


 二人は玄関扉を開けっ放しで驚いた。

 つい大声を出してしまった事に気付いたリハマは急いで玄関を閉め、二人で家の中へと入って来た。


「良かったじゃんサンノ!可愛い妹が出来て!」

「ね!ピンちゃん宜しくね!私はリハマっていうの!」

「あ、俺はダンサ!俺もリハマもサンノの友達なんだ!」


 リハマは胸に手を当て、ダンサは胸に親指を当てている。

 するとピンが立ち上がり、


「サンノお兄ちゃんの友達なんだね!

 私はピン!サンノお兄ちゃんの家族です!」

「何才なんだ?」

「二才だよ!」


(ダンサよ、大人になったら絶対に会って十秒で女性に年を聞いたらダメだぞ……)


「じゃあ私達の五つ年下だ!」

「皆サンノお兄ちゃんと年一緒なの?」

「そうだぜ!俺達は皆年も一緒で家も近いんだ!」


 なぜか少しドヤ顔のダンサが続けて、


「そういえばサンノ、今日魔法の練習はどうする?」

「あぁ、ごめん、ピンはまだ魔法とか見るの怖いだろうし今日も二人だけで行っててくれる?」

「了解!じゃあ俺らはいつもの所に行くから来れたら来てくれな!」

「ピンちゃんまた女同士だけで遊ぼうね!」


 二人は手を振りながら玄関へと向かった。


「うん!」

「ごめんね、二人共!有難う!」

「またね!」


 そう言って俺とピンは二人を見送った。



 その後俺とピンは再びリビングのソファでジュースを飲みながら、


「そういえば、どれぐらい眠っていたかって分からないよね……?」

「うん……」

「だよね……」


 ピンは俺より先に死んだのに二才なのが俺は気になっていた。

 転生時にニョロが言っていた俺を呼ぶ者の一人は、誰かに捕まって両親を亡くした時俺に助けを求めたピンなのではと考えた。


「もしかしたら、ピンは七年間眠っていたのかもしれない……」

「そうなの?」

「予想だけどね……

 ピンを見付けた時はまるで封印されている様だったからもっと色々調べないといけないけど……」

「そっか……」

「まぁでも急ぐ事でもないだろうしこうやってまた再会出来たんだから分からない事は二人でゆっくり調べていこ!」

「うん、そうだね!そうする!」


 ピンは嬉しそうにそう言って少し間が空いた後、


「そういえばさっきのね……

 魔法の事なんだけど……」


 先程、ダンサとリハマの誘いを断った事に罪悪感を感じているのか、ピンが切り出した。


「ん?気にしなくていいよ?

 俺はこうやって再会したピンともっと話ししたいし」

「うん、それは私もそうだけど……

 朝ね、サンノお兄ちゃんが私に魔法の話ししてくれたじゃない?」

「あぁ、ごめんね、ピンのお父さんお母さんの事知らなくて……」

「ううん、そうじゃなくて……

 確かに嫌な事もあって怖いけど……

 サンノお兄ちゃんが好きな事なら私も知りたいって思って……」


 ピンは少し下を向いた。


「いや、それは嬉しいけど……無理してない?」

「無理はしてないと思う……たぶん……」

「そう?」

「うん……だから、サンノお兄ちゃんに魔法を教えてほしいの」


 そう言いながらピンは顔を上げて俺を見た。


(きっとピンなりに気持ちの整理を付けようとしているのだろうか……

 いずれにせよ、女の子にここまで言わせて断ったら男の恥だ!)


「分かった、じゃあ万が一の時に自分で自分の身を守れる様、それに、間違った使い方をして事故が起きない様、正しく一緒に学んでいこう」

「うん、有難う、お兄ちゃん……」


 こうして、魔法に抵抗感があったピンも俺と一緒に学び、練習する事になった。

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