第十二話 初めての魔獣戦
――――七才になった。
一般的な子供より早く魔法を覚えて、それからほぼ毎日休まず練習してきたからか、今ではもう大人顔負けの魔力量と魔力精度になった。
[ゲート]はオーチュ首都に行く事も出来る様になったが、一度行った場所でないと出口のイメージが出来ない為首都よりさらにもっと遠くに行けるのかは試す事が出来ない。
なお、特級魔法の亜空間も一応使える様にはなったが何となく怖くてまだ中に入った事はないので中の広さ等は分からない。
また、魔法の練習と並行して武器を使った戦闘訓練も続けていて、最近では俺とニョロの魔力を合わせて玉のコピーを作り、計四つまでであれば思うがまま同時に操れる様になった。
そんなこんなで根拠のない自信を付けてしまった俺はある日の朝食中、
「父さん、俺、そろそろ魔獣と戦ってみたい!」
「魔獣と?
んーまぁ確かに強くはなったとは思うがまだ早くないか?」
「ダメかな……?」
少し悔しそうな顔をしながら目をウルウルさせてみた。
「まぁベッコウさん、サンノの言う通りそろそろ魔獣と戦わせてみてもええんちゃうかって儂も思うで?
魔法が使える以上、生き物に襲われる、生き物を攻撃する、生き物の命を奪うっちゅう経験も必要や思うしな」
(珍しくニョロが良い事を言った気がする……)
「まぁなぁ……」
そう言うと父は腕組みをして少し考えた。
「よし、分かった、俺やニョロさんもいるし勝手に子供達だけで行くよりは安全だから一緒に行くか!」
「いいの!?有難う父さん!!」
「でも絶対に勝手な事と無理はするなよ!」
「うんうん!もちろん!」
俺は目をキラキラさせながら無邪気に喜んで見せた。
「ふぅ……
じゃあ今日は少し離れた森の中にある誰も住んでいない廃館を調査しに行くか!」
「ガードナーの仕事にそんなのもあるんだ?」
「あぁ、ガードナーは町の壁門から歩いて半日ぐらいまでの距離が管轄で、町の安全の為には管轄内で色んな事をするぞ。
それより遠い場所は【レシーバー】って仕事のヒトが担当するけど、今回の廃館はちょうどその境目ぐらいにあるからどちらが行っても問題ない感じだな」
(要するに、海岸から近い所は海上警察が、少し離れたら海上保安庁が、さらに離れたら海上自衛隊が管轄するみたいな感じか……?)
ちなみにレシーバーという職は、魔獣掃討だけでなく、町から町への移動に同行する護衛や、薬草採取等、色んな依頼を受けるからレシーバーという名前らしい。
「まぁだからちょっと距離はあるが帰りはお前の[ゲート]で帰ってきたら一瞬だしな!
さすが俺の子!神童サンノだ!」
「いや、まぁ、うん……」
「ハハハハハ、神童!せやせや、神童や!」
(ニョロはちょっと黙ろうか……)
何はともあれ、廃館へ行く事が決まったので朝食の後、俺はダンサとリハマに今日の練習を丁重に断り、早速父と壁外へ出た。
町を出て街道沿いにしばらく歩いたら、不気味な森が見えてきた。
森は晴れた日中にも関わらず生い茂った木々が日の光を遮っていて少し肌寒く、まるで日没直後みたいな暗さだ。
「ここからはいつ魔獣が出てもおかしくないし障害物が多くて発見が遅れるから気を抜くなよ」
「分かった」
森に入ってすぐ父がそう言い、二人プラス玉で周囲への警戒をしながら獣道を進んで行く。
ガサッ
近くで草木が擦れた音と同時に何かが視界の端を横切ったのが見えた。
俺も父も歩みを止め、ニョロは何かを見付ける為か俺の頭上を段々円を大きくしながらクルクルと上昇しだした。
父は自慢の大鎌を構えて周囲を警戒している。
そんな緊張状態が数秒経った頃、クルクル回っていたニョロが動きを急に止めスーっと真上に上昇したかと思ったら次の瞬間、
ヒュンッゴスッ!
「ギャンッ!」
ニョロが急降下して骨を砕く様な鈍い音と犬の様な鳴き声が聞こえた。
「【デーモンウルフ】、狼の魔獣だ」
鳴き声から判断したのか、父が小声で敵の事を教えてくれた。
「略してデモウルだ!」
(え、今その情報いる?
この状況で父は俺のツッコミを期待しているのか……?)
敵に混乱魔法を使われた訳ではないのに俺が混乱しそうになっていると、
「一匹ちゃうで!次来んで!」
ニョロがそう言った瞬間ニョロが倒した方の反対側から一匹のデーモンウルフもといデモウルが飛び掛かってきた。
ズサンッ
咄嗟に俺は左手を地面に付け土の壁を出して攻撃を止めると同時に、右手を上に掲げて[ウォーターボール]を作った。
急に出てきた壁にぶつかったデモウルは上手く体をひねって着地したが同時にすかさずニョロが、
ギュインッゴスッ!
「ギャンッ!」
壁を回り込んで攻撃し、倒した事が分かった。
間髪入れず、また別方向から一匹が飛び掛かってきた。
「はぁ!」
俺が先程土の壁を出す時追撃用に作った[ウォーターボール]から針の様に細く鋭い水を放出し、デモウルの口から頭を貫いた。
「ウゥゥ〜ワウッ!」
一瞬で三匹倒されて動揺したのか、周りに残っていたデモウルはその声を合図に走り去って行き、その後ろ姿を数えて初めて俺は他にまだ三匹いた事が分かった。
それでもまだもう少しだけ警戒態勢を続けたが、周囲にもう魔獣の気配がない事を確認した俺達はフゥと息を吐いて胸を撫で下ろした。
「お前やるなぁ!まさか俺が手を出す前に一瞬で[アースウォール]と[ウォーターニードル]出すとは思わなかったぞ!」
そう言いながら父は俺の頭をグシャグシャと撫でて来た。
「いやいや、父さん一人なら問題ないのに俺がいるから大鎌は振り回しにくいかなぁって思って……
ニョロが二匹瞬殺してくれて時間も作ってくれたし」
「そうだな!ニョロさんも有難うな!」
「ンフフゥ、儂も中々やろ」
「何その少し気持ち悪い笑い方は……」
「ハハ!まぁ何にせよ、三匹倒したし報告用に魔石を回収しよう!
あぁ、魔獣には体のどこかに小さい魔石があって、組合に討伐報告をする為に回収しないといけないんだ」
父が死んでいる一体のデモウルに向かって歩き出したので、俺とニョロは付いて行った。
「体のどこかって?」
「魔獣の種類によってバラバラだがデモウルは首の中にあるぞ」
そう言いながら父は腰からナイフを抜き、デモウルの首をナイフで縦に裂いて中から親指の爪ぐらいの大きさの黒い石を取り出した。
「なるほど、じゃあ俺はあっちのを取ってくるね」
そう言って俺は父とは別のデモウルから魔石を取り出した。
三体から魔石の回収を終えた俺達は再び森の中を警戒しながら進んだが、その後は何事もなく昼過ぎには目的地の廃館に着いたので廃館の前で遅めの携行食ランチを取った。




