《⭐︎》ショタ王子様は驀進中
⭐︎さらっと読めるショートショートです。
⭐︎出来れば、『エラン王子とリーファ』シリーズ前作を先にお読みください。
僕はランドール公爵家のアレン、四歳。
ある日、同じ四歳なのに僕を弟だという子がやって来た。かけっこも輪投げも僕より下手なのに、自分の方が二ヶ月年上だから僕は弟なんだって。「にかげつ」って何だろう?
「なんであの子はカレンのところに行かないの?」と兄様たちに聞いたら、驚いてた。
末っ子で女の子のカレンは、とても大事なんだ。
カレンは最初、僕たちの遊びに近づかなかった。「女の子らしく、淑女らしく」といつも皆に言われて、静かに大人しくしていたから。
でも、その子は言った。
「ぼくはリーファのお嫁たんになるんだから、カレンもおむこたんになるかも、ちれないよ?」
いつの間にか僕たち三人は一緒に遊んでた。オリバー兄様もリーファ兄様も一緒に遊んでくれた。
その子はエランと言い、リーファ兄様の婚約者で、この国の王子様なんだって。
今日は、兄弟四人でエランの住むお城にお呼ばれだ。
初めて見たお城はものすごく大きなお屋敷だった。でも、エランたちが住んでいるのはその一部分なんだって。「住み込み」ってやつだな。
リーファ兄様は王子の婚約者なので王族用の馬車停めに入ると、シル兄様とアー兄様とエランが待っててくれた。七人でもみくちゃになってご挨拶すると、シル兄様とアー兄様はオリバー兄様を連れてご用事に行った。ご用事が済むまで、エランがお庭を案内してくれるんだって。侍従に「そっちではありません」と言われつつ、皆でトテトテとエランについて行った。
広くてきれいなお庭に大喜びしてると、
「……嫌なヤツに見つかったでちゅ」
と、エランがつぶやいた。見ると、太ったおじさんがやってくる。
リーファ兄様と護衛がエランの周りを囲み、おじさんから遠ざけようとするが、おじさんは気にせずエランの前に。
「エラリアス殿下にご挨拶申し上げます」
「こんにちはでしゅ、ロイス伯爵」
棒読みでエランが答える。
「婚約者とご交流ですか。殿下の優秀な血を残さぬとは、陛下は何を考えていらっしゃるのか」
言ってる事は分からないけど、嫌な感じ。
「その能力を国のためにお使いにならないのはもったいない」
「お国は、ちる兄たまがいまちゅ」
「では、その優秀な頭脳を何に使うと言うのです!」
「農薬を作るでちゅ」
あっさり答えたエランに、おじさんはますます怒り出す。
「はああ? 畑にばら撒くあれですか? くだらない!」
「くだらなくないでちゅ! 他の世界っ、国では! 科学の進歩が人々を農業から解放ち、解放ちゃれた人々が更に科学を進歩ちゃちぇて、繁栄を生みまちた! 大事な第一歩でちゅ!!」
怒ったエランなんて初めて見た…。
エランを後ろから抱きしめたリーファ兄様が
「ロイス伯爵、お引き取り下さい」
と、怖い声で言った。僕もカレンも精いっぱい睨みつけた。
おじさんが帰っても、リーファ兄様はエランを抱きしめていた。
「リーファも、くだらないって思いましゅか?」
「思わないよ。僕はエランの婚約者だから、エランの味方だよ」
「うっ、うわぁぁぁぁん」
いきなりエランが泣き出した。慰めようと駆け寄った僕も悲しくなって泣いてしまい、つられてカレンも泣いてしまう。
三人の大泣きする声が庭に響き渡った。
目が覚めたのはどこかのベッドの中だった。横にエランとカレンが寝ている。
僕の身じろぎで二人も起きた。
「ここ、どこでちゅ?」
「お泊りちまちたでちゅか?」
「これ、あたくちの寝間着じゃないでちゅ」
「ぼくのでちゅね」
三人で話してたらドアが開いて、隣の部屋からオリバー兄様とリーファ兄様が入って来た。
「兄たまたちもお泊まりでちゅか!」
「お泊まりじゃないよ。アレンたちは泣き疲れてお昼寝してたんだ」
オリバー兄様がベッドから下ろしてくれる。
「ぼく、泣いたでちゅか?」
「忘れたのか? 母上のお尻ペンペンでも泣かないアレンが大泣きしたと知らせを聞いた母上が飛んで来たのに……。今。王妃様とお仕置きの計画を立ててるよ」
お仕置き!
「ごめんでちゅ! お城ではおぎょーぎ良くって約束でちた!」
「違う違う、お仕置きはロイス伯爵。アレンはいい子だよ。僕たちが無意識にカレンを優先してたせいでずっと我慢して。『なんであの子はカレンのところに行かないの?』って言われるまで、僕たちはアレンを優先した事が無い事に全然気が付かなくて…。だから、エランと笑うようになって、一緒に怒られて、一緒に泣けるようになったアレンに、父上も母上もリーファも喜んでいるんだよ」
「父上も…?」
「今、ここに向かっているよ。皆、アレンがカレンと同じくらい大好きなんだよ」
「カレンとおんなじ…?」
なんだかお胸がほわほわする。
と、思った気持ちは
「お召し替えとお髪を整えさせていただきます!」
と入ってきた侍女軍団で吹っ飛んだ。
「あぁぁ愛らしい!」
「尊い!」
と、僕たちは髪を巻かれ、おそろいのリボンを付けられ。
オリバー兄様は、
「まあ、可愛いの三乗だから仕方ないか」
と、笑ってる。
「たちゅけて…」
「エラン王子とリーファ」シリーズは、これで完結です。
「目指ちぇ、産業革命!」
「王子が革命を目指すんじゃありません」