表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/50

第14話 剣技

 翌朝、俺たちは再び死界樹海へと戻ってきた。

 座標は昨日死告卿(レイスロード)と戦った場所だ。


「……っと」

 

 転移した瞬間に骸骨騎士(スケルトンナイト)が襲ってきたが、死告卿(レイスロード)が居なければ俺たちの敵ではない。

 不壊剣(レスティオン)を一閃。難なく撃破した。


「進もうか。方角はどっちだ?」

「……こっち」

「了解」


 俺はレティシアが指差した方角へと進む。

 その後ろにレティシアが続いた。




 そうして進むこと約半日。陽が沈んだ頃、死界樹海の様子が一変した。と言うよりも樹海を抜けたと言った方が正しいだろうか。

 巨樹の数が目に見えて減り、空が見えるようになった。

 そしてそこには――。


「……飛竜(ワイバーン)か」


 巨樹の陰から上空へと視線を向けると、黒い影が飛んでいた。


 死纏飛竜(エルドワイバーン)

 アンデット系統に属する竜種であり、死界樹海のみに存在する固有種だ。

 

 空高くを飛んでいるのにも関わらず、その影は大きく見える。おそらくその体高は俺の三倍以上はあるだろう。

 しかし厄介なのはその巨躯だけではない。死纏飛竜(エルドワイバーン)は瘴気を纏っているのだ。

 瘴気とは汚染された魔力。触れるだけで身体を蝕む猛毒である。

 近接戦闘が得意な俺とはとことん相性が悪い。

 

 王城にあった書物には、「遭遇したら迷わず逃げろ」と書いてあった程の魔物だ。

 しかし俺たちが目指しているのは()である。逃げるわけにはいかない。


 ……まあなんとかなるか。レティシアもいるしな。


「……レティシア。瘴気を防ぐ結界って張れたりするか?」

「……ん。……任せて」


 レティシアは頷くと、魔術式を記述した。


 ――光属性結界魔術:聖浄結界。


 魔術式が光輝くと、俺の身体の表面を覆うようにして薄い膜が張られた。

 

 凄まじく高度な結界だ。

 普通、結界という物は四角形や球形になる。それはその方が簡単だからだ。

 

 しかし剣士にとってそれはデメリットになる。なにせ敵の攻撃を避ける時に結界を考慮しなければならないからだ。そうしなければ敵の攻撃を受けて砕けてしまう。

 だがレティシアの結界にはそのデメリットがない。俺の表面に沿うようにして結界が構築されている為、俺が攻撃を喰らわなければ結界が砕かれる事もない。

 剣士としては非常にありがたい結果だ。


 しかし驚くべき事は他にもある。

 

「……驚いた。光属性も使えるんだな」


 魔術師というものはあまり自分の属性以外の魔術を習得しようとしない。それは他の属性魔術を習得したところで威力が目に見えて下がるからだ。

 ならば自身の属性で扱える魔術を増やす方が理に適っている。

 

 レティシアがここに来るまで使用していたのは闇属性魔術だけだ。だから光属性魔術を使えるなんて思いもしなかった。

 

「……あまり得意じゃ無いけど」


 レティシアはそう言って苦笑したが、俺にとっては十分すぎる。

 きっと十人、いや百人の騎士に聞いても俺と同じ返答を返すだろう。


「十分すぎるよ。ありがとな。じゃあ俺は……墜とすか」


 空を飛ぶ魔物は剣士にとって天敵だ。

 だけどそれは普通の剣士ならの話。

 俺には剣技がある。そして見つかっていない今なら使える。


 俺は不壊剣(レスティオン)を上段に構えて、深く息を吐く。

 敵は前方上空。飛んではいるが、動きは多くない。ほとんど滞空していると言っていいだろう。

 ならば外す道理はない。


 ――我流剣技、空断(からだち)


 俺は鋭い呼気と共に、不壊剣(レスティオン)を振り下ろした。

 音すら置き去りにする速度で振り下ろされた剣は、空を断つ。

 次の瞬間、遥か上空にいた死纏飛竜(エルドワイバーン)の翼が断ち斬られた。

 姿勢を崩した死纏飛竜(エルドワイバーン)は錐揉みして地面へと墜ちていく。

 

「……えっ?」


 後ろでレティシアが小さく声を漏らした。


「……やっぱり良い剣だな」


 不壊剣(レスティオン)を掲げ見るが、やはり傷一つない。これが他の剣ならば、俺の力に耐えきれず粉々に砕け散っている事だろう。

 それがいくら丈夫な剣だろうと、魔剣だろうとその結末は変わらない。

 これが、俺が愛剣に不壊剣(レスティオン)を選んだ理由だ。


 不壊(コワレズ)。俺にとっては最高の剣だ。


「……何が、起きたの?」

「斬撃の衝撃波で斬っただけだよ」

「………………だけ? ……わたし、シンも大概だと思う」


 レティシアは呆れたように呟いた。


「グゥオオオオオオ!!!」


 その時、遠方から凄まじい咆哮が轟いた。そして魔力反応が増大していく。


「怒ってるな」

「……これは、竜之息吹(ブレス)。……シン。……私の後ろに」

「ああ」


 俺はレティシアの言葉に従い、後ろへと下がる。

 するとレティシアは凄まじく巨大な立体魔術式を記述した。


 ――闇属性防御魔術:黒黎(こくれい)(とばり)


 前方の空間が歪み、黒き帳を降ろす。次の瞬間、遥か遠方から熱線が放たれた。

 凄まじい熱量が大地を抉り、巨樹を消し飛ばしながら迫る。


 直後、轟音。

 竜之吐息(ブレス)はレティシアの作り出した黒き(とばり)と衝突した。

 だが突き破る事叶わず。黒き(とばり)竜之吐息(ブレス)を完全に防ぎ切った。


「道が出来たな」


 目の前にはごっそりと抉れた地面があった。

 その先には片翼をもがれた死纏飛竜(エルドワイバーン)がいる。


「援護は任せた」

「……ん」


 レティシアが頷き、数多の魔術式を空中に記述する。

 そんな中、俺は一歩踏み込み縮地を使った。


 彼我の距離、およそ三百メートル。それを一瞬の内にゼロにする。

 死告卿(レイスロード)であればこれで終わっていた。だが相手は竜種だ。

 その瞳ははっきりと俺を捉えていた。


 俺は縮地の勢いをそのままに剣を叩きつける。しかし、死纏飛竜(エルドワイバーン)の腕によって弾かれた。


 ……硬いな。


 死纏飛竜(エルドワイバーン)の腕にはびっしりと鱗が生えていた。

 竜鱗だ。魔力を纏った天然の装甲。これを突破するのは少し骨が折れる。

 だが出来ないわけではない。


「グゥオオオオオオ!!!」


 そして死纏飛竜(エルドワイバーン)は再び咆哮を轟かせると、無数の魔術式を記述した。


 ……やっぱり魔術も使うよな。


 想定内だ。だから問題ない。

 直後、背後から飛来した黒き槍が魔術式に命中。その全てを霧散させる。

 最高のタイミングだ。

 故に、死纏飛竜が一瞬の隙を晒す。


「スゥ――」


 その隙を見逃さずに俺は息を吐き、腕に力を溜める。


 ――我流剣技、壊打(かいだ)


 俺は力いっぱいに不壊剣(レスティオン)を叩きつける。死纏飛竜(エルドワイバーン)は先ほどと同じように腕で防御をした。

 それが俺の狙いだとも知らずに。


 竜鱗に阻まれた腕と不壊剣(レスティオン)が激突する。

 そして、竜鱗が粉々に砕け散った。


「グァァァアアア!!!」


 死纏飛竜(エルドワイバーン)が絶叫を上げ。身体をのけぞらせる。


 我流剣技、壊打(かいだ)

 それは斬撃ではなく打撃だ。

 斬るのでは無く、壊す事を目的とした一振り。

 硬くて刃が通らないのであれば通るようにすればいい。それだけだ。


 俺はすぐさま竜鱗の剥がれた腕に剣を振るう。

 竜鱗に阻まれていなければ斬り飛ばすのも容易い。


 俺は死纏飛竜(エルドワイバーン)の腕を斬り飛ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ