ようこそ、転生者を憎む異世界へ
息の漏れる音が大袈裟なくらい大きく聞こえた。ダグさん…いや、ダグラス・ナイトレイは転生者を知っているのか…?というか、此処って転生者が認知されている世界なのか?ゲームの世界としか知らなかったけど、そもそもゲームそのものとは言っていない。ああ、クソ。ちゃんと神様に確認すればよかった。ゲームに近い世界、ゲームと酷似した異世界…どっちだ?いや、今はそれどころじゃない。
「沈黙は肯定…と受け取っていいかな?」
「……どうして、そう思ったんですか」
本能が警鐘を鳴らす。このまま黙ったままではマズい。ダグラス・ナイトレイに転生者と認定されたらヤバい気がする。
「質問を質問で返せないで欲しいな」
「すみません。保護される前の記憶が無くて……転生者かと問われても、返答に困ります」
嘘は言っていないぞぉ!!
「…そう。では君の質問に答えようか」
ダグラス・ナイトレイは指先を天に向けた。
「まず、異様に高いスキルを持っていること。レベル3で鑑定眼Aを持つ子どもなんて異常すぎる」
「…いえ、自分は奴隷として働いていました。スキル鑑定眼のレベルがAまで伸びた可能性もあるのでは?」
スキルポイント。ステータス画面の別ウィンドウに表示されている、SPと省略されていたアレか。原作『ドラグーンズ アクシアⅦ』に関する知識は未だに全て思い出せていないのが痛い。推しであるエイルだけ思い出せたが…そもそも此処、リメイク版の世界なんだよなぁ………マジで前世の記憶があろうが無かろうが何も対策を取れないのが辛い。
「それもあるね。でもスキルポイントを消費すれば、一気にレベルAを取れることがある――所持しているスキルポイントが常人よりも多かったら、ね」
「そう…なんですか」
そういえば…ゲームシステムは同じ、って神様が言っていたよな?というか推しに関する記憶だけ思い出せるのなら、限界まで推しを育成していた時の記憶も可能では…?えーっと…えーっと………そう!レベルアップ時に得られるスキルポイントは10~20。兵種によってポイント数が変わるし、消費するポイントもランクごとに違う!
いや、それだとおかしい。レベルが1上がるごとに最低でも10と考えて、レベル3の俺が<鑑定眼>をAまで取得出来る訳がない。順調にレベルを上げてスキルポイントの合計が20、一気にA級クラスのスキルと取得するには合計150は必要だ。残りのスキルポイントを確認したいが…どう考えても今ステータス画面を開く場合じゃねえし…
「それにしても…何だか他人事みたいに話すねぇ」
「すみません。医療術士の方から聞かされたのですが………原因は、詳しくは分からないんですけど…自分は記憶障害になっているそうです。怪鳥フラリに襲われた…もしくは大型魔獣から逃げている時に崖から転落したかもしれなくて…今日より前の記憶は、はっきり思い出せないんです」
「……へえ」
この新規キャラ怖いんですけど!?まだゲーム本編開始じゃないのに、これ下手したらスタート切る前に殺されるんじゃねえの俺!!?
「すまないね。君が何処の陣営から来たのか、それが分からないから此方も警戒せざる負えない。王国側のスパイか、または帝国の刺客か…偶然を装ってテスト操縦士と接触した可能性もある」
………まあ、そっか。子どもとはいえ素性不明の人間だから、相手に警戒されるのも仕方ない。奴隷=主人の資産。主の命令でダグラスが警戒するような何かを奪うことも出来る存在だ。とはいえ…奴隷時代の記憶は朧げだ。ただでさえ”生前の俺”に関する記憶も欠けているのに…
「そして、もう一つは先の立ち回り。戦闘経験があるとは思えない子どもが、生身で大型魔獣に一泡吹かせた。只者ではない…が、素直な印象かな」
「あの時は、必死で…」
「そう。あの土壇場で『隷属の首輪』を怪鳥フラリに装着させる…なんて、普通なら思い付かないものだよ?」
ヤバいヤバいヤバい自分で自分の首を絞める形で返って来た!?考えろ、考えるんだ…!
「そ、れは…あの首輪を付けていたからです。貴方の作戦で『隷属の首輪』と『隷属の足枷』が外れた後、スキル鑑定眼で使用方法を確認しましたし」
というかスキル<鑑定眼>で確認してなかったら、あの無謀な作戦をエイルに提案してないし。本当は二つともボスに填めて大人しくさせるつもりだったけど、救援に来た怪鳥フラリが来て予定が狂った。いや、ボス怪鳥を助けに来ることは予想していた。万が一に備えて『隷属シリーズ』は一つずつ使うべきだ。そう神様たちにもエイルからにも指摘され、作戦を修正して良かったと思う。
「ふふっ」
ダグラス・ナイトレイが笑みを零す。だけど目が笑っていない。全く笑っていないし、感情すら籠っていなかった。
「面白い子ですね。奴隷にしては頭の回転が良い、それに語彙が豊富だ。怪鳥フラリに襲われて死にかけたというのに、臆することなく生身で空中戦に挑む度胸の持ち主。土壇場でパニックにならず冷静に作戦を実行できる――だからこそ、君が転生者であることが残念です」
俺は何も言えない。何も言い返すことが出来ない。やり過ごせると思っていた、だけどダグラス・ナイトレイの目が俺を転生者だと確信している。どうして?何故ダグラス・ナイトレイは転生者に拘るんだ?
〇わんわん❘あんちゃん、諦めろ
〇わんわん❘そいつは…いや、そのキャラは
やり過ごそうとしていただけなのに、もう俺には打つ手がない。
〇わんわん❘鑑定眼の完全上位互換スキル持ちだ
________________
▽スキル<情報隠蔽>により、鑑定失敗
対象のステータスが一部表示されました
〖ダグラス・ナイトレイ〗 年齢:ERROR
クラス:ERROR レベル:ERROR
二つ名:【ERROR】
称号:ERROR
固有スキル
:鑑識眼
スキル
:ERROR
常時発動
:ERROR
パラメーター
筋力:ERROR
耐久:ERROR
敏捷:ERROR
魔力:ERROR
耐魔:ERROR
幸運:ERROR
________________
<鑑定眼>を使った俺は息を呑む。何だ、これ…弾かれた?大型魔獣を見た時は見たい項目だけ確認できたが、ダグラス・ナイトレイのステータスは何も見えない。ERROR、ERROR、ERROR…所持しているスキルの数も分からない…
「おや…私に鑑定眼を使いましたか。どうです?サービスして固有スキルのみ開示しましたが…ああ、スキルは駄目ですよ?これでも結構スキルは獲得してきた方ですし、スキル欄が圧迫して見えにくいでしょう。もし見たいのであれば、言ってください。ただし追加料金をいただきますからね」
任意で開示するスキルを選べるんかい…!というか待って、完全上位交換??
〇わんわん❘鑑定眼ってのはデメリットがあってな
〇猫ですよ❘スキル情報隠蔽よりレベルが低いと
〇猫ですよ❘鑑定失敗して情報が得られないんだよ
〇わんわん❘相手が情報隠蔽Cを持っている場合、
〇わんわん❘それを無効化するのは鑑定眼Bから
(つまり…俺の鑑定眼Aより上の情報隠蔽スキル持ち…?)
〇わんわん❘だろうな。情報隠蔽Sかー
〇ぴょん吉❘しかも鑑識眼は情報隠蔽Sを無効化できる
はあ!?ちょっ、そんなのアリかよ!!?
「誘拐されかけた君を助けた時、さらっと鑑識眼で見させてもらいましたが…面白いスキル構成をしていますね?何でしたっけ…そうそう、転生ボーナスでしたか」
所持スキルで身バレとか、そんなのアリ!?
〇ぴょん吉❘『隷属シリーズ』も無効化できんのかよ
〇お揚げ君❘どういうこと?
〇猫ですよ❘基本『隷属シリーズ』は装着した相手のみ
〇猫ですよ❘術式構築・強化・スキル使用を無効化する
〇猫ですよ❘そして所持しているスキルが第三者にも
〇猫ですよ❘見えない認識阻害効果を持っているんだよ
〇七つの子❘あー、あんちゃんが鑑定眼持ちみたいに
〇七つの子❘枷が外れてから判明するパターンか
え、じゃあ俺…ダグラス・ナイトレイと会った時から転生者だってバレていたのか…?背筋がゾワゾワして気持ち悪い。悪寒が止まらないし汗が噴き出す。なにこれ、何が起きてんだ?
〇わんわん❘それ、固有スキル生存本能だろ
〇ぴょん吉❘死を回避することに極振りしたスキル
(スキルが発動している、ってことは…)
〇猫ですよ❘現在進行形で発動中
〇わんわん❘あんちゃんの返答次第で
〇ぴょん吉❘死ぬ状況に陥っている
待って詰みかけてんのか俺!!?
「………自分は、これからどうなるのですか?」
殺されるのか、生かされるのか。どちらなのかハッキリさせたい。記憶障害というカードを切った以上、現時点で俺が出せる情報は無い。医療術士の人が言うには、何かが切っ掛けで思い出すかもしれない…らしいけど。『隷属の首輪』を外そうとした時に流れた電流みたいに、肉体に蓄積された記憶が蘇る可能性はあるけども。
転生者だと言うことに頷かない。まだ、まだ道は残されているはず。スキル一覧の転生ボーナスとか、んなもん見てる余裕ねえよ!!大型魔獣と戦うことしか考えてねえし、使える魔法とか常時発動しか確認してねえよ!!!くそ、考えろ…考えろ…!どうにかしてダグラス・ナイトレイから情報を引き出して、崖っぷちの状況から抜け出すしかない…っ
「もし自分が転生者だったら…殺されてしまうのでしょうか?」
「まあ、そうだね」
マジかよ
「………殺される理由を訊いても?」
「ああ…そうだね。うん、君たちには知る権利がある」
足を組み直してダグラス・ナイトレイが続ける。
「まず、過去に公式記録で確認された転生者は6人。いずれも災害・魔王・神の試練に挑み、それぞれの地を人知を超えた脅威から救ったと。輝かしい功績を治めた彼らは英雄として祭り上げられ、多くの人々に支持された――ここまではいい」
言葉を区切った男の目が、より一層冷たいものへ変わっていく。
「全ての転生者は強力なスキルを所持しており、彼らに適う人間はいなかった。誰にも負けない力・実績に反映して得た富・救われた者たちから贈られる名声…この3つが合わさると、どうなると思う?」
「………傲慢、とか?」
「そうだね。魔に堕ちた王を討った転生者は新たな王として迎えられるも、賢王とは程遠い存在であった。剣の腕が優秀でも政治には向いていない男だったらしい。異世界…いや君からすれば前世か。前世の知識を見様見真似で政策を行うも失敗。年を重ねるごとに傲慢な性格となっていき…最後は革命軍によって殺された」
〇猫ですよ❘これⅢじゃね?
〇七つの子❘王様√のバッドエンドってこれ
「ああ、そうそう。彼、女癖が悪くてね。暗愚王を討ったパーティー、旅先で出会った女性、王女様…多くの女性を妻に迎えてハーレムを作ったそうだ。後妻だけじゃ飽き足らず、メイドに町娘に令嬢…お陰で後継争いが絶えず、その転生者が死んだ後も王国に血が流れた。しかも性病持ちだったようでね、君たち異世界の病には対処する術が無く……最終的には未知の病が蔓延して王国は滅亡した」
〇七つの子❘おいⅢ!!!!
〇ぴょん吉❘王道ストーリーが売りだろⅢ!!
〇猫ですよ❘昼ドラEND迎えてんじゃねえよ!!
(昼ドラENDって何!?)
〇七つの子❘Ⅲはマルチエンディングに力を入れてて
〇七つの子❘リメイク版は全部√回収させる気が無い
〇猫ですよ❘その中に昼ドラENDもあるぞ(白目)
〇七つの子❘お陰でリメイク版のCEROが上がった
「一番大きな被害があったのは…シキ国でしょうね。詳しい資料は殆ど残っていないので正確な情報が乏しいのですが…転生者によって海に沈んでしまった国です」
〇わんわん❘Ⅱ!!!!!!!
〇猫ですよ❘バッドエンドじゃねえか!!!
〇わんわん❘嘘だろオイちょっと待て
〇ぴょん吉❘おい管理者ァ!!
〇ぴょん吉❘どうなってんだよ!!!
〇わんわん❘俺が聴きてえよ!!!
〇わんわん❘急いで過去の転生者ログ確認したが
〇わんわん❘何で誰一人クリアしてねえんだよ!?
え?
〇お揚げ君❘あんちゃんみたいに接触した?
〇わんわん❘してねえよ!!!
〇わんわん❘前任者に倣って基本放任主義なんだよ!
〇わんわん❘あんちゃんはデータ破損疑惑による特例で
〇わんわん❘接触したが、過去の転生者は違う!!
〇七つの子❘やけに転生待機列が長いな…と思ったら
〇七つの子❘ゲームオーバーした転生者が続出か
〇ぴょん吉❘ちょっ、Ⅳの転生者は何してんだ!?
〇わんわん❘行方不明でゲーム未クリア
〇猫ですよ❘Ⅰは?てか残りの転生者はどうした?
〇わんわん❘クリア直前で自殺している
〇わんわん❘ⅤとⅥはデータが消えて確認できない…
〇ぴょん吉❘管理者ァ!!!
〇わんわん❘送り出すまでが仕事なんだよ!!
〇わんわん❘それが、何で…みんな、どうして
管理者と呼ばれた神様の文字が、頭の中で悲壮の色を浮かべたまま消えて行く。他人の人生を消費する無慈悲な存在かと思っていたが、最後の文字から伝わる感情は本物だった。送り出した転生者が死亡したと知り、強いショックを受けたように俺の魂も揺れる。
〇猫ですよ❘ワン公、ちょっと休んでろ
〇わんわん❘うるせえ猫助
〇わんわん❘あんちゃんの危機だぞ休めるか
怒涛の情報量でフリーズしていたから、フリーズしてしまった。はっとした顔を向ければダグラス・ナイトレイが黙ったまま見つめている。俺の…いや転生者の出方を窺っているのだろう。ダグラス・ナイトレイから見れば未知の存在。この世界で過去に確認された転生者達の過ちによって、少なくとも二つの国が地図から消された。危険な生き物を見る目を、俺に向けている。
「では、改めて君に問おう――――君の目的は何かな、転生者君?」
内容次第で殺す、という訳か。ここは…正直に話した方が良いよな?
〇わんわん❘それがいい
〇猫ですよ❘相手は未来の知将だからな
〇ぴょん吉❘舌戦で勝てる相手じゃない
〇お揚げ君❘でも一方的すぎるだろ
〇七つの子❘今の手札じゃ勝負にもならん
手札か…ん?待てよ?
「自分の…いや、俺の目的はエイルを救うことです」
ダグラス・ナイトレイの目付きが変わった。俺の予想通り、妹の名前を出したら反応した。相手は十代後半、まだ二十歳にもなっていない青年。ワーグナーのおっさんを追い込む策士であっても、弱点は存在する。大丈夫、イケるはずだ。相手はスパコンみたいに無感情の人形じゃない。
「俺は彼女に助けられました。エイルがサザナミ採掘場に来なければ、あのまま怪鳥フラリに殺されていたでしょう。俺にとって、エイル・ナイトレイは命の恩人です。この恩は一度だけじゃ返せない。一生…俺の全てを使ってでも恩を返したい」
原作のエイル…エイル・スターンも、贖罪の旅を続ける中で人助けをしていた。弱きを助け悪を挫く。剣のように真っすぐな性格の女騎士。リメイク版のエイル・ナイトレイは10歳の少女であっても、その性格と在り方は何一つ変わらない。
「認めましょう、俺は転生者です。だけど貴方たちと敵対する意思も、国を亡ぼすつもりもありません。俺の目的は一つだけ――エイル・ナイトレイを救いたい。破滅の未来から彼女を救い出したい、彼女を死の運命から遠ざけたい。だから俺はエイルに救われた命を、彼女のために使う。今度は俺が彼女を救う番です」
唯一エイルというキャラクターに異なる点が存在する。一神教並みに生涯ただ一人を推し続けた俺が言うのだ。ディスクが擦り切れるほど原作をプレイし、エイル・スターンの√全てを開放し、各セーブデータごとに能力値・兵種を別々に分けたんだ。間違いない。原作エイル・スターンと、リメイク版エイル・ナイトレイの違い。それが鍵だ。
「貴方の妹君が完全治癒魔法を持っていることを、誰にも言いませんから」
真っすぐ見つめる俺。その視線からダグラス・ナイトレイは逸らさない。瞬き一つもせず、名も無き奴隷の少年を見つめている。
「…………だから人命救助の際はポーションかハイポーションを使いなさい、って言ったのに…またスキルを使ったのか」
この場にいない年の離れた妹へ向けて、短く嘆息を漏らすダグラス・ナイトレイ。これは…
「二つほど質問しても?」
「え?あ、はい。どうぞ」
「私と彼女の関係を知っていること、我が妹の未来を知っていること…それはスキルによるものですか?私が見る限り、君の鑑定眼Aではそこまで見ることは不可能なはずなのですが」
「生前の記憶です。でも、全て覚えている訳ではありません。奴隷だった頃の記憶も、前世の記憶も抜けていますし」
「へえ…生前の記憶。私の記憶が確かであれば、今回の騒動で我々は初対面。エイルも君と会ったのは今回が初めて。そして君の話を聞いて察するに、そちらの世界に同姓同名の人間が存在している線はなさそうですね。ということは我々の世界が書物か何かに記されているとか、そういう媒体を通して此処の情報を得たという訳ですか。とすれば…ふむ」
こわいよぉ!!少しの言葉で凄い量の情報を読み取ったよ、この人ぉ!!!
「では次の質問を。何故あれを完全治癒魔法と見抜いたのですか?」
「俺は怪鳥フラリにハヤニエにされかけていました。鋭利な木の枝に身体を貫通され、内臓と骨も損傷し、大量失血で死ぬしかないほどの重症です。それをエイルは完治させました。…噂で聞いたところ、内臓まで直せるのは聖女クラスでないと無理だそうですね?」
「…ああ、そういうことですか。保存食として早贄にされたということは、生殺し…運よく即死を免れたからこそ、エイルの応急処置が間に合ったと。そういう経緯なら仕方ありませんね」
息を吐き出し、そっと目を伏せる。
「……君の言う通り、彼女は齢10歳にして高度な医療術式を使用できます。白魔法は知っていますね?」
「はい、黒魔法と対の…強化と回復、聖なる力に特化した属性」
「その通り。彼女は生まれた時からその力を持っていたのです」
思わず大きく目を見開いてしまった。生まれた時から?それって…
「さて、」
手を叩いたダグラス・ナイトレイが仕切り直す。
「君が転生者である事実、そして我が妹の秘密――これで取引という訳ですね?」
ダグラス・ナイトレイの言葉に頷く。
「…いいでしょう。お互い知られては困る情報を共有した。では、ここからは取引の話とします。君の要望は?」
「転生者であること秘密にしてください」
「他には?」
「…身元保証書とか欲しいです。奴隷のままでは彼女を救えない」
「分かりました。では後ほど書面で。念のため確認しますが、字は書けますか?代筆が必要なら此方で…」
「たぶん大丈夫です」
「そうですか。転生ボーナスに識字補正とあったので、そうでしょうね」
まだ確認してないのにスキルのネタバレしないで欲しい
「私の要求は…そうですね、先ずは我々の陣営に協力すること」
「…殺すんじゃなかったんですか」
「それは建前というものです。確かに我々の常識では、転生者は厄災のようなもの。公式記録で確認された転生者のうちに、行方不明者を除いて処刑されています。ですが物は使い様。過去に転生者を擁立した他国では、前世の知識とやらで急激な成長を手に入れました。異様に高いスキル・我々の世界には無い知識…大変利用価値のある資源です。協定通りに殺すには惜しい存在だ」
言い方ァ!!
「俺も人間ですよ!?そんな物みたいに言わなくても…っ」
「異世界人に人権があるとでも?」
「無いんですか!?」
「冗談です」
目が本気なんですけど
「ということで、実は各国に異世界人はいます。表向きには発表していませんがね」
「…意外ですね」
「と言っても保護ないし実験体…あ、監禁でしたね。失礼。転生者を丁重に管理しているのは、一部の富裕層か…王宮のみ。国を亡ぼす伝説として残っている地は悲惨ですよ?とくに転生者によって先祖が被害を受けた子孫は恨み辛みが凄まじい。見つけ次第殺しに行きますから」
「不穏なワードを一気に言わないでください…!」
「という経緯もあって、君を野放しにすることは出来ない。そして我々も君を故郷へ帰すことも出来なくなった」
つまりダグラス・ナイトレイの陣営に所属しないと、右も左も分からないまま異世界を歩くのは危険すぎる…と言いたいんだな。過去に確認された転生者の行動により、何かしら影響を受けた子孫たち。その憎しみは俺にも向けられるだろう。同じ転生者であるということだけで十分らしい。サンドバッグ不可避。せっかくの二度目の生なのに良いこと無しだなマジで
「なので是非とも我々竜魔導機兵隊に来て欲しいですね。今すぐとは言いません。こちらにも君にも時間は必要ですから」
「……あの、エイルを救うことについては?」
「実を言うと、悲惨な未来が待っていることを既に知っています」
は?
〇わんわん❘あー
〇ぴょん吉❘そういやそうか
〇猫ですよ❘居たわ
神様?俺を置いていかないでくれる??
「身内に未来予知スキルを持っている者がいましてね。我が妹が迎えるであろう早すぎる死…破滅の運命を辿ることは把握しています」
ちょっ、俺が切ったカード無駄だったの!?
「ですが…正直、私は疑っていました。私の妹が殺されるなど信じていなかった。いえ…信じたくなかった。未来予知など行動次第で覆せる…そう構えていましたが――君が来た」
妹の話をするたび、ダグラス・ナイトレイの表情が少しだけ柔らかくなる。大切にしているんだ、エイルのことを。大事な家族だからこそ護りたいんだ。そりゃあ危険視されている転生者の俺が接近したら警戒するだろうよ…
「異世界人である君の情報が確かなら、エイルの死は確実となった。私は妹を死なせない。そのためならどんな手でも使ってみせる。それが世界の異物である転生者でもね」
エイル・ナイトレイを救うために俺を利用する。そういうことなら利用されようじゃないか。俺だって推しを救いたいんだ。死なせるものか
「いいでしょう、君が異世界転生者であることは誰にも言いません。ただし条件があります」
「ありがとうござえっまだあるんですか」
「取得して欲しいスキルがあります。詳細は後ほど説明しますが…最優先で所得して欲しいのは情報隠蔽。なるべく早めにお願いしますね。この世界に生きる人間で鑑定眼A以上を持つ者は少ないです。よほどのことがない限り、君が転生者であると発覚することはないでしょう。ですが用心するに越したことは無い。最低でも情報隠蔽A以上を取得すること。いいですね?」
それはそうだ。転生者を殺しに来る世界なら、情報を隠さなければならない。ということは今後、情報戦が想定されるのか…厄介だな
「ちなみに私の固有スキル鑑識眼ですけど、鑑定眼A以上の情報量を相手から見ることが可能です。君のステータス画面には転生者と馬鹿正直に表示されているので、気を付けてくださいね?」
「えっ」
〇七つの子❘そうだよ
〇猫ですよ❘レベル別で読み取れる量が違う
〇ぴょん吉❘鑑定眼Fだと単語一つだけだし
〇七つの子❘最低でもCは取らないと
〇七つの子❘そして鑑識眼は全情報閲覧可能
現在進行形で俺のプライバシーが侵害されている…ってこと!?
「うーん…時々ステータス画面の端に、変わった文字が流れますが……君の世界の言語ですか。興味ありますね」
〇七つの子❘おいおいおいおいおいおい
〇お揚げ君❘認知されてるぅ
〇ぴょん吉❘だからコメ控えろとあれほど
〇猫ですよ❘いや此処まで読めるの!?
〇わんわん❘こえーよ
「でも、短期間で情報隠蔽をAまで上げられませんよ。残りのスキルポイントも、どれくらい残っているか…」
「ええ、ここで二つ目の条件です」
俺の前に首輪が差し出された。これは…『隷属シリーズ』とは違う。ずっと俺を苦しめていた『隷属の首輪』は金属で出来ていた。今ダグラス・ナイトレイが懐から出したのは、黒い革製のチョーカー。え?これ何?
「これは開発部門に作らせたアイテム『欺瞞の首輪』。対象のステータスを情報操作し、他者から鑑定眼で見られても違う情報を流す効果を持ちます。例えば…そうですね、君の周囲にレベル12・15・10がいたとしましょう。三人のレベルを平均した数値が偽の情報として表示されるのです。年齢に反して異様にレベルが高いのが――転生者の特徴ですからね」
つまり<情報隠蔽>でスキルの覗き見を弾き、アイテム『欺瞞の首輪』でレベルを偽る…ということか。二段階の罠で自分の情報を守り切る…そういう手段なら乗るしかない。俺はダグラス・ナイトレイから魔導具を受け取る。首輪…首輪かぁ
「どうかしましたか?」
「…………せっかく外れたのに、また付けるんだなぁ…って」
「ああ、すみません。配慮が欠けていましたね。ですが『欺瞞の首輪』は『隷属の首輪』より優れていますよ?術式構築阻害する効果はありませんし、装着すれば迷彩効果を発揮して視認されません。それほど重さも無いでしょう?付けても日常生活に支障はありませんよ」
そういうことなら…まあ、いっか
〇ぴょん吉❘ちょっ、あんちゃん!?
かちり、と音が鳴った。
「…………無防備にもほどがあるのでは?」
え?何が?
「すぐに説明しなかった私にも非はありますが、もう少し警戒心を持って行動した方がいいですよ。君、本当にこの世界で生き残る気はあるのかい?」
何が???
〇ぴょん吉❘あー…もう
〇わんわん❘あんちゃん、鑑定眼
〇猫ですよ❘はよ
________________
▽対象のステータスが表示されました
『欺瞞の首輪』
効果
・装着時、対象のステータス情報を偽造
・装着時、対象のレベルの偽造
・混合魔法 高位術式による自爆
________________
…………じばく?
「あの…最後の説明文…」
「保険ですよ、保険。我々の陣営にも転生者を受け入れていない者も少なからずいますからね。諸侯同盟内では親転生者派の割合が半々なので、彼らの意見も通さなければならない此方の身にもなってください」
「ちなみに…どんな感じに爆発するんですか…?」
大きな手の平を開き、ミシミシと音が鳴るほど強く拳を握る。にっこりと笑みを浮かべたダグラス・ナイトレイは「BOM!」と悪戯っ子な声とともに手を開いてみせた。うん、聞かなきゃ良かった
「どのタイミングで爆発するんですか!?」
「内緒です」
「誰の意思で爆発されるんですか!?」
「秘密です」
連続で躱すダグラス・ナイトレイ。それもそうだろう、俺が逆の立場だったら黙秘を選ぶ。対策を取られないよう情報を与えないつもりらしい。でも、
「また他人に生殺与奪の権を握られたぁ…」
「そんな直ぐに爆殺しませんよ。我々から離反したら即刻術式を発動させますが」
次からは確認を怠らないように、その言葉にぐうの音も出ない。涼しい顔で笑みを向けるダグラス・ナイトレイ。しかし彼の双眸は相変わらず表情と一致していなかった。
「改めて――ようこそ、転生者を憎む異世界へ。殺されないよう頑張ってくださいね」
引き攣った顔を浮かべたまま曖昧な返事しか出せない。自分が転生者だと自覚してから散々だ。転生先は死後に発売されたRPGのリメイク版。第二の人生は奴隷スタート。初っ端から大型魔獣と遭遇して死にかける。奴隷から解放されたと喜んでいたら、転生者を殺しに来る異世界だと告げられて。しかも俺の異世界ライフは神様の娯楽として提供される。
今のところ推しに出会えたことだけしか良いことがねえ!!
________________
▽対象のステータスが一部更新されました
〖A5Cα〗 年齢:10
クラス:奴隷 レベル:3
称号:取得無し
▽アイテム『隷属の首輪』が外れたことにより
ステータスが表示できるようになりました
▽一定のレベル・条件を満たしていないため、
現時点で特定のスキルの表示が不可能です
▽アイテム『隷属の足枷』が外れたことにより
常時発動スキルの効果が有効になりました
▽対象に付与された転生ボーナスの効果が
現時点から有効となりました
固有スキル
:生存本能
:■■■■
常時発動
:心眼E
:気配察知E
術式
:青魔法F
:■■■■
スキル
:鑑定眼A
:悪食D
パラメーター
筋力:5
耐久:5
敏捷:6
魔力:11
耐魔:6
幸運:9
補助効果
:『欺瞞の首輪』
転生ボーナス
:良成長補正
:取得SP数上昇
:識字補正
:■■■■
▽これまでの旅路をセーブできませんでした
引き続き、異世界ライフをお楽しみください
________________
年明け以降、投稿ペースが落ちます。申し訳ございません。
また次回お会いしましょう




