第97話 烈風牙ガルベルト 対 槍聖メリッサ その1
大地を踏みしめ、戦いの足音がこの場に置かれる。湖面を駆ける風の音と混ざり合い、闘志と緊張が拮抗している。
ガルとメリッサは互いに瞬きすら見せず、その視線に険しさを募らせていた。
(凄い圧だ……。それにしても、メリッサさんがさっき言っていたこと、あれって聞き間違いじゃないよな? ガルのことを、元獣王騎士団副団長って──)
俺はメリッサの口からふと零れた言葉に首を傾げた。しかし今はそんなことより、初めてこの二人の本気が見られるかもしれない。
異常なまでの空気に包まれた、ガルとメリッサの対峙する空間──俺、ルーチェリア、ルーナの三人は、そこから少しだけ離れた場所から見守っているが、彼らの気迫の刃が決して安心感を与えてはくれなかった。
「では、参るぞ」
ガルは黒斧の刃を下段に構え、下から振り上げるように投げ放った。あたかもブーメランの如く、熾烈に回転する刃が残像を流し、メリッサに向けて襲いくる。
「ふっ、生ぬるい」
かたやメリッサは避けるどころか、右手に持った光槍を地面に突き刺して防御姿勢をとった。ガルに至っては、それもお見通しだったのだろう。既に彼女の背後へと回り込み、斧と拳の挟撃体勢に入っていた。
「だから生ぬるいといっている──閃輝光」
けれど、メリッサは全く動じてなどいなかった。指先を銃口になぞらえ、ガルに向けて光の線を放った。
これに対しガルは身を捩らせ、擦れ擦れで回避。だが体勢を崩した彼は、そのまま地面へと手のひらをついた。
ガギャンッ!──その間にも、ガルの投げた黒斧がメリッサの光槍へと激突した。予想以上に重い。槍に体を圧しつけ、メリッサは口元を歪めて回転する斧を止めている。
「くうっ、ダメか」
ガルの攻撃は決して温くはない。槍で受け止めたにもかかわらず、その回転が止むことはなく、メリッサは黒斧の軌道を逸らして難を逃れた。
間合いをとり、一息入れた彼女は、
「さすがだな、ガルベルト殿。とてもブランクがあるとは思えないな」
と零し、ガルは手についた埃を払い、回転しながら戻る黒斧を表情一つ変えずに受け止めた。
「貴殿の本気、しかとみた。決着をつけたいと願うは、真のようだな」
「ああ、冗談だとでも思っていたのか?」
メリッサの切って捨てた言葉に、ガルはふと、転がる岩に横目を落とした。ひび割れも生じさせず、中心には黒い口がぽっかりと開いていた。一点に集中させた凄まじい魔力の熱線に、彼は額の汗を無言で拭った。
そしてこのまま戦いが止むこともなく、メリッサが地面を蹴って、空高く舞い上がり、「話は終わりだ、煌槍流星」とさらなる魔法を解き放つ。
「ビハッ、無詠唱魔法とは恐れ入る。では私も本気でいかせてもらおう」
メリッサは頭上高く光槍を掲げ、槍投げの姿勢を取った。穂先でガルに照準を合わせ、後ろへと引き絞ると、光槍はさらに眩さを増した。
そこから腕を力一杯に振り下ろし、手元を離れた光槍は、一直線にガルに向けて流れ落ちた。
「くっ、やりおる」
ガルはその光槍を見切り、辛うじて避けた。だが、その威力は凄まじく、大地に突き刺さると同時に、轟音とともにその場の地面を陥没させた。
メリッサは「ふっ、これを避けるか」と独り言ち、自ら投げた光槍の柄頭へと降り立った。
ガガンッ──次の瞬間、鳴り響く金属音が耳を打った。ガルは間髪入れずに黒斧で薙ぎ、それをメリッサは光の剣で受け止めていた。
「なるほど、容易くはないな。武器を使わずとも、よもや煌光剣で乗り切るとは」
「ふふふ、悪いな。魔法練度は私の方が上であろう。低域魔法だからといって侮らぬことだ」
絶え間ない攻防。火花を散らす二人の激突に、観客となった俺たち三人は固唾を飲んで見守っていた。
「ガルベルトもメリッサもすごい。だよね、ガゥウ」
「ああ、そうだな、動きを追うのがやっとだ」
「それも、あれだけの速さの攻撃を至近距離で受けきるなんて……、今の私たちじゃ無理よね。ねえハルセ、メリッサさんの魔法って、詠唱すらしてないよね? あれが無詠唱ってやつ?」
無詠唱魔法、か。たしか以前にも訊いた覚えがある。詳しくはわからないが、魔法も練度によっては、あのような使い方ができるのだろう。メリッサがその模範を示してくれている。
それにしても、あの二人の周囲だけは異次元だ。トリトとリチェットも凄い力を持っていたが、ガルとメリッサのいる場所は極致だ。
俺はあと、どれだけの修練を重ねれば、あの域に達することができるのだろうか?
巨大な黒斧を小剣のように軽々と振るい、彼女の放つ無数の突きを捌ききるガルの凄み。返しの斬撃を、巧みな槍捌きと無詠唱魔法でいなすメリッサ。
まだまだ遠い、でもあの二人の立つ場所に一歩でも近づきたい。俺の鼓動は密かに唸りを上げていた。
── 魔法紹介 ──
【閃輝光】
・属性領域:中域
・用途:攻撃特性
・発動言詞:『閃光の輝跡』
・発動手段(直接発動)
発動言詞の詠唱及び指先から放たれる光を想像実行。
・備考
魔法練度よる影響あり。
【煌光剣】
・属性領域:低域
・用途:攻撃特性
・発動言詞:『煌光の剣』
・発動手段(直接発動)
発動言詞の詠唱及び煌光を集束させ剣を生み出す想像実行。
・備考
魔法練度よる影響あり。




