世界政府
「ご利用ありがとうございます。国家仲買人のルイ=スミスと申します。ご利用内容は何でしょうか?」
「この国を売りたいのです」
依頼人の男性、アーサー=コリンズはそう依頼する。
「ご希望金額は?」
「歳入の25%です」
「分かりました」
ルイは立ち去った。
「本当にこれでいいのか?」
アーサーは隣に来た人物にそう言う。
「えぇ。もちろんよ」
隣の人物、アリソンはそう答える。
「お前もよくやるよ。こんな囮捜査。じゃぁな」
――これで、あいつの動機を調べてやる!
「よぉ!」
情報屋、ダニエルが話しかけて来た。
「どうした? 俺はお前に情報を求めてないぞ」
ルイはぴしゃりと言う。
「いいのかなぁ。聞かなくて?」
「何だ?」
「5cm」
「おらよ」
「センキュ」
ダニエルは札束を確認すると、ルイに資料を渡す。
「!」
ルイは驚く。
「驚いた? そりゃ驚くよねぇ。あの刑事が囮捜査を一人で
やっているなんてねぇ」
「お前、なぜ、これを?」
「俺もお前と一緒には捕まりたくないんでね。じゃ」
ダニエルはそう言うと、スタスタと立ち去って行った。
「どうするんだ? 今回の依頼」
マスターのリアムがルイに話しかける。
「どうもこうも、囮だし」
「やめるのか」
「いいや。やってやろうじゃないか」
ルイはにやりと口角を上げた。
「ご利用ありがとうございます。歳入の25%分用意いたしまいた。指定の株をお買い求め下さい」
ルイはアーサーにそう伝えた。
「では、失礼」
ルイは立ち去ろうとする。が、しかし、振り返る。
「そこにいるんだろう? 刑事さん?」
アリソンは渋々出て来た。
「なぜ、分かった?」
アリソンは問う。
「情報屋からのリークだよ」
「ちっ」
アリソンは舌打ちをする。そして。
「何が目的だ!」
「動機か?」
「あぁ」
「ま、これももう終わってしまったから言うけど」
ルイはへらっと笑う。
「どういうことだ」
アリソンは険しい表情になる。
「それぞれの州省都道府県の軍を世界政府に追随させるためだ」
「何!」
アリソンは驚く。
「世界政府から依頼されていたんだ」
「一体何を!」
「世界政府のいきのかかった人物に国家を売ってほしいと」
「!」
「それにより、各州はその人物たちによって、軍を世界政府の支配下へと誘導される。それが狙いだよ」
「まさか、各州による戦争を防ぐために!?」
「そうだ」
「だから、世界政府の首相はお前を!」
「やっと分かった?」
ルイはにやりと笑う。
「お前の言っていることが事実だと、どこに証拠が!」
「俺を助けたのは、首相だろう? もう青手配でもない」
「取引したのか?」
「あぁ、そうだよ」
「……」
「?」
ルイは黙ったアリソンを見る。
「私の負けか……」
アリソンはその場に崩れ落ちた。
「!」
ルイは涙を流したアリソンに驚いた。
「お前、どれだけ……」
「ううう」
アリソンは泣く。
――困ったな。ここじゃ、目立つ。
ルイは周りの目を気にした。
「ったく、こっち来い」
そして、アリソンを行きつけのバーに連れて行った。
「おう。お前か。って! おい、刑事連れてくんのかよ」
リアムが驚く。
「うるせー。仕方ないだろう」
ルイはバツが悪そうに言う。
「まぁ、お前がいいのなら、いいが」
リアムは承諾する。そして、泣いているアリソンに気付く。
「おやおや。どうしたんだい?」
「俺のせいだよ」
ルイはそう答える。
「お前の?」
リアムはきょとんとする。
「お前、もう泣くな」
ルイはアリソンの涙を拭う。
「ったく。迷惑かけやがって」
「すまない」
アリソンは一言そう言う。
「別に謝らなくても」
「……」
アリソンは黙る。
「悪かったな。捜査を煽るようなことして」
「いいんだ。どうせ、上層部の許可がないとお前を逮捕できない」
「そうか」
「……」
アリソンは再び、黙る。
「これは、提案なんだが。警察を辞めて、探偵になればいいんじゃないかな」
ルイはアリソンにそう言う。
「何を言ってるんだ?」
アリソンは聞き返す。
「いや。国家仲買人たちのことが知りたいなら、上層部のある警察より、ひとりの探偵のほうがいいのかなぁと思って」
「な! なるほど!」
アリソンの表情が明るくなる。
「分かった! そうとなれば、急がねば!」
アリソンは走り出す。インターポールへ辞表を提出しに行こうとしていた。
「いいのか、お前。付きまとわれるぞ」
リアムは忠告する。しかし、ルイは嬉しそうだ。
「いいんだ。それで」
「何でだよ」
「次の狙いは彼女にする」
ルイはにやりと笑う。
「お前。そういう事か」
リアムは苦笑した。
――明日、会えるの待ってるよ。アリソン。
ルイは、そう思いながら、グラスを揺らした。