武器商国
ピピピ。アラームが鳴る。ルイは起きる。
「もう朝か」
「お前も運がいいな。まさか、世界政府の首相から直々に依頼されるなんてな」
マスターのリアムが彼に話しかける。
「そうか?」
「俺の時代はただの犯罪者だったさ」
「それもそうだったな」
ルイはアラームの鳴っていた携帯端末をしまう。
「もう行くのか?」
「あぁ。それじゃ」
ルイは出て行った。
――大層な国家仲買人になったな。
リアムはグラスを洗った。
「ご利用ありがとうございます。国家仲買人のルイ=スミスと申します。ご利用内容は何でしょうか?」
ルイは依頼人の隣に座る。
「私のいるこの国家を売りたいのです」
依頼者の女性、エマ=ラッセルはそう言う。
「分かりました。ご希望金額は?」
「お金ならいらないわ」
エマは、はっきりと言う。
「!」
ルイは少し、驚いた。
「私はこの国が嫌い! だから、売って、この国の方針を変えて!」
「かしこまりました。それでは」
ルイは立ち去った。
「おい。情報屋。何か分かったか?」
ルイはダニエルに聞く。
「あぁ。ばっちりだよ。はい、資料」
彼は資料を渡す。
「ありがとう。これは報酬だ」
ルイは札束の入った分厚い封筒を手渡す。
「センキュ。それじゃ」
ダニエルはそれを受け取ると足早に去って行った。
――どれどれ。
ルイは資料に目を通す。
――なるほど。この国は武器商国か。
――唯一、非核三原則を持っているがゆえに、核以外の兵器を開発した。
――それにより、生物兵器王国と化していたのかぁ。
ルイは資料を読み終える。
――彼女は、確か科学者。
――そうか。政府の研究所で生物兵器の開発をさせられていたのか。
「これは、大変だな」
「ご利用ありがとうございます」
ローガンは頭を下げる。
「君は?」
依頼者の男性、ジェイコブ=ジェンキンスは問う。
「国家仲買人のローガン=ミラーと申します」
ローガンはそう名乗る。
「政府解体型と聞いているが?」
「えぇ。その通りでございます」
ローガンは、笑む。
「この国の政府を解体し、売却してくれ」
ジェイコブはそう依頼する。
「ご希望金額は?」
「金など要らぬ。その代り、必ず、政府は解体しろ。いいな?」
「かしこまりました」
ローガンは頭を下げる。
「それじゃ。任せたぞ」
「なんなりと」
ジェイコブはその言葉を聞くと、その場から立ち去って行った。
「お、いたいた」
「どうした?」
情報屋、ダニエルの声にルイは振り返る。
「おもしろい情報、仕入れたぜ。見たい?」
「いくらだ?」
ルイは彼に問う。
「札束、10cm」
「仕方ない」
ルイは彼に封筒を手渡す。
「確かに」
ダニエルは札束を確認すると、ルイへ資料を渡す。ルイは資料を受け取ると、早速、文章を読んだ。
――政府解体型が別の依頼者から、依頼を受けた?
「これ、本当か!」
「あぁ? 本当だよ。じゃ、俺は旅行に行くぜ」
ダニエルは立ち去る。
――あいつが動く!
――くそっ! 厄介だな。
ルイは資料を握りしめた。
10年前。
「約束して、必ず世界を一つにするって」
病床のソフィア=アンダーソンは最後の力を振り絞り、話す。
「あぁ、分かった! だから、もうしゃべるな!」
若き日のルイがいた。
「ローガン君に伝えて? 嫌いだなんて、嘘だって」
ソフィアは涙を流す。
「分かってる! 必ず伝えるから! 死ぬなんて言うな!」
ルイも涙を流す。
ピー。機械が鳴った。
《死亡を確認》
機械は無情にも彼女に死を告げる。
「ソフィア!」
――あいつの事、忘れているわけではないよな? ローガン!
「どうしたのですか?」
刑事のルーベン=クラークがアリソンへ話しかける。
「クラーク、何でもない。大丈夫だ」
「そうですか。きっと、青手配の件で気が沈んでいるのかと」
「大丈夫だと言っただろう? 平気だよ」
アリソンは苦笑する。
「そうですよね。では、捜査へ行ってきます」
クラークは敬礼して、立ち去って行った。
「ご利用ありがとうございます。希望通り、政府を解体いたしました」
ローガンは依頼者のジェイコブにそう伝える。
「そうか。それはよかった」
「あとは、国家を売却するのみです」
「分かった。よろしくどうぞ」
ジェイコブは立ち去る。ルイは彼の後ろ姿を見送った。
一方、ルイはそれを遠くから見ていた。
「どうした? ルイ」
ローガンは彼に気付いていたのか、遠くのルイに話しかける。
「お前、人の獲物を取ったな?」
ルイはそう咎める。
「何が人の獲物だ? お前の腕がないだけだろう?」
「何だと!」
ルイは声を荒げる。
「あの時みたいに、奪えばよかったんじゃないか?」
「あの時?」
ルイは怪訝そうに聞く。
「10年前だよ」
「お前! 何言って!」
ルイは怒る。
「お前が俺からソフィアを奪ったように」
「貴様!」
ルイはローガンの胸ぐらを掴んだ。
「おい。ここで殴るのか? 警察沙汰は俺たちには迷惑な話だろう?」
「ちっ!」
ルイは彼を放す。そして、立ち去ろうとする。しかし、振り返った瞬間、アリソンと目が合う。
「お前、一体何でここに」
ルイは一瞬、怯む。
「お前らの捜査だ」
アリソンは銃を構える。すると、アリソンを見たローガンが口を開いた。
「なるほど。お前があの刑事をからかっていた理由が分かったよ。似てるもんなぁ。ソフィアに」
ルイはその言葉を聞くと、ローガンを殴った。すると、それを見ていたアリソンが聞く。
「ソフィアとは誰だ! 話からすると、お前らの大切な人らしいが!」
「お前には関係ない! 帰れ!」
ルイは叫ぶ。
「何!」
アリソンは少し、苛立つ。
「すまない、刑事さん。この傷害事件はなかったことにしてくれ。じゃ」
ローガンは立ち去ろうとした。
「待て!」
ルイは彼を呼び止めようとするが。
「待つのはお前だ! 青手配!」
アリソンが制止する。
「ちっ!」
ルイは舌打ちをするが、あることを思い出す。
「あ、そうだった。俺はもう青手配でもなんでもないんだろう?」
「なぜそれを!」
「じゃあ、逮捕できないよな? じゃ」
ルイは立ち去った。
「くっ!」
アリソンは銃を地面へ投げつけた。
――必ず、逮捕してみせる!