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国家仲買人   作者: 津辻真咲
3/6

大統領と大統領

「ねぇ」

「何?」

 当時10歳のジョージ=ガルシアは、同じく、10歳の幼なじみ、テイラー=ワトソンの声に振り返る。

「将来、何になりたいの?」

「大統領!」

ジョージは笑顔で答える。すると、テイラーは笑って言う。

「このくにでは、大統領にはなれないよ?」

「え!? そうなの!?」

 ジョージは身を乗り出して、驚く。

「王宮の無い州へ行かないとなれないよ?」

 テイラーはそう説明する。

「この州では、総理大臣にしかなれないよ?」

「そうなの!? でも、僕、この州大好きなんだ。だから、この州から出たくないな」

 ジョージは少し、苦笑する。

「それじゃ、こうしよう! この夏休みが終わったら、私たち、別々の州へ行くことになっちゃうでしょ?」

「うん」

「だから、大統領になるっていう夢を私たちそれぞれが叶えたら、この州へ戻って来よう? どちらが総理大臣になるか官房長官になるか分からないけれど、今度こそ、この州を二人で治めよう?」

「うん」

「同志だよ?」

 テイラーは右手の小指を出す。

「うん」

 二人は、指切りをした。

「私たちは、改革の周期を待とう」

「うん……」



50年後 捜査本部

「上層部からの命令で、この赤手配の買収型国家仲買人の男性を青手配にする! いいか!」

「はい!」

 アリソンの指示に刑事たちは返事をする。

「分かってると思うが、青手配犯には、拘束力がない。しばらくは証拠固めに徹してくれ」

「はい!」

「その代わり、まだ手配されてはいないが、前回の件で潜入捜査班からの情報で浮上した、政府解体型の国家仲買人の逮捕を優先にする! 散会!」

「はい!」

刑事たちは捜査へ向かった



――今回の依頼主は二人組の男女か。

「……」

テイラーはフードを被り、俯き加減で一点を見つめている。

「大丈夫だ。俺たちの突然の退陣の理由は、誰も知らない。目的も行き先も誰も知らない。もちろん、過去もだ」

 ジョージもフードを被り、ベンチにテイラーと共に座っている。

「分かってる」

「……」

――いた。あの2人だ。元大統領の二人組だとは……。

「ご利用まことにありがとうございます。ご依頼内容は何でしょうか?」

 ルイは二人の隣に座り、要件を聞こうとする。

「この州を買いたいのです。お金にいとめはつけません」

 ジョージが要件を伝える。

「分かりました。必ず、買収します。では」

ルイは立ち去った。

「……」

――青手配犯! 見つけた! 証拠を押さえないと!

「今度の依頼者は、あの大統領たちね」

アリソンは腕組みをして、言う。

「はい。証拠はどうやって押さえましょうか?」

 刑事、ジェイクは尋ねる。

「あの青手配犯が接触した買収された議員たちを片っ端から逮捕するわよ」

「はい」



政府解体型のローガンは街を歩いている。

「よう! 解体屋!」

情報屋、ダニエルはベンチに座りながら、ローガンに話しかける。「何だ?」

ローガンは足を止めて、彼を見る。

「前回は残念だったな? 依頼を取られて」

「そのように見えるか?」

「違うのか?」

「あの依頼主たちは、この州の政府の解体が目的ではない。この州の統治が目的だ。だから、自分たちが議員たちの支持を得て、総理大臣にならなければならない。私の出る幕ではないのだ。お前は、この国家仲買人の事情に詳しいはずだ。情報屋なのだからな」

「まぁな」

 ダニエルは相槌をうつ。

「他に用事がないのなら、失礼する」

ローガンは立ち去ろうとする。しかし。

「同志」

「!」

 ローガンはダニエルのその言葉に立ち止まる。

「昔、そうだったんだろ? 買収屋と」

「何が言いたい?」

 ローガンは視線をダニエルへ向ける。

「別に。ただ、俺は、お前らの過去を知っている。いや、調べ上げれる。かな?」

「私に、解体屋を辞めろと?」

「いいや。あのしつこいインターポールの御嬢さんを黙らせてほしい」

「何を言っている?」

「あの御嬢さん、俺の顧客にしつこくてね、困っているんだよ。もしかしたら、俺まで捕まるかもしれない。だから、俺と手を組まないか?」

 ダニエルはそう提案する。が。

「ふっ」

ローガンは下を見て笑う。

「!」

「顧客になるならともかく、ただの情報屋の為だけに動く解体屋はこの世にはいない」

「!」

「話がそれだけなら、失礼する」

 ローガンはそう言うと、立ち去っていった。

「やっぱ、無理か……」



「本部長!」

「どうした?」

 アリソンはジェイクの声に振り返る。

「警察の協力者からの情報なんですが、もう既に与党の9割の議員が買収されている様です」

「そうか」

アリソンは険しい表情になった。

「今残っている、捜査員全員に告ぐ!」

「!」

 刑事たちはアリソンの方を見る。

「今から、買収された議員たちの逮捕状の請求を始める! 逮捕状が降りたら、即、身柄確保へ向かってくれ! いいか!」

「はい!」

 刑事たちは逮捕状の請求に取り掛かった。



スタスタスタスタ……、ストン。

ルイはベンチに座る。

「ご利用ありがとうございます。国家議員の買収が完了いたしました。手数料は、来年度の歳入の25%です」

 ルイは要件を伝えた。

「分かりました。指定の株を買い占めます」

 ジョージはそう言う。

「ありがとうございます。では、失礼いたします」

ルイはジョージの言葉を聞くと、ベンチから立ち、去って行った。

「テイラー、これで、全てが終わる。安心しろ。後は、インターポールに捕まらなければ、いい話だけだ」

 ジョージはテイラーを安心させようと、話しかける。

「えぇ、分かっているわ。それぐらい」

 テイラーはフードをとる。

「元大統領。それはそう簡単にはいきませんよ」

 アリソンと刑事たちが周りを取り囲んだ。

「あなたたちに、あの国家仲買人の指定した株は買わさせません!」

「逮捕状があります。あなたたちを逮捕します」

アリソンは逮捕状を見せながら、そう告げた。

「そうか。やはり、無理だったか……」

「その様ね」

二人の表情は曇ったままだった。


――青手配になったとはいえ、手数料がもらえなくなるのは、痛手だな。今回は仕方ない。報酬は諦めよう。

 ルイは遠くから、それを見ていた。


「どうしてですか?」

 アリソンは二人に理由を尋ねた。

「本部長?」

 ジェイクは、それを見ていた。

「あなたたちはこんなことしてまで、この州が欲しかったのですか!? こんな方法をとらなくてもあなたたちは総理大臣になれたはずです!」

 アリソンは声を荒げた。


――あいつ、何言って……。

ルイは遠くから見ている。


「あなたたちが、合法でこの州を統治したのなら! この州は良くなっていたはずなのに! どうしてですか!?」

 アリソンの表情は険しいままだ。

「すまない。連合防衛軍の法案の制定を止めたかったんだ。だから、すぐに総理大臣になりたかったんだ」

 ジョージは下を向いていた。

「……」

「15時11分。逮捕する」

ガチャ。アリソンは二人に手錠を掛けた。



『ガルシア元大統領とワトソン元大統領 逮捕!』

『国家仲買人に州の買収を依頼』

『与党議員全員 国家仲買人からの不正献金で逮捕』

 新聞の見出しには、そう書かれてあった。

「……」

バサッ!

ローガンは新聞をとじて、ベンチから立ち去って行った。



「何だよ。用って」

 ローガンはルイと会っていた。

「はっきり言う。お前はバカか」

 ローガンはルイへそう言い放つ。

「!? どう意味だ?」

 ルイはいきなりの言葉に驚く。

「お前は、買収屋でありながら、政府を崩壊させた! この州は、政府を失ったんだぞ!」

 ローガンは声を荒げる。

「!」

「何か言ってみろ」

「インターポールの刑事がここまでやるとは思ってなかったんだよ」

ガッ!

ローガンはルイを殴る。

「今回、散財したのが、お前の唯一の薬だろうな」

「ちっ……!」

 ルイは血をぬぐう。

「そういえば、お前を顧客としている情報屋から接触があった」

「!」

「お前と共に自分も捕まるのではないかと、心配していたよ」

「情報屋が!?」

「俺たちの過去を調べない代わりに、私にあのインターポールの女性刑事をなんとかしろという取引まで提案された。お前、見損なったよ。見損なったのは、もっと昔だがな。では、失礼する」

ローガンはそう言うと、足早に立ち去った。

「くそっ」

ルイは再び、傷口に手をやる。

「俺だって、あいつを助けたかったよ!」

ルイの目が潤んだ。

「……」

――一体、どういう事だろう。

 アリソンは遠くからそれを見ていた。

「ソフィア。すまない……」

ルイは片手で顔を覆う。

――ソフィア? そうか、大切な人を失ったのね。

 アリソンはそのまま、その場を去って行った。

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