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国家仲買人   作者: 津辻真咲
1/6

国家

「今回から捜査本部本部長を務める事となった、アリソン=ベルだ。よろしく頼む」

「はい!」

 インターポールの刑事たちは、アリソン=ベルの自己紹介に返事をする。

「これからは、反政府組織でもテロ集団でもない、それらの一番奥にいるとも言える国家仲買人の逮捕を目的とする。いいか!」

「はい!」

「では、捜査会議を始める」

ガタガタガタッ! 刑事たちは手帳を取り出し、メモの用意をした。



ピピピピピッ! ルイ=スミスは机から顔を上げる。

ガタッ! そして、携帯端末のアラームを止める。

《おはようございます。朝のニュースです》

 テレビからは朝のニュースが流れて来た。

「時間通りだな。当たり前だが」

 ルイは呟く。すると。

「はいよ」

ガタン。バーのマスター、リアム=モーガンが水の入ったコップをルイの目の前に置く。

「いらねぇよ」

ルイはネクタイを結びながら、答える。

「あんなに酔いつぶれるまで飲んで、二日酔いは無しか?」

「まぁな」

「そうか」

「それじゃ、行ってくる。じゃあな」

カランカラン。ドアのベルが鳴る。ルイは国家仲買人という仕事へと向かった。

「やっぱり、ルイ。お前は変わった奴だな」

 リアムは少し、苦笑した。



国の統合化から100年、この異世界の国家たちは1つの状態となった。しかし、元々国家だった、現在の州省都道府県の境は旧国家と同じのままだ。それに加え、世界政府は誕生したものの、州省都道府県には、王宮も政府もそのままある。



――今日の依頼主は、軍事主義国家の総帥か。一体何が目的だ?

ルイはメモを読みながら歩いている。

――依頼主の特徴は……、黒装束に黒髪、眼鏡か。

「!」

――いた。彼か。まだ若いな。

ルイは依頼主、ディラン=ターナーの座っているところのすぐ隣に座る。

「ご利用ありがとうございます。国家仲買人のルイ=スミスと申します。今回のご利用内容は、何でしょうか?」

「あなたが?」

 ディランは聞き返す。そして、ルイはそれに二つ返事で答える。

「はい」

「依頼内容は、私の軍事国家を売りたいのです」

「分かりました。ご希望金額は?」

「今年の歳入と同じ金額です。」

「分かりました。買い手が決まり次第、ご連絡いたします。では」ルイはそう言い終えると、立ち去っていった。

「……」

一方、ディランは去って行くルイの後ろ姿を少し見ていた。

ザッ! すると、アリソンたち、インターポールの刑事が姿を現す。

「署まで、ご同行いただけますか?」

 アリソンは警察手帳を見せながら、言う。

「騙したのか!」

 ディランは声を荒げる。

「いいえ、私たちの捜査能力の高さです」

「くっ!」

「署までご同行願えますか?」

 アリソンは淡々と話す。

「勝手にしろ」

「では、こちらへ」

――なぁるほど。インターポールの餌だったか。ま、そう簡単には、餌は放さないけどね。

ルイは遠くからそれを見て、にやりと口角を上げた。



「依頼主、ディラン=ターナーの情報はこれで全部だぜ?」

 情報屋のダニエル=クーパーは紙の資料を差し出す。

「ありがとう。これで足りるか?」

ルイは札束の入った袋を彼に手渡す。

「あぁ、十分だ。しかし、お前も大変だよな? わざわざ買収型の国家仲買人やるなんてな」

 ダニエルは札束を数えながら、言う。

「俺の勝手だろ?」

 ルイも資料を見ながら、答える。

「はいはい。俺は、国家の売却情報を闇へ流すだけだから」

「分かってるよ」

「じゃな!」

カランカラン。ドアが閉まった。一方、バーのマスター、リアムは知らん顔。

――あの依頼主の国家は、軍事主義国家で、第一省庁である軍部省の大臣とその官僚たちが国家の乗っ取りを始めた。そして、第二省庁である情報省の大臣が職権濫用をしてまでも総帥を守ろうとした為、その大臣は抹殺された……か。

――それから、この国家には税制度が無く、第四省庁である労働省の官僚たちがインターポールの手配書の賞金が出る、犯罪者を捕えて、歳入に充てていた。

――へぇ。唯一の無税制度国家か。珍しいな。

――それに加え、インターポールの犬か。そりゃ阻止したくもなるよなインターポール。

 ルイは資料を見て、口角を上げた。



インターポール取調室

「どうして、あの国家仲買人と会っていた? お前の軍事主義国家はただの国家ではないのだぞ。世界政府と唯一パイプを持った国家なのだぞ?」

 アリソンはディランを任意で取り調べていた。

「お前らには関係ない! ここから出せ!」

 ディランは任意同行に応じたものの、取り調べには反抗的だった。

「無理だ。今さっきまでは任意でも、もう逮捕状を請求した。ここからは強制捜査だ」

 アリソンは淡々と言い放つ。

「くそっ! 何でだ!」

「……上からの命令だ」

「何? お前だって上層部だろ!? 本部長なんだろ!? 幹部じゃねぇか!」

 ディランは声を荒げる。

「上というのは、世界政府の首相だ。首相直属の命令だと言っているんだ! 分かったか!」

「お前もどうせ犬か。だが、下の飼い犬の事は知らないみたいだな」

「?」

「なぜ俺が自分の国家を売ろうとした理由。知らないだろ」

「それぐらい、分かってないで世界政府の犬はやっていられんよ。反逆者の台頭だろ?」

「!」

「で? 何が言いたい?」

「!」

「お前にもう逃げ道はない。全て話せ」

「くそっ! 何でだよ!」

ダンッ! ディランは机に拳を叩きつけた。

「俺は……」

「……」

 アリソンは黙っていた。

「俺は、また、国の三大要素を作ろうとしたんだ。国を売った金で“領土”を買い、難民を受け入れて“国民”にし、“政府”は一から俺が作ろうとした。それで全部だ」



「買い手は見つかったのかい? ルイ」

 リアムはグラスを拭きながら、尋ねる。

「マスターは、お節介だな」

 ルイは少し微笑む。

「昔の俺の姿は、ほっとけない主義でね」

「それも、お節介だよ」

「そうかそうか。悪かったな」

 リアムは苦笑する。すると、ルイは答える。

「未来の俺に免じて、少しだけ」

「それは、うれしいねぇ」

「買い手は、あの世界政府の首相本人だ」

「!」

 リアムは驚く。

「どうやら、世界政府は自らの歳入の中から予算を組んでまで、あの国家を手放したくないらしい」

「相当の強いパイプが?」

「答えは簡単さ、その強いパイプというのは、第三省庁である法務省の大臣が世界政府との窓口となって交渉をしているからだ。法務大臣は自分だけでも助かりたいのだろう」

「そうだったのか」



第三省庁法務省

「みんな、良く聞くんだ。世界政府には、私の方から頼んでおいた。だから、大丈夫だ。この法務省の大臣、この私と法務省の官僚、君たちはこの反乱の波には飲まれない。だから、安心するんだ。いいね?」

「はい」

「うん。それでいい。それで……」



――買い手代理人は、黒スーツに林檎を手に持っている人物。

――いた。彼だな。

ルイは買い手代理人の男性の横に座る。

「ご利用ありがとうございます。国家仲買人のルイ=スミスと申します。ご利用金額は、来年度歳入の25%です」

「分かりました。ご利用の株を買い占めます。では」

代理人は立ち去った。

「くー! 今日の仕事終わり」

ルイは背伸びをする。すると、後方から声がした。

「ご利用の株を買うとはどういう事だ!」

「!」

ルイは驚き、振り返る。そこには、銃をルイへと向けているアリソンがいた。

「お前、そんな事も分からないのか?」

 ルイは微笑み、言う。

「そんな事ぐらい知っている! 株取引を通じての金銭の授受ぐらいな!」

 アリソンは声を荒げる。

「あらかじめ所持している株と同じ会社の株を買ってもらう。その後、株の値段が上がったところで、自分の株を売る。古いやり方だが、一番足が付きにくい」

 ルイはアリソンに言う。

「それぐらい、知っていると言っただろう!」

アリソンは銃を向けている。

「銃を下したら、どうだ? 君に俺は撃てない。いや、逮捕も出来ない。そうだろ?」

 ルイは口角を上げる。

「それも、知っている! 買い手が首相でなかったら、お前は今頃牢獄だ!」

 アリソンは叫ぶ。

「だったら、さっさと帰ったらどうだ?」

――くっ!

 アリソンは歯を食いしばる。そして。パァァァン!

「!」

 アリソンは威嚇射撃をする。

「答えろ! どうしてこんな事をする!?」

「儲かるからだよ」

 パァァァン! パァァァン!

 再び、威嚇射撃。

「本当にそれだけか!?」

「ふぅ」

ルイは溜め息をつく。そして。

「お前と同じだよ」

「!?」

 アリソンは一瞬、怯む。

「世界を変えたいんだ。お前とはやり方が違うけどな」

「!」

「これで、満足か?」

「どういう意味だ」

 アリソンは銃を構えたままだ。

「じゃあな」

ルイは去って行く。アリソンはそれを見て銃を下す。そして、叫ぶ。

「今度はただで済むと思うな!」

 ルイはそれを背中で聞く。

「面白くなりそうだ」

 そして、微笑んだ。

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