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第2話 酒場にて

 俺が、宿のフロントで商談部屋の鍵を返した後、急ぎ足で酒場【魔女の一撃(ぎっくり腰)】の入口をくぐった。


 店の中に入ってでウィルたちを探すと、奥の半個室の中にすでに飲み始めていた。

 俺は、ウィルたちのテーブルに向かって歩いていって、空いた椅子に座った。

 俺が座ったのを見た、ハインツが早速、


「ヤンは、遅れてきたから、駆けつけ三杯だな」


と軽口を叩いた。

俺を見てやって来た店員に、ウィルがエール五杯と焼きソーセージ十五本、ブルーチーズ二皿を頼んだ。俺は追加で枝豆大盛りを一皿、(オーク)バラの串焼きを十本頼んだ。


「ヤンは、枝豆が好きだね~、茹でただけの豆のどこがいいの?」


エマの軽口に、俺は、


「エールには枝豆が一番合うと俺が思っているだけだよ、エールを美味しく呑めるアテがあれはそれを食べるよ、エマが知っているなら教えろよ」


 と答えた。エマは、


 「エールには、香辛料の効いたソーセージが一番合うと思うよ」


 「俺もソーセージはアテとして好きだよ。だけどやっぱり枝豆が一番だな。最後は呑む人の好き嫌いだよ」


 「なんだ、つまんない。当たり前の結論になって、ヤンのバカ」


 「バカでいいよ、おっ、来た来た」


 俺の元にエールと、枝豆一皿、豚バラ串、ソーセージが載った皿がやって来た。

 エールとソーセージは、他の四人にも届いた。


 ウィルが。エールのジョッキが全員に届いたのを見てから、一つ咳払いをした。

 それを聞いた、メンバー全員が背筋を伸ばし、ウィルの顔を見た。

 ウィルは、全員を見回してから言った。


 「今回も、無事ダンジョン攻略で成果が上がった。これは、ここにいる全員が協力したからだ。この場で、全員の慰労と次回のさらなる成果を得るための鋭気を養おう」


 ここで、俺たち全員がジョッキを持った。

 ウィルが、持っていたジョッキを掲げていった。


 「今回の成果に、カンパーイ」


 「「「「カンパーイ」」」」


 とメンバー全員がやや大きめの声で言った。

  その後、全員でエールを飲んで、ジョッキを空にした。


 「「「「「プハーッ」」」」」


 「さあ、食って飲んで、楽しもうぜ」


 ウィルがそう言うと、みんながソーセージや豚バラ串にかぶりついた。


 各々が、ソーセージや豚バラ、鶏皮などを食べ始めた。ダンジョン内は保存食を主に食べるので、新鮮な肉を食べる事は、クエスト終了後の冒険者の楽しみの一つだ。

 

 俺は、エールをもう一杯頼んで、枝豆を食べ始めた。塩味の効いた枝豆はおいしい。一莢(ひとさや)食べたところで、エールが届いた。エールを一口飲む、枝豆を食べるを繰り返して、エールと枝豆の味を楽しんでいた。


 テーブルの反対側では、ハインツとエマが、ワインに合うチーズは何が一番かという、ワインのアテについてもめていた。いつもの事だ。飲んでる酒が、いつの間にか赤ワインになっていた。


 隣に座っているアンナは、ウィルと昔入ったダンジョンで取ったドロップ品の話をしていた。アンナが持っているマジックバッグを手に入れた時の話やウィルの武勇伝だ。


 俺は、みんなのたわいもない話を聞くのが好きだ。明日は荒事をしないで済むという実感が湧き上がってくる。


 しばらくエールと枝豆の味を楽しんでいたが、枝豆がなくなったので、店員に焼酎の水割りを頼んだ。今度はソーセージをアテにエールを飲む。

 焼酎が届いたので、焼酎を飲みながら豚バラを食べ始める。


 俺が焼酎を飲んでいると、テーブルの反対側からエマがいかにも酔っ払いの絡み酒っぽく訊いてきた。


 「ねえ~、ヤンは、ワインに合うチーズは何だと思う」


 「そうだな、質問が曖昧すぎる。ワインは赤と白のどっちだ、しかも白も赤も産地によって味が結構違うぞ」


 「どれもよ、私はロックフォールが一番合うと思うけど、ハインツはゴルゴンゾーラだというのよ」


 「そうだな、甘めの白ならブルーチーズが合うと思うけど、ロックフォールでもゴルゴンゾーラでも俺は好きだぞ、赤ならラクレットとかハードチーズがいいかな」


 エマは呆れた顔になり、


 「ヤンって、豆が好きなくせに、チーズも食べるの」


 と言った。俺は、話を終わらせるように答えた。


 「そりゃ食べるよ、ワインのアテにチーズは合うし、エールは枝豆以外にウインナーや豚バラ串が合うし、焼酎やウイスキーのアテはおいしい物だったら何でもいい、といった感じだな」


 そこまで話をして、俺は焼酎の水割りを一口飲んだ。

 ヤンの悪食(あくじき)とエマがぼやいていると、それを押しのけるようにしてハインツが酔っ払った声で俺に絡んできた。


 「なあ、ヤン、どう考えても俺は不思議なんだが、魔法がろくに使えないお前が、何でアイテムボックス持ちなんだ」


 言い終わったハインツは、侮蔑と不満の混じった顔で俺を見つめた。


 魔導師に限らす魔法が使える者の中でも、アイテムボックス持ちは数十人に一人の割合しかいない稀少な魔法だ。それを初歩の魔法しか使えない俺が持っているのが、奴は気に入らないからだ。


 俺は、またかと言う感情が表情に出てきている事を感じながら、答えた。


 「すまんが、俺自身が理由を知りたい。アイテムボックスに消費されている魔力を、攻撃魔法に回す方法があれば教えて欲しいくらいだ」


 俺の返事を聞いたハインツは、不機嫌さを増した顔でまた話し始めた。


 「そんなの知らねえよ、魔導師ギルドの幹部にでも教えてもらえ、しかし、ヤンのアイテムボックスは聞いた事がないほど巨大だもんな~、いったいどのくらいの大きさなんだ?」


 酔うといつも同じ事を聞いてくる、ハインツのこの絡み酒は、どうにも困った癖だ。だが、俺が答えないと終わらせる事ができない。


 「四十フィートリーファーコンテナ九個分だ」

  

 「ぎゃははは~、なんだよその言葉~、数字しか意味わかんね~」


 ハインツはお約束のように爆笑した。

 

 「どうも、(わら)ってくれて、ありがとう」


 ハインツはせせら嗤いながら、俺の返事を無視してしゃべり続けた。


 「ホント、”ふぃーとりーふぁーこんてな”って、やたら長い言葉は何の単位なんだ?、長さか?、重さか?、量か?、マジックバックの方がたくさん入るんじゃないのか」


 俺は、だんだん酔いが醒めるのを感じながら、うつむいた。

 何で、俺はこんな能力を持っているんだ?


 「そうだな・・・、ハインツの言う通り、マジックバックの方が多く入るかも知れない・・・」


 俺の疲れた声で言った返事を聞いたハインツは、嗤うのを止め、言葉に怒りを滲まして言った。


 「ヤン、なんで、お前みたいにろくに魔法が使えない奴が、アイテムボックス持ちなんだ!!」


 俺は、今まで何度、この台詞を聞かされたのだろう。


 今まで加入していたパーティーのメンバーの誰かが、専門のポーターを用意した方がいいと不満を言い出して、何度もクビになった。


 ポーター兼雑用係として俺を雇ってこき使ったあげく、ダンジョンのフロアボスを倒すとき、俺が雑魚を追い払ってボス戦に集中できるようにした時なんかは、ポーターのくせに生意気だと言い出した奴の言い分が通って、俺をクビにしたパーティーもあった。

 俺はパーティーを次々とクビにされることに嫌気がさして、その町を離れて、ここに流れ着いた。 

 昔のイヤな事を思い出したので、疲れた声で俺は応えた。


 「俺にも分からない。以前、鑑定結果の内容を冒険者ギルドや魔導師ギルドで調べてもらったが、アイテムボックスの名称の意味やつかえる原因や理由は分からない言う話だ」


 俺が真面目に答えたので、ハインツはシラけた顔になった。そして、怒りの表情で吐き捨てるように言った。


 「荷物担ぎ(ポーター)ごときが、剣士のふりをするな!!」


 「・・・」


 俺は何も言えなかった。ハインツは、身体強化以外の魔法がろくに使えない俺の代わりに、襲ってくる魔物を倒している事は事実だった。


 ポーターの役割がなければ、もっと早い段階で俺をパーティーから外せとウィルに主張していただろう。


 ハインツが俺に噛みついて、良くない雰囲気になったのに気づいたウィルが、二人の間に割り込んできた。


 「ハインツ、それぐらいにしておけ」


 ハインツは、酔って赤くなった顔をウィルに向けた。


 「ウィル、何でヤンみたいな役立たずをウチのパーティーで剣士づらさせるんだ。腕の立つフリーの剣士や拳闘士はいくらでもいるぜ」


 ウィルは、困った顔になって、ハインツを諭し始めた。


 「ハインツ、さっきも言ったが、俺たちが危険を犯さずに低層階で稼げるのは、ヤンのアイテムボックスのおかげだ、それで我慢できないか」


 「我慢できないな」


 ハインツは、不満をにじませた声で言った。

 ハインツは、いつも以上にイラ立っている。彼がこのパーティーに入ってそれなりの年月は経っている。そういえば最近エマと仲がいい。そのエマがこの場で俺に話しかけたのが、気に入らないのかもしれない。


 「ハインツ、気持ちは分かるが、我慢してくれないと俺が困る」


 「なんで、ウィルが困るんだ、代わりのポーターはいくらてもいるぞ」


 ウィルは、困った顔のまま、ため息を吐いた。


 「ヤンみたいな巨大なアイテムボックスを持っているポーターは、この街にヤンしかいない。さらにヤンは普通のポーターと違って自分の身を守る事はできるし、食料や水の運搬など進んで雑用を引き受けてくれている。その分俺たちの負担が減っているのは事実だ」


 そう言って、ウィルはハインツの顔を見つめた。


 「そ、そりゃ、分かっているけど・・・」


 ウィルの正論を聞かされたハインツは、次第に渋い顔になっていった。


 ウィルは、さらに言い続けた。


 「ハインツがどうしてもヤンをメンバーから外したいのなら、ギルドに頼んでハインツを受け入れてくれるパーティーを探してもらう」


 ウィルの発言を聞いて俺は驚いた。普段のウィルはここまで言わない、もっと軽い言葉でハインツをなだめていたはずだ。

 俺はウィルの真意がどこにあるのか考えながら、二人を交互に見た。


 ハインツは、少しの間ウィルをにらんでいたが、視線をそらしてホッと息を吐いた。


 「ウィル、すまねえ、俺が間違っていた。せっかくの慰労会の雰囲気をぶち壊して申し訳ねえ」


 そう言って、ハインツはウィルに頭を下げた。


 ウィルは、ハインツを慰めるように、


 「ハインツ、不満があるのは分かる。俺も若いときそうだった。だが、他のパーティーに移っても、何かと不満は出てきた。分かったのは、幸福の青い鳥はどこにもいないという事だ。ハインツがランクアップのために他のパーティーに行きたいのなら、ここを円満にやめた事にした方がいいぞ」


 と言った。


 ウィルは、ハインツを脅しているわけでは無く、この町でかつて起きた事実を言っているだけだ。


 かつて、この町で腕利きの剣士の男が、パーティーの分配金に不満を言い続けたあげく、他のメンバーと仲違いしてパーティーから離脱したが、他のパーティーは、そいつの素行の悪さと意地汚さを見ていたので、どのパーティーも誘おうとしなかった。


 男は、仕方なくソロで活動したが思うように稼げなくなったので、男は遠い場所にある別の迷宮(ダンジョン)都市を目指して旅立ったが、旅の途中で魔物に襲われて亡くなったそうだ。


 この世界で旅をするなら、探知魔法が使える者と一緒か、乗合馬車や隊商について行く形で、集団で旅をするのが普通だ。


 少人数で移動するのはBランク以上のパーティーくらいだ。


 一人旅をするのは、それなりの腕を持った魔導師か探知魔法が使える者でなければ、人目を避ける必要がある者しかいない。


 ハインツは、怒ったような悔しいような複雑な表情でうつむいていた。


 それまで黙って男三人のやりとりを見ていた、アンナがおもむろに口を開いた。


 「なあ、ウィルよ、この辺で慰労会を終わりにしないか、ちょうどキリも良いようだし」


 アンナの提案を聞いたハインツは、うつむいた顔を上げアンナをにらんだが、アンナににらみ返されて、またうつむいた。

 ハインツの横に座っているエマは、しらけた顔になっている。


 座がしらけた原因はハインツだが、そもそもの原因は俺が弱い事にある。

 アンナの声を聞いた俺も、うつむいてしまった。


 俺までうつむいてしまった姿を見たせいなのだろう。ウィルが咳払いを一つしてから、みんなに言った。


 「そうだな、アンナの言葉もあったし、お開きにするか」


 「う、うん、そうだね」


 「それで、いい」


 「俺も賛成」


 ハインツ以外の全員が、ウィルの言葉に賛同した。

 宴会が終わる原因を作ったハインツは、黙ったままうなずいた。

 皆の返事を聞いたウィルは、


 「じゃあ、お開きにするか」


 と言い居住まいを正して、みんなの顔を見回してから言った。


 「次の集合は三週間後の正午に、ギルドに集合だ。そこでいつダンジョンに潜るか決めよう」


 アンナとエマはホッとした顔で、ハインツは不満な顔で、そして俺は暗い顔で、ウィルの提案に応じた。


 ハインツは、銀貨一枚をテーブルに置いてそそくさと席を立った。それを追うようにエマが席を立ち、二人が店を出た後アンナが席を立った。


 残ったのは俺とウィルだけだ。


 俺は沈んだ表情のまま、ウィルに尋ねた。


 「なあ、ウィル、俺は、冒険者をやめたほうがいいのかな」


 「ウチのパーティーは、ヤンがいるから低層階で稼げる。いなくなるとみんな困ってしまう、だから残ってくれ」


 ウィルはぶっきらぼうに言って、カップに残っていた酒をあおった。

  俺も、湯飲みに残った焼酎をあおった。


 「ありがとうウィル、嘘でもそう言ってくれると嬉しいよ」


 俺がそう言うと、ウィルがぼやき始めた。


 「ウチのかみさんがあまり危険な場所に行かないでくれって言うんだ。ヤンに残ってもらうのは、俺のワガママでもあるんだ」


 そう言って、難しい顔をしてウィルはまた酒をあおった。

 家族のために、怪我や遭難はできないのが、ウィルの置かれている現状だ。アンナやエマにしても、ドロップ品を大量に運んでくれる俺は比較的安全な場所で稼げるありがたい存在だ。

 

 俺は運び屋と言う事を除けば、ただの“ヒモ”だな。


 俺は、自嘲するような笑いが顔に浮かんできた。それを押し隠すようにウィルに聞いた。


 「ウィル、お前自身が次にダンジョンにもぐりたいのはいつ頃なんだ」


 「俺の本音は、今回の稼ぎでしばらく暮らせるから、半年は荒事をしたくない」


 ウィルは赤い顔を渋い笑いで包んで答えた。


 ウィルの考え方は、まるで、”西村左内”だな。

 そんな事が頭をよぎった。

 

 「じゃあ、ウィル、俺はもう宿に戻るよ、3週間後にギルドで会おう」


 俺は、そう言って立ち上がり、ウィルに別れを告げて店を出た。

 宿に戻る道すがら、俺はある事が気になった。


 ”ニシムラ サナイ”って誰なんだ?

 なんで、いきなり知らない人間が頭に浮かぶんだ?

 俺の頭には、時々記憶にないはずの事が浮き上がる。


 そんな小さな疑問を持ったまま、俺は宿の入口をくぐった。

 

 


 


 

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