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音のないプロポーズ  作者: 神屋青灯
20/60

音のないプロポーズ 20

 

 氷影は、雪と一緒に、別の何かをも背負う覚悟を決めたようだった。


 我ながら単純と思うが、あの結婚に感化されて、春直は斗南への想いを自覚し始めた。

 好きだけでなく、友達以上の好意を持っていた。氷影のようにタキシードを着る日が来るのなら、隣にいてほしいのは斗南だった。逆に、彼女のウエディング姿を客として見るのは耐えられない。

 斗南に指輪を渡して、揃いで着けて、毎日一緒にいる。そういう暮らしに憧れ始めた。



「ホッシーも、ユキのウエディング可愛いって何回も言ってくれたし。久しぶりにあの時の写真でも見ながらさ、思い出話とか花咲かせたら、結構効果あると思うけどな」

 氷影はパイプ椅子に座り直しながら笑った。

「夏までにって約束したろ」

 言われて、春直の目が無意識にカレンダーへ向いた。もう七月に入っている。夏までには。そういえば、言ったな…。こんなにすぐだったんだな…。

――そのこと、なんだけど。

 春直はためらったが、今だと思ってスマホを握った。

――やっぱり、やめようと思ってる。…告白するの。

 何を、と訊かれるのが嫌で、はっきり明記した。氷影が驚きの声をあげる。でも、先刻より重い。悪い勧告を出されたような、そういう響きだった。

「やめるって、延期とかじゃなくて…?」

 氷影は言葉を選んで返した。


 同時にしまった、と思っていた。

 春直の懸念が自分たちとの関係に及んでいることを察しながら、気に病んでいるのは負担の件だけだと安易に決めて話してしまった。違う。春直にとって最も心を締め付けているのは、斗南とのことだ。元気付けるつもりで斗南の話題を出したのに、大失態だ。

「どうしてやめるの? 入院してるから?」

 春直がきっぱり中止を示して来たので、氷影は更に問うた。そんなこと理由にならないよ、という意味を込める。春直は迷惑を掛けてないし、患者と見舞い人になっても関係は変わらない。春直は下じゃない。伝え遅れた意思を添えたつもりだ。

 だが、春直は迷わず回答を送ってきた。

――カゲなら言える? こんな状態で。

 ぎくり、と氷影の顔色が変わった。

 こんな状態。と言ったって、少し(・・)歩行と会話が不自由なだけだ。軽視するわけではないが、気に病んで引け目に思うこととも違う。少なくとも恋愛とは、恋心とは関係ない。

 第三者としてなら、はっきりそう言える。

 …けれど、自分のこととなるとどうだろうか。

 男として、しかもこれから結婚してほしいと思う時に、不自由を抱えた自分を押し付けることがどれだけ負担になるかは、想像に易い。迷惑を掛けることは確実で、しかも恐らく、相当な重荷になる。右足に目が行った。リハビリは、左だけで歩けるようになるための訓練だ。春直の右足は、もう動かない。

 氷影は口を噤まざるを得なかった。春直は意を決した時、当然聞かれるであろう氷影の問いに、予め答えを用意していたに違いなかった。


「……でも、さ…」

 氷影はしゅんとした目で、言い訳するように口を開いた。

 思慮が浅かったのは充分理解した。背中を押せばいいと簡単に考えたのは明らかに甘かった。氷影だって同じ立場なら、言わない選択をするだろうと思った。

 でも、じゃあその決断は、春直にとって幸せなのだろうか? 

「ホッシー、好きだよ、ハルのこと。…たぶんだけど」

 その遠慮は、斗南を守ることになるのだろうか?

 春直が気配を動揺させた。ほら、もう揺らいでるじゃないか。氷影はいじけたような目を向ける。諦めきれてなんかいないくせに。大好きなくせに。何でやめるなんて言うんだよ。どうしてか、悔しさに似た感情が氷影に湧き上がる。

「それにホッシーの」

 その勢いにつられて口走り、はっと気づいて言葉を止めた。春直が氷影の顔を覗き込む。

――それに? 何?

「いや…。やっぱ、何でもない…」

――カゲ?

 春直が眉をひそめる。



 (つづく)

 

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