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#41 白髪ロングな人

 三輪山には妹がいる。

 それは昨日見た事実であり、しかし他の人は恐らく知らないであろう情報だった。

 だから僕以外の誰かがこの状況を見れば、三輪山は双子だったんじゃないかと、あるいは姉がいるんじゃないかと勘違いするはずだ。

 それほどまでに三輪山と八百日先輩は似ていた。なんせ、三輪山が赤いカラーコンタクトをつけてきたから――。


「三輪山澪、顔がいいです。先日はうちの赤崎がどうも」

「黒崎だ」


 黒髪ロング、赤目、巨乳、あといろいろ。類似点が多くてびっくりだ。

 違う点は身長と目の鋭さくらいだろうか。三輪山の身長が高いんだよな。170cmは越えている。僕が170cmあるかないかだから、三輪山は175cmくらいあるかもしれない。先輩が小さいわけではない。三輪山が大きい。絶対そう。

 目の鋭さは――語る必要もないか。ツリ目だっけか、三輪山はそれ。ん、猫目? ともかくそういうやつだ。対して先輩はなんというか怯えた目をするから鋭さは皆無。今もキャラ被りな三輪山におどおどしている状態だった。


「失礼ね黒崎くん。私のほうが早くから登場しているのだからキャラ被りは先輩に言うべきよ」

「後出しで赤目属性をつけたしたのは誰だよ。被せにいっておいて新キャラのせいにするな」

「あ、あの……ご、ごごごめんなさい。私がこんな見た目で生まれてきてしまったから……」

「自己嫌悪しないでください、先輩! 僕の胃も痛くなってくるから……!」


 三輪山とはミスマッチだ。確実に。

 やっぱり会わせるべきじゃなかったんだろうけど、それでも三輪山は変な対抗心を燃やして直談判すると言うばかりだったし……。

 どうするんだこれ。


 記憶にも新しい今朝のこと、三輪山が「赤目の人に会わせて頂戴。どっちの赤目が最強かはっきりさせてやるわ」なんて言い出した。僕はどうにかして話をそらそうと、下手くそなお世辞でご機嫌を取りたかったのだが「不愉快よ。私の赤目、そんなに気に食わないかしら? そんなにその人の赤目のほうが素敵なのかしら?」とかすねちゃって……。ぷんすかしたままの三輪山は誰にも止められなかったと。


「さて黒崎くん、どっちが上かしら。私か先輩か。あなたはどっちの味方になるのかしら」


 どうするんだこれ――!

 どちらの味方をしてもいい未来が見えない。乗るも反るも地獄。

 であれば、もう両方を褒めちぎるしか――。


「どっちもとか言ってはぐらかしたら首を切り落とすわ」


 どうにもならないよこれ……。

 なんだ? 三輪山はどうしてこんな必死に八百日先輩に勝とうとしているんだ?

 何の勝負なんだ? 何の因縁なんだ……?


 僕は先輩の顔をちらりと見た。目を伏せる先輩の赤色をじっくり見ることはできないが、綺麗だと思った感情をまだ忘れたわけじゃない。そこに嘘も偽りもないし、それにやっぱり僕は言葉で人を傷つけたくなかった。


「ぼ、僕は赤目部門なら八百日先輩先輩のほうが好きだなあ、なんて……」

「ではさようなら、黒さ――」

「それに、三輪山はカラコンつけないほうが綺麗だしな! い、いつもの三輪山が一番だぜ!」


 だから僕は極限まで「どっちもいい」に近い言葉ではぐらかすことしかできなかった。

 どっちでもいいと明確に言っているわけではないが、それでも二人の肩を持っている。

 これで首を切られたらいよいよもって救われないんだけど――。


「小賢しい回答をしたものね。そんな言葉で喜ぶなんて思わないで」

「うっ……」


 ダメだったか……。

 最近クサいセリフばっかり言って麻痺でもしてるのか、最近の僕はかっこつけがちだ。三輪山の言う通り、僕なんかがやって喜ぶ人がいるなんて思わないほうがいい。女性への褒め言葉って言いにくいよなあ。自分なんかが褒めても気持ち悪いだけだよなあ……。だから三輪山もこうして喜ばないわけで――。


「ところでカラコン外そうかしら。校則違反だし」

「めちゃくちゃ喜んでるじゃねえか!」

「は? 目にゴミが入ったから仕方なく外すのよ。あと校則違反だし」

「なら最初からつけるな……!」

「黙りなさい。目に入ることすらできないタイプのゴミが」

「僕が入ったら失明どころじゃないよ……」


 ツッコミどころおかしかったかも。

 そもそも僕は目に入らない。ああ、そうでもなくて、そう、僕はそもそもゴミじゃない。

 ちゃんと人間です。誰がなんと言おうと。


「す、すいません……。私ちょっと、トイレに行きたくて……」


 おっと。なんたる不覚。

 僕は昨日訪問した時も八百日先輩の口から「トイレに行きたい」という発言を聞いていた。女子がトイレに行くということを公言するのは恥じらいがあるはずだ――もしなかったとしても僕は紳士たる者として言われずとも察せる人になるべきなんだ。だからこうして先輩の口から二度目のトイレ発言をさせてしまったことは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた――のに。


「奇遇ね、私も行きたかったの」


 と。

 お前のメンタルやばすぎるよ。もう尊敬しちゃう。

 口下手はどこ行ったの? 先輩とトイレで二人っきりとか大丈夫?

 自ら気まずい空気へ突っ込むんだぞ。そういう提案をしているんだぞ、君。


「そ、そそ、そうですか……。じゃあ、まあ……」

「いやいや先輩、無理しなくていいですって! 三輪山は別の階のトイレに行かせますんで――」

「い、いいの。三輪山さんて、黒崎さんの、お、お友達でしょ……? く、黒崎さん、そんな悪い人じゃないって昨日わかったから……」

「見る目がないわね。黒崎くんは猥談好きの男よ。趣味は盗撮写真観賞」

「それは三輪山の中にいる僕のような何かだ!」


 別の人格をつくりださないでくれ。

 盗撮写真観賞とか、まず盗撮さえしてねえよ。


「そ、それに……三輪山さんに、は、話があるっていうか……」

「奇遇ね。私もあるのよ」

「じゃ、じゃあ、行こう……?」


 先輩は弱々しくあるが、なんだかんだ先導していた。意外とリーダーシップのある人なのかもしれない。さすが、体育祭のチームリーダーをやっているだけある。


 さて、2年生の教室でひとりになった僕は――気まずすぎたので逃げた。廊下を少し歩いて2年生クラスと1年生クラスの棟をつなぐ渡り廊下の前で止まる。

 女子トイレ前。ここなら上級生のみなさんの注目を集めることはない。もとから注目なんてされてなかったかもしれないけど、それでも居心地が悪いものは悪いんだ。

 それよりか女子トイレの前で、用を済ませた女の子に睨まれたほうが――え、やば。

 僕、とんでもない大変態じゃん。冷静に考えてトイレの前で仁王立ちってとんでもないな。本当に盗撮犯と思われても文句言えないくらい不審だよ。


 でもあの教室に戻るのも地獄だし、三輪山と八百日先輩をこのまま二人っきりにさせるわけにもいかないし……。僕はどこに行けばいいんだ。

 と。

 考えた時に、ちょうどその人が出てきた。


 赤い目で、三輪山より背の低い、ロングな髪をした人。

 でも僕がその人を八百日先輩だと認識するのには少し時間がかかった。

 否。むしろ、時間がいくらあっても僕は気づかなかっただろう。

 つまり僕がその人を八百日先輩と認識したのは、その人が声を聞かせてくれたからだった。その声さえ、僕の知る声色や声量とはかなり違ったけど。


「よお、後輩――黒崎だったよな。こんなとこで何してんだ?」


 赤い目で、三輪山より背の低い、白髪ロングな髪をした人。白ではなく銀と言うべきか。銀髪。

 もちろん本物の銀よろしく光沢があるわけじゃない。それでもあまりにも髪が綺麗だから、銀と言っても差し支えないものだった。

 色素がない、だったか。三輪山の解説は参考になった。

 八百日先輩(?)は、どうやら本当にアルビノのようだった。


「てめえ、もしかして本当に盗撮してんの?」


 何も状況が飲み込めないけど、とりあえず僕は誤解の否定から入ることにした。

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