#39 三輪山椿
身内の不幸でちょっと更新できていませんでした! すまん!!!!
落ち着いたからまた更新再開するよ~~~!
三輪山椿。
中学1年生の女の子。三輪山澪の妹。
姉よりもコミュニケーション能力がある妹。
「黒崎さん、ぶっちゃけお姉ちゃんのことどう思ってんのー? 狙ってんじゃない? ねえ、実はもうそういう仲だったりしない?」
「しないが!? 椿ちゃん、あんまり僕と三輪山をそういう関係に結びつけると僕の命が危ないからやめてくれ」
「それ好きってこと? 好きすぎて心臓止まっちゃうってやつ」
「椿……。それはネットスラングというかオタクの集団語みたいなもので、無知で愚鈍な黒崎くんには一切伝わらないわよ」
「お姉ちゃんいっつも叫んでるもんね。『よすぎて心臓止まったぁぁ!』とか『あ、むり、しんどい』とか――」
「椿、ちょっと黙ってみない?」
姉は妹の前ではにっこり笑うようだった。微笑む三輪山なんてとんでもなくレアなんだけれど――よく見てみたら目が笑ってなかった。
真顔より怖いわ。普段笑わないせいでより怖い。
「でも本当、お姉ちゃんが男の人と友達になるなんてびっくり。今まで真珠さんしか見たことなかったのに」
「あまり私を舐めないで。私には100人の友達がいるのよ。富士山の上でおにぎりを食べたこともあるわ、100人でね」
「三輪山、それ101人じゃないといけないやつだぞ。誰か1人蚊帳の外にされてるよ」
「ああ、黒崎くんは呼ばなかったのよ」
「呼べよ! なんで僕を蚊帳の外にするんだ!」
そもそもいないだろ100人とか!
しかも100人で富士山登頂って相当に過酷なチャレンジなんじゃないか……?
まあ、僕たちはまだ大学1年生という『1年生になったら』を実現するチャンスが残されているわけだし、もしかしたら三輪山がその夢を実現する未来もあるのかもしれないけど。
けど今は確かに、男性の友達なんて僕しかいないんだろうなあと思ってしまう。
つまり僕が学年一の美少女に一番距離が近い男っていう……。
いかんいかん。やっぱり非モテ男子代表みたいなこの僕が迂闊に美少女の自宅へお邪魔するべきじゃないな。
僕たちはただの友達なのであって、それ以上でも以下でもないっていうか……。
なんかこう言うと冷たいような印象になっちゃうかもしれないけど、それこそ友達が100人いたら100人いる有象無象の中の1人にしかならないわけで。要するに三輪山が今後友達を増やしたら、僕なんて簡単に捨てられちゃうんだろうなあなんて……。
「じゃあ黒崎さんは椿と一緒に富士山に行くってことで!」
妹は姉に似なかった。
初対面の僕の腕にその胸をぎゅむと押しつけるくらいには。
安心してください、椿ちゃんは三輪山ほど大きな胸じゃないからとんでもない放送事故にはなっていません。
小さい膨らみは確かにあるんだけれど。
「椿ちゃん。僕は誰が一緒だとしても、そもそも富士山に登りたくない」
「え、日和っちゃってるんですかぁ? 黒崎さんよわー」
「なんだその見え透いた煽りは。なんていうか、無表情な姉に対して妹は発言の意図がわかりやすいな……」
「あ、そうだ、ぶっちゃけ椿ちゃんも富士山はダルいと思ってたし、別の山にしましょうよ。登りたいとことかあります?」
山の名前なんて富士山ぐらいしか知らないし、僕は山登り自体を面倒に思っているのだが……。だからここで答えるなら「登りたくない」なんだけれど。とはいえ、椿ちゃんも本気じゃないだろうし適当にあしらうのもかわいそうか。
「日和った僕でも登れる場所がいいかな」
うむ、これはお兄さん度が高い受け答えだ。
思えば三輪山との会話は会話のキャッチボールどころかドッヂボールさえも超え、ラグビーみたいなものだった。まずは真面目に話してるのかボケてるのかを見極めなきゃいけないから三輪山との会話は難しい。
今日くらいはこうして天真爛漫な少女とほっこりな会話をするのも悪くないな――。
「じゃあ日和山にしますか。日和ったお兄さんにぴったりの山でしょ?」
妹もボケやがった――!
でも姉に比べてかわいいもんだ。やはり発言の意図が見え見えである。
「椿ちゃん、悪いけど僕はその嘘に引っかからないぜ。さしずめ『都合よくそんな名前の山が!?』とでも言わせたかったんだろうけれど――」
「本当にあります。仙台に」
「都合よくそんな名前の山が!?」
「ちなみに標高3メートルですよ。日本一低い山だとか」
「登りやすさも都合いいのかよ!」
3メートルってもう山登りじゃなくて階段じゃないか……?
そこならさすがの僕でも登れるけど、わざわざおにぎりを食べたくなる場所じゃないよな……。
近所の公園とかでいいよな、もう。
「そういうわけで黒崎さん、椿と日和山に――」
「椿。ゴー、ホーム」
「おやおやぁ、おやおやおやおやぁ……? お姉ちゃん、さては嫉妬してるなー?」
「愛しの妹を救っているのよ。危うく誘拐されるところだったんだから。不審者と出かけちゃいけないって小学校で習ったでしょう」
「僕を不審者扱いするな――!」
しかも僕から誘ったわけじゃないし。
なんて理不尽な。
「もうお姉ちゃん、素直に『私の友達を取らないでよー! バカバカバカバカ!』って言えばいいのに」
「三輪山、家だとそんな口調なのか……」
「ここで私に屠られるか、それとも自分で罪を償うか、どちらかを選びなさい」
「うわぁぁぁ! 命だけは助けてくれ!」
言いながらさわさわと僕の首筋に手をかけてきたのだから怖くてしょうがない。
妹の前で友達の首を絞めようとしないでくれ。教育に悪い。
「別に大丈夫よ。椿だって私の特性は知っているわけだし、突然あなたの首を絞めたところで特に何も思わないわ」
「いや思うだろ! 殺人現場だぞ!?」
「お姉ちゃん、今日も緊張してるなあって感じ」
そんな軽いの!?
客人の命を救ってくれよ。
「でも不思議なのはさ、お姉ちゃんが緊張してもなおなぜか黒崎さんをうちに入れようと思ったことだよね。よく誘えたなあって」
「ふん。『恋スト』繁栄のためよ。仕方なくよ」
「いや、そうじゃなくて。だって、お姉ちゃんが緊張するのに人を誘うなんて今までできてなかったんだし――おっと、そういうこと」
ははーん、と。
妹は口元に手をつけてニマニマ笑い始めた。
「人見知りとは別ってことねー。やあやあ、青春ですなー」
「ちょっと椿、こっち来なさい」
「うぎゃー! やめて、怒らないで!」
妹の後ろ首を掴んで引きずる姉。
そのまま姉妹は広い家のどこかへ消えてしまった。
外にはただ黒洞洞たる夜があるばかり、なんて。そう言えるほどに日は暮れていた。
≪Side M≫
「人見知りとは別って、何が言いたかったわけ?」
腕を組んで、なるべく高圧的に妹へ話しかけた。
何を隠そうこの妹、とっても生意気で私のことを下に見ている節があるのだ。
ちょっとキツく言っておかないと……。黒崎くんに変な情報を流したらただじゃおかないんだから。
「だから、お姉ちゃんは人見知りで緊張するわけじゃん。でも黒崎さんは緊張しながらもうちに呼んだわけじゃん」
「それが……? お姉ちゃんだって成長するんです。あまり変な勘違いはしないこと」
「それって、お姉ちゃんは人見知りの緊張は克服してるってことじゃない? 黒崎さんに対して、普通の人見知りとは違う別の緊張を感じてるっていう――」
「うるさいうるさいうるさい! そそそそんなわけないでしょうが! はぁ!? 私が黒崎くんを好きとか、そんなわけ……」
「自分で言ってやんの」
うっ……。
口下手の領域を超えてるわ……。
頭より早く口が出ちゃうんだからよくないのよ。もっと考えてから言わないと。
「いい? これは椿が口出ししていい問題じゃないの。もっと複雑なのよ」
「黒崎さんに好きな人がいるみたいな? 三角関係みたいな?」
「そういうわけじゃないけど……。とりあえず黙ってて! 私の気持ちはが言わないといけないの!」
「いいですねー、青春ですねー」
冷やかすような笑みを浮かべる椿。
訂正。ようなじゃなくて、もう確実に冷やかしにきている。
あんたのほうが若いくせに青春とか語ってんじゃないわよ。
「じゃあ今日、黒崎さん泊まるの?」
「はぁ!?」
「だってもう外暗いし」
何を言い出すんだこの子は。
外は暗いけど、だからって泊めるって。
黒崎くんと同じ屋根の下にいるって――。
「そ、そんなの無理に決まってるでしょうが! ああああんまりお姉ちゃんをからかうとお尻叩いちゃうからね!」
「やーい体罰体罰! 家庭内暴力!」
「はい、まだ叩いてませんー! 家庭内暴力成立しませんー!」
「黒崎さんに言っちゃおっかなー。お姉ちゃんが黒崎さんにぞっこんすぎて鼻血出したって言っちゃおうかなー!」
「出したことないわよ!」
でも実は黒崎くんのことを考えながら料理してたら指を切ったことはある。鼻からじゃなくて指からは血を出したことがある。ボーっとして包丁を握るのはやめましょう。
死んでも椿には言わないけど。
「とにかくそういうことだから冷やかしは無用なの。なにがなんでも私が好きって言うんだから」
「8億年はかかりそうだね」
どこから出てきたのよ、その数字。
残念ながら完全には否定できないんだけどさ。
「だから部外者は指をくわえて見てなさいな」
「椿ちゃんのほうが早く彼氏つくっちゃうもんねーだ」
「やってみなさいよ」
「え……。恋ってしたくてするもんじゃないでしょ。ビビッとくるまで待つよ。急いだらいい男なんて捕まえられないもん」
あんた何歳よ……。なんでそんな達観した恋愛観があるのよ。
というか、そんなじっくり考えたり運命みたいなのを待ってるなら私より早く彼氏つくるとか宣言するなし。
「もういいわ。静かに、ただそれだけ」
「はーい。いつでも相談してね」
「あんまり恋愛で妹に頼りたくないんだけど……」
そんなことしたら姉としてのプライドがズタボロよ。
見てなさい。ここから私の大躍進が始まるんだから――!




