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#31 みんなで一緒に

「呼ばれて来たけどすごいことになってるね……」


 幼馴染が降臨した。

 コミュニケーション力の化身。僕を導いた光。性格が良すぎる聖人。

 小東洋平のお通りである。


「三輪山、本当にいいんだよな? 全部言っちゃっていいんだよな?」

「このまま惨めな思いをさせるわけにもいかないもの。感謝するがいいわ、黒ザキくん」

「即死魔法を唱えるな。僕は確率で死ぬほど雑魚キャラじゃない」

「クロサぎりくん」

「メタルぎりみたいに言うな……! 僕はそんな簡単に逃げない!」


 いつもの冗談を入れたところで。

 僕は洋平に三輪山との関係を言うことになった。

 洋平に勉強を教わる前に、僕が三輪山との関係を教えないといけなかった。


 三輪山の暴言体質やコミュニケーション能力のこと、秘密厳守であること、僕はずっと会話の練習をしていたこと、なんだかんだ三輪山のおばあさんとも話したことなどなど――。

 僕の言える限りのことは全部言ってしまった。


「真人やるぅ! すっげー成長じゃん!」


 喜ばれてしまった。


「だってすごいよ――つい365日前までこの部屋でふさぎ込んでたのに。うう、お父さん嬉しくて涙が……」

「誰がお前の息子じゃ。それに、この件に関しては僕というより三輪山が頑張ってると思うけどな。僕はずっと変わってないよ」

「だって澪ちゃんだろ、真珠ちゃんだろ、えっと……風紀委員の子」

「纏だ! なんであたしだけ名前知らねーんだよ。覚えろ、はい風紀委員命令」

「ごめんごめん。はじめまして纏ちゃん、小東洋平です」


 はじめましてなのに風紀委員の子と断言できただけ僕はすごいと思う。

 僕なんてクラスの誰がどの役職を持ってるのかさえ知らないもん。


「真人が3人も友達つくってるんだぞ、自力で! しかも女の子!」

「やめてくれ。過剰に喜ばれると煽りみたいで腹立つ」

「めでたいなあ、今日は赤飯かなあ」


 そんなんでわざわざ炊くな。

 しかも友達ができたのは今日じゃねえし。


「洋ちんにしつもーん」


 洋平を洋ちんと呼んだのは沖島。

 全員に愛称をつけているのかな。なんだか憧れるな、そういうの。

 ん? 全員に愛称……?

 ひとりだけ沖島から愛称で呼ばれない人間がいるような……?


「はい、真珠ちゃん。どうぞ」

「洋ちんって勉強できるん? できるから呼ばれたんだろうけど、みおっちはガチ天才だからね」

「うーん、澪ちゃんほど要領よくはないだろうね……。でも俺は真人に教えるのなら誰にも負けないと思う」

「頼もしー。男の友情アツいねー」


 ここで突然だけれど勝手に学力ランキング。

 1位は言わずもがな三輪山。

 2位は恐らく洋平。勉強してない雰囲気を出しているが忘れることなかれ、僕を進学校である私立泊谷高校まで引っ張っていった専属家庭教師だ。

 3位、沖島。ギャルギャルしてるし遊びまくってるのかと思いきや平均的な学力はあるというギャップ。すいません、正直見た目で舐めてました。本当にごめんなさい……。

 4位は僕と桧原。うん、絶対そう。桧原を最下位に置くなんてかわいそうだからな。まあ僕と桧原の差なんて誤差みたいなものだし、お互いに四捨五入して同率ってことにしておいたよ。よかったな桧原。

 僕が最下位なんてそんなわけないじゃん。はは……。


「それで? 俺は真人に勉強を教えるだけでいいの?」

「ああ、そういうこと。僕だけ馴染めずにもはや勉強会じゃなくて女子会と化していたから。この場を勉強会にするべく洋平の力が必要なんだ」

「あれ? 友達だったんじゃなかったっけ……。馴染めないって……」

「そんな一括りに友達なんて言われてもな。距離感はいろいろあるだろ」

「な、なんか1年前と発言が逆になってる……」


 そんなこんなで勉強再開。

 自室に4人の友達と僕、計5人がいるという異常空間。こう見ると狭く感じるけど、そんな部屋の狭さが純粋に楽しかった。

 一人でいる時よりも断然集中できる。

 いいや、集中はしていないかもしれない。それでも継続はできている。

 話しながら、騒ぎながらの勉強だけど、だからこそ何十時間でも続けていられそうだった。


「あ! 黒崎ぃ、消しゴム落としたから取ってぇ」

「なんだその媚びた声は。文章だから一切伝わらないぞ」

「マキ様、私が拾います。あっ、でも私なんかが触れていいのかしら……!」

「みおっち――はIQ下がってるから、洋ちんセンセー! ここわかんなーい!」

「んーっと……。ちょい俺も計算するから時間ちょうだい」


 わいわい、がやがや。

 そんなオノマトペを実感する日がくるなんて思わなかった。

 騒がしい場所なんて外に出ればいくらでもあるかもしれない。けれど、そこに入って一体になるのは僕にとっては滅多にできない経験だ。


 その滅多にできない経験を、僕はあと何回繰り返せるのだろうか。

 このままずっと、こんな関係が続けばいいなあ。

 ふとそう思ってしまうのは、やはり僕が言葉という凶器をうまく扱う自信がないからかもしれない。

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