#20 学生にはつきもの
何も思いつかない!
人と人ってどうやって仲良くなるんだ?
僕たちはどうして知り合い、コミュニケーションを取っていくんだ?
はじめましての言葉から親密になっていくのってどうするんだ?
三輪山と桧原の共通点は? どうしたら話せる?
僕の頭の中は昨夜からこんな調子だった。
ただでさえ僕も人と話すことを苦手としているのに、自分の作戦を実行するのが三輪山だと思うとさらにプレッシャーがかかる。だって失敗しても責任が取れないから。
僕が桧原と話すのならばいい。もし桧原に嫌われても僕なら傷は浅い。でも三輪山は桧原が好きなんだし、嫌われるなんてことがあったらひどく傷つくはずだ。
逆に桧原も三輪山から過度な暴言は受けたくないはず――というか、誰でも嫌な言葉は嫌なもんだ。
すると一番穏便なのは、やはり『話さない』という。
口は災いのもとを体現したような結論になってしまうわけで。
「でもそういうわけにもいかないしなあ……」
僕ならばいいが。
僕じゃないから。
寝ても覚めても、授業中に考えても僕に妙案は思い浮かばなかった。
気づけばいつもの時間になっている。
「真人、今日は何かあるか?」
「いいや、今日は誰からも連絡ないから……」
「じゃあ帰ろうぜ、一緒に」
洋平と帰るのは久しぶりな気がした。最近は一人か三輪山とが多かったから。
三輪山と帰る時、だいたい二人とも無言になって気まずいんだよな……。その点、洋平とは自然に会話が続くから気楽でいい。
僕は席から立ちあがって、意味もなく伸びをしてみた。
「行くか」
僕以外に友達もいるだろうに、洋平はずっと僕のことを気にかけてくる。
そろそろ僕から離れて――いや、僕が洋平から離れて自立しない限り、洋平は僕と一緒にいることを選ぶんだろう。
「洋平さ、人と話してる時に気をつけてることってある?」
僕は何気なく聞いてみた。
本当にそんなことが気になるのかと言われたらそうじゃなかったかもしれない。だって洋平のコミュニケーション術を僕が真似たところで、考え方も性格も違うのだから合わないに決まっている。
だから僕はちょっとした移動の時間つぶし――その場のつなぎ程度に聞いてみただけだった。
「真人が楽しめてるならいいと思うぞ。今のままのやり方で」
とまぁ。
別にそんなつもりもなかったのに洋平はこちらにさりげないアドバイスをするのだった。
「僕、そんなつもりで言ったんじゃないんだけどな」
「そうか? でも正直なところ、俺が会話で気をつけてることなんて何もないかもしれないんだよね。だから真人がやりたいようにすればいいんじゃないかって」
「コミュ強め」
「それはそうと……そろそろ席替えだって噂されてるぞ。俺と離れ離れになっても大丈夫か?」
心配そうな顔もせず、煽るように洋平は言った。
「いつまでも洋平に頼りっぱなしってわけにもいかないしな。もう僕は僕の力で頑張らないと……。ちなみに席替えっていつするんだ?」
「テスト後らしいぜ。2週間後かな」
「テス……!?」
「前期の中間テスト。高校になってはじめての試験だから緊張するよなあ」
失念どころの騒ぎじゃない。
初耳だ。こんなに早くテストなんてするものだったか。
まだ高校生になって1ヶ月くらいしか経っていないのに。学園生活を楽しませる気ゼロか。
「前から言われてたぜ? 真人、もしかして授業中寝てた?」
「半分寝てるようなものかもしれない。ここ最近ずっと何か考えてたから」
主に三輪山関連。
あれ、そう思うとなんだか最近は僕の人生の大半を三輪山に費やしているような……。
高校でできた友達がそんなに嬉しかったのかい黒崎真人くん。
「ちょっと待って、まずいかも。洋平、僕の学力は知ってるよな……?」
「いや、中学のあれは真人が引きこもってたからであって、真人自身の素質がないわけじゃないと思うけど」
「授業受けてたとしても全っ然勉強してないぞ」
「俺だってまだしてないよ」
急に1分1秒を過ごすのが憂鬱になってきた。こうしてるうちにテストは近づいてきてるんだろ?
もう義務教育じゃないんだ。失敗すれば容赦なく蹴られる世界なんだ。自己責任なんだ。
「重く考えんなって。人と話す時もそうだけど、もうちょっと肩の力抜きな」
「そう言われても……。考えるものは考えちゃうんだもん……」
廊下、階段、下駄箱、校門と移動して気づいたが、今日の空模様は曇りだった。
なんでこういう気分の時に限って微妙な空になるのか。前まで連日晴れだったじゃないか。
自然現象とは思えないタイミングしてやがる。僕のこと嫌いなのか?
僕は冗談抜きで天気さえ憎むほど頭を抱えていた。
三輪山が話せるような練習法を考えつつ、桧原を抑える言い訳を考え、それでいてテスト勉強をしなくてはならないという……。なんとも恐ろしいマルチタスクだ。
ただでさえコミュニケーションも勉強も得意じゃないのに。
もう布団に入って、何も考えず永遠に眠りたい。




