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#16 風紀委員尋問

 もしも三輪山澪をどんな人間かと説明しなければならない時が来るとしても、僕は彼女を一言で言い表せる言葉を知らなかった。

 それは鋭利な言葉を言い放ち、それでも実は人と話すことに極度の緊張を感じているだけでそこには悪意がないという、二面性と言ってもいいほど乖離した表裏が彼女にあるからかもしれないが、たとえその表裏がなかったとしても――つまり彼女が普通に僕と話せていたほんの数日間の中だったとしても、いよいよ僕は彼女を完璧に指す言葉を見つけられる自信がなかったのである。

 たとえ時を戻したとしてもその数日で見つけられるかどうか断言できなかった。いや、それどころか。

 むしろ僕は、見つけられないだろうと断言できるほどに、数日間で三輪山の全てを掴めるほど洞察力のある人間じゃなかったのである。


 顔を見て話すことはできたが、逆に彼女の顔がない場所、彼女のいない場所で彼女を語ることはまだできなかった。


「いつまで黙ってんだ。風紀委員命令だぞ、早く知ってること全部吐け」

「昨日の暴言美少女は1年2組の三輪山澪って人です……」

「それはさっき聞いたつってんだろうがよ! なんだオメー、ケンカか? やるか、こんにゃろー!」


 だからこうして、小さな風紀委員に三輪山のことを聞かれても何も答えられないのである。


 それは昨日の放課後に起きた。

 三輪山のおばあさまに無事、不肖僕という友人を紹介し、特別なお見舞いを成功させた三輪山だったが、その成功を祝す会を空き教室でやっていたところに小さな風紀委員が登場。目的は掃除当番を忘れていたギャル――沖島真珠を呼び戻すことだったが、小さな風紀委員は忠実(まめ)なことに、僕らに対して挨拶をしたのだった。

 正しくは僕と目が合った後だから僕のみだったかもしれない。真相は定かではないというかどうでもいいのでスルーするが――。

 問題はその後だ。

 三輪山が突然「あなた、二度と私に話しかけないで頂戴」と、鋭い言葉で攻撃したのだった。

 とても口撃的な、攻撃だった。


 いや、あれっ? 逆か?

 攻撃的な口撃?


「そんなのどっちでもいいの! 謝れよあの女ぁ!」

「お、落ち着けって……。あ、ごめん、名前聞いてなかったね。お嬢ちゃん、お名前は――?」

「子供扱いすんな。あたし、桧原(ひばら)(まき)。お前は?」

「黒崎真人だ。よぅし、桧原ちゃん。お兄さんがおうちまで送ってあげよう」

「はぁ!? オメー、マジふざけんなよ! あたしのこと舐めすぎな!」


 わかりやすく地団駄を踏む桧原。まさしく幼児のそれ。

 三輪山が僕に暴言を言って、僕がそれにツッコミを入れることが多かったから、僕がボケ側に回るのは新鮮だった。こうしてやってみると加虐欲がそそられるなあ……。


「うわキモ! その目、やめろよ!」

「僕の目をキモイとはなんだ。僕の目は億千万の瞳だぞ。胸騒ぎしてくるだろう」

「するわ、するする。すっごい吐き気」

「胸焼けしちゃった!?」


 ともあれ僕が本当にキモイ目をしているとしたら直さねばならなかった。

 だってこんな小さい女の子相手にそんな目をしていたら通報ものだ。監獄行きだ。


「だーかーらー! あたし、大人のレディー! オメー、今いくつよ!」

「15ですけど」


 僕は7月が誕生日だった。だからそれまでは15歳。


「あたしはもうとっくに16だから! 一番(いっちゃん)歳上だから!」

「え、2年生……?」

「誕生日が4月なの! 敬えよな、もっと――」

「ふっ……」

「鼻で笑うな! あぁぁぁ、イライラするぅー!」


 笑わずにはいられなかった。

 これは言い訳になってしまうけれど、僕は嘲りのために桧原を笑ったわけじゃない。ただちょっと微笑ましいと思ったからこその笑いだった。

 誕生日が早いだけで年齢マウントとか、なんてかわいらしいことか。


「もういいよお前。しっし、どっか行け。2組に行けばあの女はいるんだろ。もうそっち行くよ」

「お嬢ちゃん、迷わずに行けるかなー?」


 げしっ――。

 蹴られた。ザ・女の子なキックだったからそんなに痛くないが、まさかの暴力でびっくりだ。

 風紀委員がそんなことしていいのかと問いただしてやりたかったが、(ただ)す人を(ただ)そうと思ったが、それはやめておいた。

 明らかにこのキックは僕のせいだもん。さすがに煽りすぎだ。


「でも真面目な話、三輪山には会わないほうがいいぞ。迂闊に近づくと刺されるからな」

「え、こわ……。オメー友達じゃないのかよ。どうにかしろよ、あの暴君」

「どうにかって……。うーん」


 僕は確かに三輪山の友達かもしれないが、さりとて僕も暴言をしばしば言われる立場にあった。

 むしろ暴言を言われたら好かれてるとさえ思ったほうがいい。

 しかしまあ、そんな二面性は秘密なのだった。三輪山の信頼できる相手以外は三輪山のことをクールビューティーと思ってもらうしかない。

 それゆえに、僕ができることは何もない。


「もしかして、あたし以外の人にも全部あれなの?」

「まあ……そうだな」

「うへえ、怖すぎ」


 それについては同感だ。

 僕だって三輪山の発言には日々怯えつつ、それでもなんとか話してるんだから。


「これは風紀委員として見逃してられないわ。そいつの暴言癖、あたしが治してやるもん」

「えっ……おいちょっと!」


 ピューッと。

 子供は風の子とはよく言ったもので、まさしく風のような速さで桧原は2組の教室へ向かっていった。


「子供じゃねーし! 子供は風の子も足が速いって意味じゃないから!」


 ご丁寧にそんなツッコミも加えながら走る走る――。

 おいこら、風紀委員が廊下を走っちゃダメだろ。

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