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第九話 お約束☆

どうも、へたれ虫。です。             今回の話は書くのが辛かった…(涙)何故なら、10話の内容を既に考えていたからです。        この話は、2000字だったものを無理矢理増やして9話にしたので、ちょっと質が落ちてるかもです…

 メリッサの楽しい(苦しい)修行が始まってはや4日。ウサギの餌並の夕食は、犬の餌程に増えてはいたが…



「わっわっ…………むぐぐ…………きゃっ」


ガタン!と馬車が一頻り大きく揺れ、ギリギリのバランスを保っていた籠がメリッサの頭から落ちる。


「あぁ〜〜〜〜!!!」


「はい13回目。今日の夕飯も少なくなりそうだね。まぁ、楽出来るから俺は一向に構わないけど」


 教科書を読みながらイクスが言う。


「むううぅ〜〜!!何で上手くいかないのよ!!てゆーか、アタシの修行見ずに教科書読んでるってどういうことよ!助言の一つくらいしてくれてもいいじゃない!!」


 イクスは足をバタバタさせて怒鳴るメリッサをチラリと見て、教科書に目を戻す。


「じゃあコツを1つだけ。マナを張り巡らせる時に、木の根をイメージするといいかな」



 それだけ言って再び教科書に没頭するイクスを見たメリッサは、盛大に溜め息をついた。







◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎



「ねぇイクス」


 頭に籠を乗せてバランスをとりながら、メリッサはイクスの方を向く。


「何?」


 イクスは教科書から顏を上げずに答える。



「イクスの得意属性って、何?」



 イクスは少し考える仕草をしてから答えた。



「『無』属性だね」


 分類としては『マナブースト』、『ディメンション・マジック』は共に『無』属性にカテゴリされる。


「見せて」



「…分かった」


イクスは特に何も考えずに答えた。



『ディメンション…』


 口の中で呟き、メリッサに魔法陣が見られないように手の甲でなく掌に魔法陣を展開したイクスが腕を軽く振るうと、鉤状の短剣が握られていた。



「やっぱり。マナの練度がかなり高いわね。これなら色々な属性魔法を連射、なんて事も出来そうね」



「いや、無理だよ」


 億劫そうな声でイクスが答える。



「え?何で!?」


 すっとんきょうな声を上げるメリッサ。


「俺は『無属性特化型』魔法剣士だからね」


 イクスはさらっと白状した。魔法がほぼ使えないから教科書を読んで知識を埋め合わそうと思ってはいたが、彼女はこれを既に5回読んだらしいし、いずれバレてしまうなら早めに、と考えを改めたのである。


「『無属性特化型』…?」


「そ。『無』属性だけを…ディ…『圧縮魔法』のみを極めた魔法剣士なんだよ。だから他の属性魔法はからっきし」



 その言葉を聞いたメリッサの顏が引き攣る。


「へ、へえぇ…。つまりアンタは、アタシをだ、…騙してたって訳ね?」


 メリッサの声が震える。余程怒っているのか、身体も小刻みに震えていた。


「いや、騙すなんて、そんなこと無いよ」


「だってアンタ…まほ…魔法…」


「うん、どの属性魔法が使えるかとか、そういった話はしてなかったよね」


「だって、『圧縮…」


 呆然としたままメリッサが言葉を紡ぐ。



「うん、『圧縮魔法』が使えるからといって、他の魔法も…とは限らないよねぇ。俺は他の属性も使えるなんて一言も言ってないし」


 先程まで怒りに震えていたメリッサだが、今度は頭を抱えて唸り出した。

 その拍子に頭から籠が落ちるが、それにすら気付かない。


(ちち、ちょっと待って?思い出すのよメリッサ!…………………………………………………あれ?………………確かに、言って…無いわね。てことは…………………………アタシの思い込み!?)



 あ、14回目。などと思いながら、イクスは更に追い討ちをかける。


「それに俺は『教えられる限りでなら』って言った筈だよ?魔法そのものを教えるって言った訳じゃないんだけど…」



 床にへたり込んだメリッサが、泣きそうな顏でイクスを見上げる。

 これにはイクスもたじろいだ。



「あ、でも基礎は教えられるから、そこは心配しなくても…」


「…さい」


「へ?」


 メリッサの身体から、殺気が立ち登り始めた。なんだろう、物凄く嫌な予感が…。




「……うるさいうるさいうるさいうるさあぁあァァァァい!!!!」




 メリッサがキレた。







◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎



「んもぉ〜〜〜〜〜!!!!『圧縮魔法』と『マナブースト』しか使えないなら、最初からそういいなさいよね!!」


 頬を膨らませて怒るメリッサに、苦笑するジルギス、そして、神パンチ(ジルギス命名)を食らい、腹を抱えたままピクリとも動かないイクス。

 一行は手頃な森で野営の準備を終え、只今緊急会議中である。


「おれっちはイクスから聞いたんで知ってたんだがよ」


「じゃあ何で言わないの!?」


「いやよぉ、メリッサが聞いて来なかったしよ、イクスの尊厳に関わるんじゃねぇかと思ってよ…」


「じゃあなんでイクスが目覚める前に言わなかったのよ!!」


 困ったジルギスはチラリと倒れているイクスを見ると、イクスがこっちを見て弱々しく首を横に振った。

 そのジェスチャーの意図するものをジルギスは直ぐに察知した。『逆らわない方がいい』である。



「す、すまねぇ」


 頭を垂れるジルギスをみて、やっとメリッサの機嫌が戻り始めた。


「全く…。それにしても、イクスがこうも『使えない』魔術士…もとい、魔法剣士だったなんてね」


 メリッサの皮肉が耳に痛い。


「でもよぉ、元々魔法剣士ってのは魔法が満足に使えねぇ落ちこぼれが始まりらしいじゃねぇかよ。だからまぁ、許してやっても…いいんじゃねぇか?」


 ジルギス。それ、フォローになって無いから。

 イクスはお腹を押さえたまま怨み言を視線に込めてジルギスを睨むと、苦笑で返された。


「あぐ……まぁ、基礎なら教え…」



「うるさい」


 メリッサのきっついお言葉を頂いて、イクスは再び黙る。


 しゅんとして地面をいじり始めるイクスを見て、メリッサは流石に可哀想になってきた。


「はぁ……まぁいいわ。基礎は大事だもの。一応、お、教わってあげる」

 イクスは顏を上げてメリッサに問う。


「う…っ…魔法は…どうするの?」



「自力で何とかするしかないじゃない。見習いのアタシが『圧縮魔法』なんて教えられても間違いなく使えないし。教科書使って覚えるわ」


 教えてって言われたらどうしよう!?と今更考えながら、イクスは返答する。


「ひゃい…。すいませ…ん?」


 あれ?俺別に悪い事した訳じゃないよね?何かおかしくないか?と思いはするものの、それを言うと話がこじれそうなので言わない事にした。



「んじゃ、行くわよイクス」


「ドコに?」


「近くに湖があったの。アンタが気絶してる間に、ジルギスが見つけたのよ。

 3日前から水に浸けた布で身体を拭くしか出来なかったし、水源があるならなるべく綺麗にしときたいの」


 メリッサの目が語っている。『来なかったら…どうなるか分かってるわね?』


「…ハイ」


 今のイクスに拒否権など、無いに等しかった。







◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎




 メリッサが湖で水浴びをしている間、イクスは近くの木に背を預けて瞑想していた。



(俺は…。昔からこんなに腑抜けだったっけ?…………昔はもっと………………………………あぁ、そうか。シン王国から逃げてからは、常に一人だったからな……………。また俺は、『仮面(ペルソナ)』を被ってるのか?…いや、これが本来の俺なのか?……)



 イクスは己の頬を擦りながら思う。


(これが『素』か『仮面』かは知らないが…。どうして今更、仲間意識を感じている?何故信頼を得ようとしている?)


 今の様に目的地が同じ旅人と共に旅をする機会は過去に何度かあった。

 だが復讐の為に動いていたイクスにとって仲間など必要無かったし、信頼を置く意味も見出せなかった。



 事実、彼と共に旅をしていた旅人が他の旅人の荷物を奪う光景など幾度となく見てきていたし、旅人に変装した盗賊だっていた。かくいうイクス本人も2度程、荷物を盗まれている。

 だが旅人達はそういった人間に基本的に無関心で、従って助ける、などとは考えない。弱肉強食、それが旅人の暗黙のルールだ。


 イクスもそう信じて来たし、そういう振る舞いをしてきた。


 ましてやバラム王国の目と鼻の先にまで来ている状況で、仲間意識など感じる意味が無い。



 ジルギスはセルクエィドからバラムに向かう商人だ。様々な情報を持つ商人と仲良くするのは別段悪い事ではないが、彼はバラム国民ではない。イクスの望む情報は大して持っていないだろう。



 メリッサは他国からバラムの魔法学校に通う為に旅をしている。魔法学校は大抵が寮制で、寮から出られるのは7日に一度だと聞いた事がある。情報源として活用出来そうに無いのは明確だ。



 つまるところ、二人から信頼を得るメリットが無いのだ。寧ろ、下手にイクスの存在を知られる事でデメリットに繋がりかねない。



 それなのに、自分は彼らから信頼される事を望んでいる。


(5年の月日が、復讐心を緩和したってのか?)


 それはあり得ない、とイクスは直ぐ様否定する。


 では、一体何故…。


「きゃああぁぁぁ!!!」



 イクスの思考はメリッサの叫び声によって中断された。



 『マナブースト』を発動させ、メリッサの元へと向かう。



「どうしたメリッサ!?」




 そこには、水際に逃げる、一糸纏わぬ姿のメリッサが。



 普段着ているローブに隠された幼い肢体が、月明かりに照らされた水滴でキラキラと輝いていて、妙に扇情的な光景だった。


 それを見たイクスの脳が沸点を超え、思考停止した。


「あっ!イクス!!その、あの、へへ、蛇がいて、それで…。だから大丈…」


 そこまで言ったメリッサは、イクスが呆然としている事に気付き、不審に思って周りを見渡して、そして最後に自分の身体を見て…事態に気付いた。



「ふぐっ…………ひぅっ…………」


 途端に涙目になるメリッサ。だがイクスの時間は止まったままである。瞬きも、目を剃らしもしない。



「ばっ…………かぁあぁぁぁぁ!!!!!」


 胸と股を隠すのに両手を使っていたメリッサは、グーの変わりに蹴りを放った。イクスの…股間に。


 それをただ呆然と構えていたイクスが防げる筈も無く、彼は白眼を剥いてぶっ倒れた。







◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎




 ジルギスが商品の点検をしていると、メリッサがイクスを担いで帰って来た。


「なっ…!!どうしたんでぃ!!一体何が…」


「…天罰が下っただけよ。気にしないで」



 僅かに頬を染めるメリッサが答える。


 それを見逃さなかったジルギスは、ニヤリと笑った。


「なぁ〜るほど。イクスもやるじゃねぇか」


「五月蝿い黙れ中年肥り」


 メリッサの強烈な切り返しに打ちのめされたジルギスは、暫く元気が無かった。







◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎



 次の日は、朝からイクスがヨハンとルーの手綱を握っていた。



 何故なら昨日はイクスが目覚める事は無く、代わりにジルギスが見張りをしたからだ。


 因みにメリッサとは目が覚めてから一言も口をきいていない。


 何だか気まずくて、話かけられないのだ。




(嫌われたくないとか…昔なら絶対考え無かったのにな…。何が自分を変えたんだろう?)


 しかし答えは出ず、堂堂巡な気がしてならない。


「はぁ…何だかなぁ…」



 誰にも聞こえないように呟き、空を見上げた。



 (もう直ぐ太陽が真上に差し掛かるな。そろそろジルギスを起こさないと…)


「メリッサ、ジルギス起こして」


 イクスは幌越しに言うが反応は無い。

 無視されてるのか、若しくは寝てるか。

 イクスは馬達の歩みを止めさせ、幌を覗き込んだ。







◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎



(き…気まずい。気まず過ぎる…)


 メリッサは馬車の隅で小さくなっていた。頭には、イクスの言った通り籠を乗せている。



(昨日は思わず蹴っちゃったけど…イクスはアタシが心配だったから来てくれた筈なのよね…。でもアタシの裸を凝視してたし、あれ位当然…?かしら。むうぅ〜〜〜〜…)


 朝は恥ずかしさと気まずさから話をしなかった、否、出来なかった。


「はぁ…」


 メリッサは溜め息をついた。




「メリッサ、ジルギス起こして」


 やきもきしているメリッサに、彼女を悩ませている人物から唐突に声がかかる。


 なんで今のアタシの気持ち察してくんないかな〜、と思ったメリッサは、寝たふりをして無視することにした。



 暫くそうしていると、馬車が不意に止まった。


 どうしたのだろうか?とメリッサが思っていると、幌の向こうからイクスが顏を覗かせた。

 薄目を開けていたメリッサは直ぐに目を閉じる。バレていないだろうか?と思うと、心臓が早鐘の様に脈打つ。


「なんだ、メリッサも寝てたのか」



 どうやらメリッサが起きていることに気付いてないらしいイクス。メリッサがほっとしていると、イクスが自分に近付いて来るのを感じた。


 足音はメリッサの目の前で止まる。

 一体何をされるのだろうか?と、メリッサは内心身構えていると、イクスがしゃがみ込んだみたいだ。



「寝てる…よねぇ?大丈夫かな…?」


 その言葉の意図するものは分からないが、変な事をしたら叩き殺そう。

 そう決意したメリッサは、とりあえず様子見をしてみる。



「…よし。えぇっと…メリッサ?」


 なに?と起き上がりそうになったが、何とか堪えた。


「その…昨日の事なんだけどさ…。本当にゴメン。あの、その、覗こうとか思ってたんじゃ無くて、メリッサが悲鳴を上げるからさ…。何かあったのかって心配で、気付いたら飛び出してたんだ。

 そしたら、まぁ当たり前だけどメリッサ裸だったろ?だからって訳じゃなくて、その、何だろう?月明かりに照らされたメリッサの姿が凄く綺麗だったからさ、見とれてたっていうか、びっくりし過ぎて半分意識がトンでたっていうか…。

 とにかく、ゴメン。もうちょっと慎重になるべきだった」


 しどろもどろになりながら話すイクスの言葉を聞いていたメリッサは、申し訳なさと恥ずかしさで顏が赤くなり始めるのを感じた。



(…アタシが全面的に悪いのに…。ってそれより!!今アタシに“綺麗”って言った!?ななな、何言い出すのよ!!バッカじゃないの!?

……うぅ〜〜〜〜……。顏が熱いよぅ…)


 目の前でメリッサがどんどん赤くなっていくのにも気付かず、イクスは呟く。



「うぅ〜ん、こんな感じかな?あ…、でも思った事そのまま言ったらマズイかなぁ…?んじゃあ、どうやって言ったらいいんだ?う〜〜ん……。まぁ、何とかなるか?」


(えぇ〜!?今の練習ですって!!ここ、コイツ、寝てるアタシを練習台に…)


 乙女心の全く分かってないイクスに怒りが沸き上がってくるが、当の本人はメリッサが寝てると思っているのだ、まぁ仕方ないだろう。


「あ、そうだ交替。お〜い、ジルギ…ん?」



 ヨハンとルーの嘶く声が聞こえるが、どうも様子がおかしい。これは…怯えている?


 イクスもメリッサと同じ考えだったのか、急いで幌から出て、外の様子を伺いに行った。


 メリッサが再び薄目を開けていると、イクスが顔色を変えて戻って来た。


「ジルギス、メリッサ!!!起きろ!!」


 イクスの怒鳴り声で、ジルギスが飛び起き、メリッサはビクッと肩を震わせる。


「なんでい!?」


「どうしたの!?」



 緊張が色濃く顔に出ているイクスが言う。


「とにかく外へ!!」







 3人が外に出ると、あり得ない光景が広がっていた。


「ウソ………」


「な…んだってんだ…。ありえねぇだろ…」







 イクス達を乗せる馬車の眼前には、バイソンウルフの大群が待ち構えていた。

 次話で一章最初で最後の本気戦闘をイクスにして貰います。(作者は一応王都までを一章と考えています)                       ご意見、感想、評価等、随時お待ちしております!

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