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第三話 セルクエィドの剣

 お金について。この物語の中の通貨を円に換算すると、           銅貨1枚=100円                 銀貨1枚=1,000円               金貨1枚=10,000円               です。

 イクスは今、ジルギスのテントの前にいる。約束通り、武器を見せて貰う為だ。


「いゃ〜おめぇさんが快く承諾してくれて助かったぜ!!あぁ、早くセルクエィドに帰ってこの刀を調べてぇなぁ…」


「何言ってんのさ。あくまで『取引』だよ。俺が欲しいと思う武器が無かったら、返して貰うからね。言っとくけどそれ、めちゃめちゃ高いんだぞ!?」


 ジルギスの腕には、1本の刀が握られている。鞘に雪の結晶の装飾のあしらわれた、先程の刀に比べれば少し見劣りするものの業物と呼ぶにふさわしい刀である。


「ジパングでは武器に名を付けるって昔聞いたんだがよぉ、本当かぃ?」


「あぁ、刀は大抵名があるよ。そいつは『霧霞(きりがすみ)』。抜いてみなよ。名の意味が分かるから」


 首を傾げるジルギスは、とりあえずイクスの言う通り刀を鞘から抜く。


「おぉ…こりゃまたすげぇな…」


 ジルギスが感嘆の声を上げるのも頷ける。


 『霧霞』は淡い黒青色の刀身の白刃が、霧が掛ったかの様に白いのだ。

 ジパングではそれなりに名の通った刀鍛冶の作品で、見た目の美しさとそれに違わぬ切れ味からイクスのお気に入りの一つでもあった。

 そんな愛刀を手放したくは無いが、セルクエィドの武器にも興味はあるし、何より武器商とは繋がりを持っておくべきだとイクスの直感が告げていた。


「これに見合う武器かぁ〜…。出し惜しみは出来ねぇな、こりゃ」


 そう言いながらも霧霞を食い入る様に見つめるジルギスの足が止まる。


「あ、もうちょい手前だった」


 そう言って踵を返すジルギスに、イクスは溜め息をついた。


「いや〜、わりぃわりぃ。コイツに見とれ過ぎた。ほら、ここだ」


 ジルギスはイクスをテント内に入る様に促す。

 テント内には木箱がうず高く積み上げられている。


「こんなとこで寝られるの?」


半分呆れた様にイクスは言う。


「おうよ。武器はっと…おぅ、この一画だ。箱は好きに開けていい。まだ世に出てない新作もあるんだぜ?」


ジルギスはニヤリと笑うが、セルクエィド産の武器を初めて見るイクスにはどれが新作かなんて分からない。


「んじゃ遠慮なく。…こっちは短剣、こっちは…槍か。本当に何でもあるんだね!!」


まぁな、とジルギスは鼻の下を人差し指で擦り、自慢気に頷いた。


そんな中、イクスは不自然な箱を見つけた。

 槍を入れる箱並の長さをした箱だが、槍とは別個にされている。箱を開けると、分厚い布に包まれた武器が鎮座していた。


「なぁジルギス、これなんだ?槍にしちゃ太すぎるし、剣にしちゃでかすぎる」


「おぅ、よく気付いたな。そいつは新作の試作型よぉ。見たいか?」


コクリと頷く。


固く縛られた布をジルギスが外すと、そこには変わった形状の大剣があった。


「『タイタンブレード』だ。刀身2メートル、刃幅45センチ、柄が30センチ、重さ12キロの企画外のバケモンよ。対中型〜大型モンスター用に作られたんでよぉ、並の人間じゃ持ち上げるのも困難なんだがな」


 片刃で剃りのある湾刀だが、刃先の峰が一部欠けていて、片刃と同様の剃りをみせている。


「なぁジルギス、なんでここだけ欠けてんだ?」


「欠けてんじゃあねぇさ。コイツを打った奴のこだわりさ」


ふうん、と頷きながら別の箱を開けていく。


 セルクエィドの武器は素晴らしい物ばかりだった。儀礼用の剣の装飾は豪奢な物が多くあるし、実用目的の武器にも必ず控え目な装飾が施されている。

 形状も様々で、刀身が波打った剣もあれば、刃も峰もギザギザの2刀1対の双剣もある。

 ジパングでは刀、シン王国では湾刀や長刀(なぎなた)が主流だったので、見る武器ほぼ全てが真新しく見える。


「なぁなぁジルギス、他に珍しい武器って無いのか!?」


 キラキラと瞳を輝かせるイクス。


 ん〜、と暫く唸っていたジルギスだが、剣の入った箱をごそごそと漁り始めた。


「ジルギス。その箱もう見たよ?」


だがジルギスは顏を上げない。


「おっかしいなぁ、ここじゃなかった…お、コイツだ」


 ジルギスが顏を上げ、一振りのバスタードソードをイクスの前に置いた。

 柄尻に口を開いた龍の頭の装飾がなされている以外、普通の剣に見えた。


「柄に龍の頭付いてるだけじゃん」


 その言葉にジルギスは不敵な笑みを浮かべる。


「いやいや、コイツが只の剣だと思ったら大間違いだぜ?コイツも企画外の代物よ。ここは狭いから、外に出よう」


 その剣を持ったままテントから出るジルギス。

イクスは頭に疑問符をいくつも浮かべながら後に続いた。


 テントから出ると、ジルギスはイクスに剣を渡す。


「とりあえず、振ってみな。おめぇさん剣士なんだろ?なら簡単だろぅ?」


「馬鹿にしてんのか?これくらい余裕だよ!!」


 イクスは乱暴に剣を受け取ると素振りを始める。


「ん?見た目より…重い?」


「どうでぃ」


「どうって言われても…普通よりちょっと重いだけじゃん」


 その言葉にジルギスは笑みを深くする。


「んなら、柄の龍あんだろ、その口閉じてみな。振りながらな」


 イクスはその笑みの真意が分からなかったが、とりあえず言う通りに剣を振るう。

 目の前に敵がいると想定し、斬撃の瞬間に龍の顎を、閉じる。


 その瞬間ガチン、と何かが外れる音と共に、一気にリーチが倍以上に伸び上がった。


「え?伸びた…!?いや、これは…」


「ソイツは『スネークボーン』。仕込み武器の発展型だ。すげぇだろ!ウチの若い衆の合作だぜ!?」


 『スネークボーン』は刀身が7つに分割され、細い鉄糸の束で繋がっていた。


「元の形が只のバスタードソードだからな、相手の意表を突くにはもってこいでぃ。斬線が読みにきぃから、腕次第で変幻自在の攻撃が出来る。リーチもなげぇしよ」


確かに、鞭の様にしなる剣は初めて見た。


何度か振り回し、感触を確かめる。


「これ、強度は大丈夫?」

「おぅよ!刀身は鉄製だけどよ、中はヴィステリク鋼を極細の糸状にしてある!強度はかなりのもんだ!」


 これにはイクスもかなり驚いた。


(鉄糸だと思ったらヴィステリク糸だって!?希少金属をこんなに使って…確かにこれは企画外だ!!)



 ヴィステリク鋼はセルクエィドのみで発掘される金属で、発見される量もかなり少ない。特徴として、融点が鉄の倍以上でかなり溶けにくく、急激に冷やすと青銅より脆い。

 がしかし、3日3晩一定の温度を保ちながら冷やす事により、ゴムの様な伸縮性を持ち、硬度も8まで跳ね上がるという特殊な性質を持つ金属である。


 イクスは『スネークボーン』を袈裟斬りに振るい、振りきる直前に持ち手を上下に小刻みに振る。するとあたかも蛇の如く斬撃がうねる。


「成る程、『スネークボーン』か。ぴったりの名前じゃないか!」


 それを聞いてジルギスも嬉しそうに笑う。


「だろ?やっぱ伝統にこだわってばかりじゃなくてよ、新しい風も取り入れてみるもんだよなぁ!」


 そこでふと気が付く。


「これ、『スネークボーン』だよね。なのに何故龍?あとさ、どうやって元に戻すの?」


「最初は蛇の頭だったんだがよ、若い衆が『蛇の頭じゃカッコ悪いから、龍にしてみよう』って言ってよ、龍に変更されたんだ。因みに、龍の頭を手前に引くと戻るぜ」


 それを聞いたイクスは苦笑しながら、元の剣状に戻した。










 日も暮れて、夕飯の支給が始まったと聞いたイクスとジルギスは、交渉を一旦中止して、夕飯にありついていた。


「聞いていいか?イクス」


「んぅ?」


野兎の肉を頬張りながらイクスは首を傾げる。


「おめぇさん、ここまで5年かかったって言ってたよなぁ?」


 イクスは頷く。


「俺の計算じゃ、どんだけ時間食ったとしてもジパングからここまで3年しかかからねぇと思うんだが…」

 イクスは肉を飲み込んで答える。


「うん、本当はね。実は2年程、シン王国で足止めを食らってて…」


「何ででぃ?」


 イクスは頬を掻くと、苦笑して答えた。


「知らない?ここ数年、シン王国の王の後継者争いで内紛が多発してたって」


 ジルギスの顏が真剣になる。


「初耳だぜ…」


「そっか…。意図的に情報封鎖されてるのかもね。で、旅人は皆スパイ扱いされてね、捕まってたんだ。んで、2年牢屋に入れられてる間に後継者争いは終結、シン王国は新しい王に代替わりしたんだ。

 でも新王を良く思わない人間も多いから、まだ内紛は続いてるだろうね。

 そんな情報が外に漏れたら他国が付け入る隙が出来てしまうから、多分こっちに情報が来てないんだと思う」


「なら旅人は普通内紛が終わるまで監禁されたままか殺されるはずじゃあねぇか?なんでイクスはここにいるんでぃ?」


「まぁ、その、脱獄してきたっていうか…ね?」


 ジルギスの顏が強張る。


「じゃあイクス、てめぇ…」


「うん、お尋ね者、さ。まぁ『元』だけど」


「『元』?」


「俺は1年前に『死んだ』事になってるからね」


「どういう事でぃ?」


「言葉通りだよ。身代わりを使って、『死んだ』事にした」


「おめぇさん…」


 ジルギスが言葉を紡ごうとした時、地響きと共に叫び声が上がった。


「なっ、なんでぃ!?」


 関所の北東から商人が逃げてくる。地響きの原因はそちらにあるらしい。


 ジルギスは逃げ惑う商人の一人を捕まえる。


「何があったんでぃ!?さっきの地響きの原因は?」


「ワームドラゴンだ!ワームドラゴンが突然現れたんだよ!!」


 そう叫ぶと、商人はジルギスの腕を振りほどいて走り去った。


「ワームドラゴンだって?Cランクモンスターが何でこんな場所に!?」


 モンスターは危険度に応じてA〜Eにランク付けされている。Eランクは獣程度の強さでしか無いが、Aランクとなると一国の正規の軍隊が半壊してやっと倒せる程である。


 ワームドラゴンはCランクモンスターで、名の通りドラゴンに部類される。土の中で生活しているので目と耳は退化していてほぼ使い物にならないが、その分鼻が異常に発達していて主に家畜を餌とする、シャムガイア南部〜中部に主に生息しているモンスターだ。

 見た目はミミズのそれに酷似していて体表も柔らかいが、汗腺と口から強い酸を放つ。


「マズイな…今回の旅馬車は商人ばかりで戦力が少な過ぎる…。だからあれほど傭兵を雇えと進言したってのに」


歯軋りするジルギスをヨソに、イクスはジルギスのテントに駆け出した。


「あっおいイクス!!」


「ジルギス、『スネークボーン』と『タイタンブレード』、借りてくよ!!」


「おぃ!!まさか…やりあうつもりか!?馬鹿げてやがる!」










 『マナブースト』を使ったイクスはすぐにジルギスのテントに到着した。

 布に包まれた『タイタンブレード』と『スネークボーン』を乱暴に取り出すと、それぞれの柄に触れる。



「『ディメンション・マジック、コントラクト』」


 両手の甲数センチ上空に淡い紫の魔法陣が浮かび、同じ魔法陣がイクスの掴む剣の鍔に刻まれる。

 柄から手を離すと同時に、イクスの目の前にあった剣が消え去った。


「急がないと…」


 ディメンションマジックを待機状態にしたまま、イクスは再びマナブーストを発動させてワームドラゴンの元へと走る。

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