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第二話 刀

 主人公が元から異世界の人間なんで、世界設定等は前書きに書こうかと思います。           本文で上手く説明出来る自信が無いだけです、ハイ。                        マナ:有機生命に宿る生命エネルギー。誰でも微量なら持っているが、魔法を発動させられる程多くはない+自分の意思で操れない。                        魔術士:マナを身体に多量に内包しており、マナ制御に卓越した者の総称。魔術士もしくはそれだけの才のあるものは皆、それぞれの国の魔術士養成学校に通い、魔術士に成る為の訓練を受ける。

 イクスは何とか疑いを晴らしてバラムに入国出来たことにほっとして一息ついていた。どうやら今日はここで夜営をするらしく、通行証をチェックし終わった人々が簡易テントを立てている。その風景を眺めていると、先程の大男が歩み寄って来た。


「よぉボウズ。さっきは大変だったみたいだな」


「あれ?おっちゃんあの場所に居なかったのに何で知ってんの?」


その言葉にジルギスはニヤリと笑う。


「おめぇさん、結構ウワサになってんぞ?なんせ『神秘の国ジパング』からの旅人だそうじゃねぇか」


 イクスはその言葉に苦笑しながら頷いた。



「そういやぁ自己紹介がまだだったな。おれっちはジルギス・グレゴリオ。武器工と武器商をやってんだ」


そう言ってジルギスは手を差し出す。


「イクス・ハイド・カリヴァディアだ。旅人をしてる…ってのは何か変なカンジだな」


首を傾げながらもジルギスの手を取り、握手を交わす。


「確かイクスも王都まで行くんだよな?なら仲良くしようぜ」


「ジルギスも王都に行くのか?」


「おぅよ。最近バラム王都西のカリム地方で中型モンスターが多発してるらしくてよ、その影響か武器が高値で売れるのよ。だから、おれっちも市場拡大の為に駆り出されたって訳よ」


 からからと笑うジルギスにつられてイクスも笑う。


「じゃあ、運んでるのは武器?」


「武器だけじゃねえ。防具や包丁、鍋などなど、金属なら殆どなんでもあるぜ」


ジルギスはえへん、と自慢気に胸を反らせた。


「そっか…。なら後で武器を見せてくれないか?セルクエィド産の武器はまだ見たことないからさ」


「おぉ、いいぜ。しかし武器を見たいか。イクスは武器を扱えるのかぃ?」


「当然だろ?ジパングじゃ成人したら皆刀を持つんだ」


「カタナ…?ひょっとしてそりゃ、ジパングの武器か?」


「あ、あぁ。ジパングじゃそう珍しくは無いけど…」


ジルギスは興奮して矢次早に質問をする。


「どんな形状だ?強度は?何を素材にしてる?どのくらい切れるもんなんだ?」


 流石にイクスもこれには慌てた。


「ち、ちょっとジルギス!落ち着けよ」


しかしジルギスの興奮は収まらない。


「落ち着いてられっかよ!ほぼ詳細不明のジパングの武器が知れるんだ!!武器に携わるものなら喉から手が出るほど欲しい情報だっての!!」


余りの勢いにイクスはたじろぐ。


「わ、分かったよ。教えるから落ち着けよ!いい歳したオッサンが興奮しちゃって…」


 ジルギスは頷いて深呼吸をしているものの、その目は依然爛々と輝いている。


「うし、落ち着いた。さぁ話せ」


「あ、あぁ。刀ってのはジパングに古来からある武器で、原材料は鉄…砂鉄を使ってる。形状は少し剃りのある片刃の剣で、刃渡りは1メートル程度、厚さは1センチ位かな?刃幅は3センチ程度だったかな」


ここまで話すとジルギスが手を挙げる。


「そんなに薄くて、強度は大丈夫なのか?」


「強度はそれなり、かな。でも鋳型に填めて作る剣に比べれば、強度も切れ味も段違いに高いよ」


「ほぅほう…。切れ味は?」


「そうだな…。質の良い刀なら、鉄も易々と切り裂くよ。まぁ使い方によるけどね」


「そりゃすげぇや…。使い方ってのは?」


「あ、うん。刀は一般的な剣と違って、『叩き切る』事には向いて無いんだ。さっきも言ったけど、刃は薄いし刃幅も短いからね。無理するとすぐ折れちゃうんだ。

刀は『引き切る』のがコツなんだ。そうすれば刃溢れしにくいし、最大の切れ味を引き出せるんだ。後は…『突く』のもそれなりに有効かな?」


 その後小1時間は質問攻めされたイクスはへとへとだった。彼は刀鍛冶ではないので、持っている知識も一般常識程度でしか無いのにジルギスは専門的な部分にまで踏み込む勢いだった。



「…とまぁ、俺が知る刀の情報はこのくらい。俺は鍛冶屋じゃないから、これ以上は分からないんだ」


 一方ジルギスは未だ興奮したままである。


「うぅ〜ん、まだ知りたい事は山ほどあんだが、知らないんじゃ仕方ねぇなあ。せめて実物があればよぉ…」


ん?と、首を傾げるジルギス。


「どうした?ジルギス。まだ聞きたい事があるのか?」


「いやよぉ、イクスはジパング出てから5年経つって言ったよなぁ?」


「うん。そうだけど?」


「おめぇさん、旅費はどうした?」


「あぁうん、これでも一応傭兵ギルドに入ってるからね、その報酬で細々やって来たんだ」


 その言葉にジルギスは怪訝そうな顏をする。


「その細っこい腕でかぁ?」


 イクスの腕は常人より長いが、筋肉は余り付いているとはお世辞にも言えなかった。とてもじゃないが武器を扱う様には見えない。



「うん、でもモンスターばかり狩ってたから、対人は余り経験無いな。それに、モンスターの方が報酬良いしね」


 ジルギスはなるほどと思った。小型のモンスターならイクスの細腕でも何とかなりそうだ。そういうモンスターばかり狩って来たのだろう。

 だが、そこで新たな疑問が浮かんだ。


「イクス、おめぇ武器は?まさか素手でモンスター狩ってた訳じゃあねぇだろう?」


「あぁ、武器ね。持ってるよ?」


 イクスは曖昧に笑って答えた。イクスの武器保管方法は、常人に比べ余りにも異質過ぎるので、上手く説明出来る自信が無かった。


「持ってるって、どこにだ?普通槍みたいな得物でもない限りは、腰や背中に帯剣するのが普通だろうがよ」


 きょとんとするジルギスに見つめられて、イクスは更に困ってしまう。


(う〜ん、どうやって説明したらいいんだ?)


 頭を抱えてうんうん唸っていたイクスだが、名案が浮かんだ。


「えぇっと、俺は『魔法剣士』なんだ。だから武器を持ってないのさ」


ちょっと苦しいか?とイクスは思ったが、あながち間違いではない。

 確かに彼は、魔法を使って武器を『収納』している。


 更に疑問に思ったのか、ジルギスは質問を続ける。


「ちょっと待て、イクスが仮に魔法剣士だとしても、魔法を操るには何かしら媒体がいるはずだよなぁ?魔法剣士なら普通武器が媒体の筈だが…。おめぇさん、嘘言ってんじゃねぇかぁ?」


「ホントだって。…う〜ん、見せた方が早いのかな?」


「おぅ、やってみろぃ!!」


 イクスは渋った。彼はまだ会って少ししか経って無い。つまり信用出来ないのだ。

 ジパングを出てから初めて知ったのだが、彼の扱う魔法はシャムガイアはおろかシンガイアですら使われてない、彼の師匠オリジナルの魔法だったのだ。

 故に出し惜しみをしてしまう。これは彼が師から受け継いだ最強の魔法の基礎にもなっているので、イクスは余計慎重になっていた。


(でも、いずれは使う事になるんだしなぁ…。『本来の使い方』さえ見せなければ大丈夫か?どうせ『アレ』は腕輪のせいで使えないし…)


 イクスは思案しながら左手首の銀細工が施された腕輪を見た。

そして意を決すると、ジルギスに数歩下がる様に指示した。



「んじゃやるけど、他言無用で頼むよ?」


「おうよ」


 イクスは溜め息を一つつくと、体内のマナを練り上げる。


『ディメンション・マジック』


 イクスの詠唱と共に両手の甲数センチ上空に淡い紫色の魔法陣が現れる。

 イクスが左手を振るうと、その手の中には刀が握られていた。


「おぉ!!、『圧縮魔法』かぁ!!その腕輪の装飾に隠してたのか?」


 シャムガイアでも上位魔術士しか使えない『圧縮魔法』をイクスが使った事にジルギスは感動を覚えた。


 だが戸惑うのはイクスである。


「『圧縮魔法』?」


「あぁ、物体を重力操作系の魔法で圧縮しまくって無理矢理体積を小さくする魔法だろ?あまりデカイ物は圧縮出来ないらしいがな。なんでぃ、ジパングでは別の呼び方してたのか?」



 イクスはこの地にそのような魔法がある事に驚愕したと同時に、しめた、と思った。

 実際彼が使ったのは『空間制御魔法(ディメンション・マジック)』だ。空間を捩じ曲げて、ほぼ無限に物の収納出来る空間を生み出すのが彼の魔法の本質である。無論、自分の作った空間なので物の出し入れは自由、自分以外はその空間に干渉出来ないという利点も持つ。

 このような魔法があると知れば、誰もが教えを請うだろう。

 だがこれは師匠秘伝の技。教える訳にはいかないのだ。


(今、ジルギスは『ディメンション・マジック』を『圧縮魔法』と勘違いした。 なら今後は『圧縮魔法』って事にしとくかな。その方が何かと都合が良さそうだ)


「あ、あぁ!!そうさ!!こっちじゃ『圧縮魔法』って言うのか。知らなかったよ!!」


「そこが文化の違いだよなぁ!!しかし『圧縮魔法』が使えるって事は、イクスは相当上位の魔術士なんだなぁ!!おったまげたぜ」


 ジルギスの言葉に、イクスは内心焦りを覚えた。


(マズイな、このままじゃ上位魔術士だって勘違いされてしまう。まだ事を荒立てる訳にはいかないのに!!)


「い、いや違うよジルギス。俺は『圧縮魔法』しか使えないんだ」


「はぁ?」


 ジルギスの興奮が一気に冷めていく。


「じゃあ、初級魔法も使えないのか?」


「うん」


「属性魔法も…?流石に火を指先に灯す位は…」


「…出来ないんだ。あ、でも『マナブースト』は出来るよ?」


 その言葉を聞いたジルギスは、ガックリと肩を落とす。


「なんでぃ、『圧縮魔法』と『マナブースト』しか使えないとかよぉ。期待して損したぜ」


 落胆するジルギスを見て、イクスもまた複雑な心境になった。事実、彼は『ディメンション・マジック』と、身体能力向上魔法『マナブースト』以外の魔法は使えないのだ。

 『マナブースト』は、体内のマナを一気に活性化させる事で身体能力を爆発的に上げる、『初級魔法』だ。魔法に携わる者なら誰しも使える、初歩の初歩の魔法である。



「あ〜あぁ…あ?イクス、それ何だ?」


 イクスが『圧縮魔法』(本当は『ディメンション・マジック』)を使った事にのみ注意がいっていたジルギスは、今やっとイクスが何を持っているかに興味を示したようだ。


「あぁ、コレ?さっき話してた刀だよ」


「おぉおぉぉ!!!見せろ!!いや見せて下さい!!」


 ジルギスの必死の形相に気圧されたイクスは、鞘に収まった刀をジルギスに差し出した。


 目を爛々と輝かせるジルギスは何故か正座して刀をゆっくりと、壊れ物を扱うかの様に鞘から抜いた。


「おぉおおぉぉ…研ぎ澄まされた刀身、波打つ水面の如き乱れ刃紋。人を魅了する何かと、殺意とを内包しとる…美しい…。こりゃあ、武器という名の芸術だぁ!!」


 刀を褒めちぎるジルギスに、イクスは何だか気恥ずかしく思った。

 ふ、とジルギスを見ると、何か言いたそうな顏をしている。


「どうした?ジルギス」


「いやよぉ…イクス。物は相談なんだが…。この刀、おれっちに譲ってくれねぇかなぁ、なんて…」


 イクスは目が点になった。普段使い慣れている故に無意識に出した刀は、イクスが『奥義』を会得した祝いに師匠から譲り受けた業物である。


「ごめんジルギス、この刀はダメだ。もう少し質の落ちるのなら何本かあるけど…」


 だがジルギスは食い下がらない。


「勿論タダなんて言わねぇ!!俺の運んでる武器を代わりにやる!!好きなのをだ!!何本でも持ってって良いからよぉ、な、な?」


 ジルギスの気持ちも分からない訳では無いが、この刀だけは特別だった。だからイクスも譲れない。


「これだけは譲れない。師匠から譲り受けた物なんだ」


 ジルギスはまだ何か言いたそうにしていたが、諦めが着いたのか直ぐ様話を切り替える。流石は商人といった所か。


「さっき“コレより質の落ちるのがある”って言ったよな!?それも見せてくれねぇか?いや、譲ってくれよ。タダとは言わねぇ。セルクエィドの武器をやるから、な?」


…しかも記憶力も良いらしい。

 しかしイクスもセルクエィドの武器には興味があったので、快く承諾した。

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