いせかい
「異世界」と聞いて何を思い浮かべますか?
「剣と魔法の世界」でしょうか?
昨今の、というか僕がなろうに生息し始めてからずっと、ですけれども、異世界と言ったら即ち「剣と魔法の世界」であるような風潮があると思います。かくいう私も、わりと前から剣と魔法、とりわけ魔法の存在する世界を舞台にしたミステリを書いてみたいな、と思っていたものです。
しかしながら、どうもミステリ(特に本格ミステリ)と魔法というものの相性がよろしくないような気がするのです。おそらくこの文章を読んでいる多くの方が感じていることと思います。
「魔法とかスキルとか権能とか、とにかくそういう摩訶不思議な力をミステリに使うって、それってとってもアンフェアじゃん!」
僕も思います。思っていました。
「いかにして不可能犯罪をなしえたのか?」という疑問に対して、最終的に明かされる解答の爽快感や納得感、そのようなものが求められているという側面がミステリにはあると思います。逆に、読者が納得しかねるような答えを用意してしまうと、それは駄作であるという烙印を押されてしまう――そんな気さえします。
だからこそ、僕は「フェアであること」が読者を納得させるミステリを作るための最重要点であると考えてきたわけです。というか、今もこの考えは変わらないし、今後もずっと意識し続けると思います。
そういう観点に立ってみると、魔法という存在のまあよろしくないこと。「どうやって殺したんだ???」の答えが「答えは簡単、魔法を使ったのだ!!!」だったら、読者から「そんなの何でもありじゃないか!!」と苦情が来ますよ。
それじゃあ魔法の存在しない世界を描けばよいのか? とも思いますが、それならおとなしく現実世界をネタにミステリを作ったほうが賢明です。そういうわけで、どうも異世界とミステリは相性が良くないという結論に至るわけです。
しかしながら、最近は条件によっては全くそんなことはなく、むしろ限りなくフェアな状態のミステリを作ることができるのではないかと思い始めてきました。
条件によっては――随分とあいまいな言い方ですね。僕が思う条件はただ一つ、「その世界で明らかになっている魔法の原理がしっかりと作中で明記されていること」です。
詳しく話す前に、まずは「科学」がなぜフェアであるとされているのかについて考えてみたいと思います。
ミステリのネタを作るにあたって、「科学的な事象」をトリックに盛り込んだりすることがあります。それに対して「アンフェアだ!」と叫ぶ(叫ばれる)ことって、あまりないですよね? あるとすれば、「そんなん知らないよ……」と大多数が思う現象に対して、でしょうか?
まあ言ってみれば当たり前なのかもしれませんが、どうしてなのかと少し考えてみました。僕なりの答えはこうです。
「社会」において正しいと認識されている現象、すなわち「みんなが知っている」現象については、作中で触れなくとも「前提条件」として読者に受け入れられる。
「みんなが知っている現象」というのは、ひっくり返してみると「『そんなん知らないよ……』と大多数が思う現象」になります。この「みんなが知っている」「みんなが知らない」というのが大事なところで、魔法というものが扱われる際に、ありきたりな設定だからと説明を省いたり、細かいところが煮詰まっていなかったりすると、簡単に「みんなが知らない」状態になってしまいます。その結果、「アンフェアじゃん!」と言われてしまうのではないでしょうか。
裏を返せば、作品を作る前段階でしっかりと「魔法」の原理などを完璧な状態に詰めておき、なおかつそれを作中でうまく明示することができれば、異世界ミステリは「究極のフェアミステリ」に昇華するのではないかと思います。なぜなら、「みんなが知っている」科学というのは≒「大多数の人間が知っている」科学であり、当然知らない人も存在するのに対し、しっかりと原理が明記された魔法はすなわち「その作品を読んだ読者すべてが知っている」魔法になるためです。もっといえば、前提条件を社会に委ねるのが「科学」であるのに対し、自分の裁量で決められるのが「魔法」ということになります。
もちろん、簡単なことではありません。というか、完璧な理論を構築するのはほぼ不可能な気がしますから、この点においてやはり「究極にフェア」なミステリは作れないように思います。しかしながら、魔法を使うことで完全に自分のフィールド上でミステリを構築することができるようになるというのはなかなか魅力的です。
完璧に原理を作り上げる必要は、もしかしたらないかもしれません。現在の科学に似たような状態ですが、「魔法というものが研究途上であり、わからない部分もたくさんある」というようにすれば、十分運用可能なレベルまで落ちてくることでしょう。この際、「わからない部分」を答えにするという暴挙に出なければ、少なくとも「アンフェアだ!!」と糾弾されることはなさそうです。
というわけで、異世界とミステリに関するお話でした。なお、私の魔法理論が実用化されるのは、残念ながらとうぶん先のことになりそうです。